内田吐夢監督の作品群を俯瞰すれば反権力の姿勢は歴然です。
史実でも秀吉は秀次を死に追いやり、その妻妾と子を何十人もむごたらしく斬首した独裁者。
しかしその一件で自ら豊臣政権を弱体化させ、家康に付け込まれたわけです。

本作は戦国から江戸時代に移行する過程で、権力に翻弄された富田高定という武将を描いています。
秀次に殉死するはずが酒に酔って切腹を果たせなかった――。
こんな愚行が史実とは驚きですが、最終的に富田高定は関ヶ原で東軍に与して討ち死にしたとか。

本作での富田高定は二人の女性と色々あるのですが、そこで致命的なミスキャスト（個人の感想です）。
尺が限られるので観客は内面より表面的な美貌で女性の魅力を判断させられます。
ところが二人の美貌に差があり過ぎる。
（え？　富田さん、いったいこの女性のどこに惚れたわけ？）
（いやいや、アンタはどうしてそんなにまでこっちに拘る？）
大きな疑問が付いて回って、物語に入り込めませんでした。

監督は「豪放磊落でありながら時の権力に呑まれる一個人」の悲哀を描いたと思われます。
しかし令和の視点には身勝手すぎる男に思え、大友柳太郎のたびたびの大笑いもわざとらしく、共感しづらかったです。

ですが、良い面も盛りだくさん。
たった数分間のためにわざわざ屋内セットを組んだ河原。
その他にも広がりのあるオープンセット、見事なお屋敷。
予想外な人馬の数。
隅々まで行き届いた美術の素晴らしさ。

大友柳太郎が侍の血潮を抑え切れない槍舞は圧巻でした。
全編を通じてやや長回しでワイドスクリーンを生かしたカメラワーク。
大友柳太郎が関ヶ原の丘の上、カメラ前から合戦場へ騎馬で一気に駆け下り、そのままスタント無用で奮戦する――。大変な迫力で『赤毛』の三船敏郎を凌いでいます。

レビュー総数が1億を超えるというフィルマークスにあって、本作のレビューはわずか65件。
あまり知られていない作品ですが、東映時代劇の底力を見せつけられました。

※原作は海音寺潮五郎さんの大好きな題名パターン『〇と〇と〇と』。
しかしまあ、女性は完全にモノ扱いですね……。

左近の気持ちが最後までわからない主人公を大友柳太朗さんが演じる。

女は男をあきらめ、男はいくさをあきらめられない。女の意地と男の意地を上手く描いた作品。
腹を切れなかった主人公は、腹を切った女の前にどうにもならない。

戦場において死を選んだ主人公は、自分の帰る場所をつくらぬよう両陣営に槍の鉾を向ける。
自分を慕っていた女に対するケジメをつけるべく暴れまわるのだった。

男は未練を断ち切れずサムライに出戻り、女は未練を命を絶つ程の一念として存在する。
女の亡き骸を見て、男の一言。『不覚』。

どうにもならない男の不甲斐なさはアンソニークインの『道』を彷彿させる。
ガキには決して分からない作品だろうなあ。。
それにしても淡島千景さんの際立つ美しさが脳裏に残る☺️
カラー作品

【残酷劇としての強度】

同じ内田吐夢の『浪花の恋の物語』や『妖刀物語・花の吉原百人斬り』と同じく封建社会の不条理性をシビアな視点で抉った作品と言える。鑑賞後はやり切れない気持ちになりショボ〜ン😞となる。原作は海音寺潮五郎。

主演の大友柳太朗が風通しの良い槍使いの二級武士を演じているが、無理やり切腹を止められて農民生活に戻ったり再びお上の指令で戦(いくさ)に参加させられて死んだりと、とにかく不条理。ある意味、日本社会の醜悪な面を見せられているようでキツい。💦

結局、戦国時代の武士なんて今で言えば会社イノチのサラリーマンに過ぎず、巨大権力に利用されて最後はチョンボする始末。現代に於いても十分通用する普遍的な内容で観ていて憤りの感情が湧いてくる。やはり本作を観る限り内田吐夢は相当なインテリ。不覚！🤔