この首一万石の作品情報・感想・評価

「この首一万石」に投稿された感想・評価

巨匠・伊藤大輔の傑作時代劇。槍持ちの人足の運命を前半はエネルギッシュな世話物で、後半は一転して壮絶な活劇で描く。伊藤大輔は群像描写が上手い。奥行きのあるセットを縦横無尽に群像をスピーディーに重層的に動かしていく様は見事。都々逸を唸る間に手前で流れるように女中たちが配膳を完了するワンカットは美しい。ラストの壮絶な殺陣は森一生が監督して伊藤大輔が脚本の「薄桜記」を彷彿とさせる。大川橋蔵が圧巻、素晴らしい。
前半のコミカルさからは予想もつかない後半の壮絶な乱闘シーン。腐ったサムライのおためごかしに命を張る羽目になった権三。その理不尽さたるや本当に腹立たしかった。
チェケ

チェケの感想・評価

5.0
これは凄い。喜劇から徐々に悲劇に雪崩れ込んでいくが、喜劇部分でもどことなく不穏な空気が漂う演出が一流。権三救出に来た人足たちも最終的には我が身かわいさに撤退する絶望感。小此木藩は手負いの人足一人もろくに仕留められんボンクラばかりやから一万十七石なんやろ。
前半は富士が綺麗だなーなんてのほほんと楽しんでいたらとんでもない方向へ話が進んでいくのでビックリした。今も昔も労働者はつらい。
佐藤

佐藤の感想・評価

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BS

日雇い人足が槍持って歩くとこからして移動大好きじゃんかー
江戸で人足をしている大川橋蔵、今度の仕事は九州まで大名行列の槍持ち
愛しい恋人江利チエミを残しての旅路となった
そして事件が起きる!途中の宿場で本陣を巡って他藩とバッティングしちゃう
そのささいなもめごとが悲劇を生む、、、!

やっぱり戦前からの時代劇の巨匠、伊藤大輔流石だなーって思った
1963年というと東映時代劇も末期近く、作風もそれまでの純粋な娯楽ものからリアリティのある、残酷描写のあるものへと変わっている時期
その中で冒頭から至って軽いノリ、今更大川橋蔵主演のワイワイ時代劇?と思っていたところで
中盤から流れが変わり、ラストに至っては当初からは想像もつかない凄まじさ、このギャップがうまいと思う

武家社会批判、その皮肉も良かった
小藩故になめられたくなくちょっと見栄張っちゃったんですよねー
大藩のほうもそれがあるから意固地になっちゃって意趣返し的にイジワルする
責任とかメンツとか大層なこと言っていても、実は双方とも事を大きくする気はない
悲劇を生んだ要因としては、ほんとに腹を切ろうとか極端に走る若者をなだめ止める存在の差かな
向こうには分別のある藤原釜足や香川良介がいたけれど、こちらの藩では佐々木孝丸が原健策や河野秋武、汐路章といった若者を抑えられず
武士でもない大川橋蔵にそんな格好をさせて責任を押し付けるとかムチャクチャ

ラストの大川橋蔵のくどいくらいの立ち回りも迫力あって良かった
ボロボロなのに橋蔵強過ぎ!って思わなくもないけど、やはり槍対刀の差、そして太平の世にあって実戦経験のない武士の情けなさもグッド!

あとは冒頭の人足寄場?の雰囲気も良かった
人足って聞いてもよくわからない仕事だったけど、今で言う派遣みたいな何でも屋な感じだったのかな?クジで派遣先を決めるのも面白かった

このレビューはネタバレを含みます

武士と町人の対立構造を描いた作品。
「すまじき物はなんとやら」という言葉が後々に活きてくる。

最後のシーンは圧巻。まあ武士の体面はともかく、町人一人になんてだらし無い連中だろうなとは思う。あれじゃ「たがや」だよ。
橋蔵が踊る奴さんは明らかにズレてて一瞬踊りが下手なのかと思ったが、そのすぐ後に、酒もない宴会で騒ぐ馬鹿馬鹿しさに嫌気が差して、踊るのを止めてしまう。カラ散財に乗り気じゃなかった訳ね。大体梨園の出で他の俳優より踊りが下手な筈もなく、要所要所で見られる橋蔵の、こういう芸の細かさに感心する。

藤原釜足上手いなあ...血気にはやる若侍を物ともせずに、武家社会を扇子一本で表現する老獪ぶり。

音楽は「炎の城」と同じく伊福部昭。大名行列でフリゲートマーチの編曲が流れるのは笑った。
江利チエミ声は良いがヒロインは合わない。
fmofmojimo

fmofmojimoの感想・評価

3.8
人足貸しの井筒屋で奉公する権三には、心に決めた女性がいた。しかし、元武士の父親が侍と名のつく者以外には娘をやらんと断られる。やけになった権三はさらに、くじで当たりをひき九州への道中人足に向かうことになる。

「すまじきものは何とか」という諺もあり
酔うたつもり、ご馳走を食べたつもりの空散財

江戸時代の粋な人足たちと、体裁ばかりの武士道。
ずっと陽気さが漂っていたからハッピーエンドかと思って見てたけど、人情があって融通が利くのは町人で、侍は狭い了見のなか取るに足らない自尊心をかぶって生きていて、という話だった。
必死の殺陣が、よけいに生々しくて。
いまの時代劇とはまた全然違う価値観で、おもしろい。
これが日本だ。ずっと続いてきて今なお続いて、これからもおそらくずっと続いて変わらない。子供の頃は思うんだよ、こんな大人になりたくないって。だけど大人になって世の中の仕組みが理解できたら屈服した方が楽だし得って気づくんだよ。だけどさそこで負けるなよ。戦い続けるんだよ。変わらないから黙るだなんてそれこそクソ以下だ。そんな事を再度自分に言い聞かせ奮い立たせてくれる映画で素晴らしい作品だった。
映画見て久しぶりに悔しかった。悔しくて泣きそうだ。脳がメリメリいってる。
糸くず

糸くずの感想・評価

4.3
宿場をめぐる藩同士のいざこざを通して、日本の組織にはびこる無責任と弱者が犠牲となって強者が守られるシステムを痛烈に批判した傑作。

「一万と十七石の小藩といえども、馬鹿にされてたまるか」というつまらぬ意地。そのつまらぬ意地を通すために生まれる、「家康ゆかりの名槍・阿茶羅丸を掲げての道中」という大嘘。お金によってあっさりと宿場をゆずるみっともなさ。「首を差し出したら、槍を返してやる」という脅しを真に受けるも、誰も腹を切ろうとはしない無責任。嘘の始末をつけるために、槍を置き忘れた人足を侍に仕立てて「腹を切れ」と迫る非情さ。「人足は下郎であり、下郎は人間以下のクズ」という差別意識。

前半ののどかな日常と旅路の風景から一転して、血で血を洗う凄惨な殺し合いへと至る対比の見事さ。「そっちの都合ばかり言いやがって、こっちの都合はどうなるんだ」という槍の権三(大川橋蔵)の叫びも空しく、事件はなかったことにされ、旅は続き、システムは守られる。

「クールジャパン」などという寝言を聞いている暇があるなら、この映画が描き出した「ジャパン」を目に焼き付けるべし。この物語が暴くシステムこそが、まさに今のニッポンだ。
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