さまざまな小道具を用いて緻密に伏線を張りめぐらす脚本が巧み。逢引の部屋で伸張する影、毒を仕込むナイフに反射する光、やましさを代弁する猫のワンカットなど、背徳的なイメージもなかなかいい感じに横溢。構成にムダがなさすぎてオチまで読めてしまうのが難点だが、不倫関係にある男女の茶番のおかしみが、滑稽な因果応報の極致へと無理なく跳躍していく終盤はとにかく笑える。ハッピーエンドとすら思える秩序の顕現。

あえて欲情を掻き立てるような俗でテレビドラマぽい撮り方。淡島千景が一歩引いて抑えた演技、船越英二は飄々と代わりばえなく、三木裕子は大仰でメロドラマ的、中心の三人の芝居がバラバラで映画にのめり込めない。これは監督の責任。終盤のオチでひっくり返すサスペンスというよりブラックコメディ。映画としては納得できないことばかりだが、船越英二は善人より悪人の方がそれは良く、淡島千景はスクリーンに映っているだけで満足できる大好きな役者だし、連続して毒をくらい襖を破って口から血を流しながら死人が飛び出してくるラストが見ていて前のめりになるぐらい格好良かったので三点にしておく。

• #日本のマストロヤンニ
• #船越英二

ちょっとイケメンで好人物だけれども頼りなくてちょっとスケベという微妙にダメな大人、そんな役を演じさせたら船越英二の右に出るものはいない。この映画もそんな船越の魅力が全開で、前半妻のいとこで不倫の関係になっている三木裕子と邪魔になった妻を殺さんとする算段をするくだりはかなりブラックなのに船越の陽性的なダメ男ぶりによってコメディとして成立している。

でもこの映画の凄いところは途中起こる意外な出来事によって物語がひっくり返ってしまうところで、そこからどんどん通常のミステリーでは味わえない奇妙な体験を主人公の船越同様体感することに。

後半のオチは読めてしまうものの、大映役者陣によるアンサンブルの妙と巧みなカメラワークによりサスペンス&ブラックコメディとしてきちんと成立しているのが凄い。全体的な地味な仕様だが、巧みな構成と堅実なスタッフや役者の仕事によって見ごたえのあるミステリー映画の秀作に仕上がっている。

『しとやかな獣』ほどではないが覗いているような感覚のカメラワークが楽しい猥雑感を醸し出す。

船越に事件の連絡をする警官・中条静夫や、変な事件に巻き込まれて苦い顔をする旅館関係者・佐野浅夫の名脇役ぶりも見事で、事件に巻き込まれて戸惑う刑事・菅井一郎のいつもとは違う軽妙な姿も◎。特にラストのリアクションは百点満点。