渋谷実の映画はやはり作りが普通じゃない。開始15分すぎてやっと主人公池部良が登場するんだから冒頭のくだりいるか？と思ったが後半にかけてしっかりのしかかってくるんだから凄い。面白いのは言うまでもないんだけど、とんでもなくダメ上司山村聰とその娘小林トシ子（勅使河原宏の嫁）との恋を一身に受けて奔走する池部良がニヒルな笑みを浮かべたり、スピーディーな展開や縦の見事な構図も相まって本作品で演技開眼したと言う池部に対し、観る方にも力が入る。本人が収賄殺人ついでに放火と悪事のすべてを尽くし、その場の愛人として山田五十鈴の貫禄は流石の一言。駅と合体した実家の本屋も悲哀を感じさせて良いし電車のガタンゴトンで子供の泣き声で消えたり演出に巧さがひかる。兄役の阿部徹はどんな役やろうがいつ観ても阿部徹。

• #mingo2020

イケベェがアプレボーイを演じている、かなり皮肉な役だ
五十鈴のこういうバーママ的な役は気持ち良いなぁ
どの建物のデザインが良く効果的だ、役所の階段とバーの細長い裏部屋。

中年以降から見た「理解できない若者像」を見事に具現化した池部良の素晴らしさ。若い人から見たら変な男にしか思えないだろうけど、おじさんおばさんからは若い人はこう見られているのよ。でも一番凄いのは若者役を演じる池部が当時34歳であること、これぞ映像のマジック。

それまで不正行為を山村聰と行っていたが、彼を見限り池部と手を組む多々良純の凄みのある演技に圧倒される。そして悪女なのにキュートで可愛げのある山田五十鈴のファムファタールぶりに魅了される。

中盤池部が不意に多々良純を殺害してからの放火までのノンストップで展開するドライブ感のある語り口が圧倒的。階段を使った演出も印象的で、渋谷監督の弟子である川島雄三監督が『しとやかな獣』で階段を使ったのはこの映画からインスパイアされたのかも。