ニューヨークのポリス・アカデミー、刑事昇進前の最終テスト、狭い廊下の一番奥の部屋から鳴り響くDV男の喚き声、メーガン・ターナー（ジェイミー・リー・カーティス）は、ゆっくりと部屋に近付き、男が銃口を向けたところで心臓めがけて一発を放つ。だが今度は人質だったはずの妻に拳銃を向けられる。この冒頭の場面は、中盤に登場する両親のDV描写を暗喩しているのは間違いない。ニューヨーク・ポリス・アカデミーを卒業し、生涯の夢だった警官になったメーガン・ターナー（ジェイミー・リー・カーティス）は、S&W38口径リボルバーのガンブルーに魅せられている。その“ブルースチール”による仕上げの場面を撮ったフェティシズム溢れるアヴァン・タイトルの後、自由と平和の国で警官になった彼女の快感に打ち震える様子が明示される。だが赴任して24時間も経たないうちに、彼女は圧倒的フェティシズムに打ち震えた38口径リボルバーのガンブルーを使用する機会に迫られる。コーヒーショップの向かいにあるスーパーマーケットを訪れた強盗犯の異様な光景を見たメーガンは、店の中に裏口から入ると、焦点を合わせ男に数発発射する。男は38口径の衝撃で窓を突き破り倒れる。だが、現場に残されたはずの銃は、被害者のユージン・ハント（ロン・シルヴァー）の手で持ち出されてしまう。

　38口径リボルバーに異様な執着を示す女性新米警官と、44口径を手に入れたサイコパスとの対比、LAならぬNYの夜景が魅せるまどろみに潜む暴力性、主人公に非協力的な市警の描写など、今作がクリント・イーストウッドの『ダーティ・ハリー』シリーズを念頭に置いているのは間違いない。メーガンが物心ついた頃から、母シャーリー（ルイーズ・フレッチャー）に対し、父フランコ（フィリップ・ボスコ）は何度も暴力を振るった。その歪んだ男根や男性側の一方的な暴力に耐えきれず、彼女は父親に疎まれていた警官を志すが、同時に彼女は傍に入れたS&W38口径リボルバーという特別な銃に魅せられている。ここでの拳銃は男根の象徴だろう。一方でいわゆるウォール街のエリートたちの間で「ヤッピー」という造語が80年代のホワイトカラーの間で爆発的に流行したが、その自己中心的で表面的な物質主義は90年代になると急速に衰えて行く。雨の中、彼女を待っていたユージンの微笑みは、まさしくメーガンの理想的な男性の姿だったと言っていい。収入はアッパーミドルで高級なオーダーメイドのスーツを着込み、自家用車ではなくタクシーに乗る。高級レストランでディナーを嗜むユージンの様子に、徹底して強い男根を求めるヒロインは恋愛感情を抱くのだが、落とし穴が待ち構える。前作『ニア・ダーク/月夜の出来事』同様に、警官と連続殺人犯との表裏一体の愛は「異形の愛」となる。ラストで拳銃の打ち合いで果てたヒロインの描写は女性監督にしか表現出来ないある種の官能性を秘めている。

人間の深層心理に潜む悪魔を描いたサイコスリラー。

ニューヨーク市警の警官になって初めてのパトロールに出た新人婦警のメーガン。
警官になった理由を同僚に聞かれ、冗談交じりで「人を撃ちたいのよ」と回答。
その直後にスーパー強盗に出くわし、メーガンの一方的な銃の連射により犯人を射殺。
偶然現場に居合わせたエリート証券マンがそれを目撃し、心に潜むモンスターが目覚めてしまい、連続殺人に発展していく。
そしてラストでメーガンがとった行動は.....

一見善良に思えるエリート証券マンや婦警、父親を通して、人間の心に潜む悪魔が目覚めうる恐怖を描いた作品。
自分の中のもう一人の自分を描いていて見応えがあった。

2021.10　BSテレ東にて鑑賞（吹替）
2020.5　 ＴＶ地上波で鑑賞

• #警察学校卒業
• #ニューヨーク証券取引所
• #名前入りの薬莢

新人女性警官ターナー (カーティス) は、初パトロールで出会した強盗犯を射殺。その現場に居合わせた男ハント (シルバー) は、犯人の銃を持ち去り、無差別殺人を始めた。
狂気に満ちていくハントはＭ29を手に、ターナーへ近付き、ついにふたりの戦いが始まる。

パックマイヤーのラバーグリップが装着されたS＆W Ｍ10の青色を帯びたトリガーからハンマー、さらにバレルからシリンダーへと各パーツのアップが丁寧に映し出されるオープニングから美しい。

“ブルースチール”とは、拳銃に施される表面処理のことで、これが名銃パイソンならば、コルト社の熟練職人たちによって丹念に磨き上げられた美しく深みのある“コルト・ロイヤルブルー”と称されるが、パイソン以外のブルースチールであれば“拳銃”本体を意味する場合もある。

女性では唯一のアカデミー監督賞受賞者 (『ハート・ロッカー』) であり、後の『デトロイト』で手腕を発揮することとなるビグロー監督の若き才能の片鱗を垣間見ることができる骨太作品だ。

またトニー・カーティスを父に持つジェイミーの精悍な顔立ちと凛々しい制服姿もクールで、彼女の代表作の一本と云って良いだろう。

136 2020 1996/8/17