原作は韓国の女流作家、ハン・ガン氏の連作短編集「菜食主義者」。アジア人として、初めてマン・ブッカー賞の国際部門を受賞した作品。マン・ブッカー賞は、イギリスの文学賞で、北米を除く英国圏（すなわちトリニダード・トバゴや南アフリカも含む）でノーベル文学賞を受賞している作家は例外なく受賞している、フランスのゴンクール賞、イタリアのストレーガ賞と並ぶ権威ある文学賞。国際部門では、最近だと、小川洋子の「密やかな結晶」が候補となって話題を呼んだ。ちなみに、前述のトリニダード・トバゴからは、V.S.ナイポールが、南アフリカからは、J.M.クッツェーがノーベル賞を受賞している。　

この原作を読んだ時の衝撃は忘れられない。隣国にこれほどの創造力を持つ作家がいたことを知らなかったことを恥じたくらいである。ベクトルは違うが、「素粒子」のミシェル・ウェルベックに近いものを感ずる、まさに現代に生きる実力派の作家。

これは普通の主婦だった女性が肉食を拒み、植物へと近づいていく物語。肉食や性愛という動物的なものから離れて、新たな存在になろうとする過程には、韓国固有の文化的負の遺産としての家父長制があったりするのだが、ポストヒューマンへの透徹した視点はデビッド・クローネンバーグやアレックス・ガーランドに近いものがある。

原作が徹頭徹尾、人間的なものを削ぎ落としていくのに対して、この映像作品はそこまでの威力を持ち得てないのが残念なところ。原作者や、本作品の監督の意図しているところは、かなり曲解され誤解されていると思う。AVばりの性行為のシーンは動物的なものの営みの極にあるものの描写であり、花の隠喩が女陰と紐づけるような下世話な猥褻話ではなく、生物としての植物との対比として成り立っているものだ。

本作は韓国本国でも評価低く、監督もその後作品を発表してないようだが、いつか再評価される時がきて欲しいものだ。

ノーベル文学賞を受賞したハン・ガンさんの作品を映画化したアートハウス系の作品です。
ノーベル文学賞効果で、著作がなかなか手に入らず、映画を鑑賞しました。
三つの物語を1人の主人公にしているので、物語としては、若干無理がある展開もあります。
蒙古斑が残る肉を食べなくなった女性が心を病んでいき、植物を体に描くことで癒されていきます。
周りもかなり無茶苦茶な方が多い作品で、芸術家である主人公の姉の夫、肉を食べないと殴る父親など、強烈なインパクトを持っています。
ボディペイントもある種のセラピーなのでしょうが、説明もなく展開していきます。
制作時期も考えるとキム・ギドク監督的な思考性のある作品です。
彼が撮っていても不自然ではない作品ですね。

記録で、このレビューで累計4,900マークに到達いたしました。

原作はハン・ガンの『菜食主義者』
殆ど原作に忠実に作られているが、文学作品をそのまま映像にするだけでは、この物語の根底にあるテーマが伝わってこない。
小説は『菜食主義者』『蒙古斑』『木の花火』の3部構成で各区切りごとに、映像的にも見せ場となるシーンが書かれているが、映画では残念ながら十分な演出とは言い難い。
心の奥底に潜む人間の性、抑えきれない欲望、全てを受け入れる愛、この小説を映画化するためには、更に破らなければならない殻があったのであろう。
そしてこれ以降のハン・ガン小説の主体となる人間の残虐な闘いが、この根本に流れていることを観せていれば、全く違う映画として評価されていたかもしれない。
ただし、内面のセリフで説明する姑息な手法を使わなかっただけでも、真摯に向き合った映画であるといえる。