★ 普通に生きていられることの有り難みを、これほど切に感じさせるストーリーはない。

知的障がい者が知能を手にした先で見た世界。そして再度退行していく知能の中で失った、人間として生きる喜び。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

人と会話をして、友だちをつくり、好きな誰かと恋をする。

勉学に励み、色んな知識や経験を積み、外の世界を知る。

愛する人と結婚し、家族を守るために仕事に励み、社会的な地位を得る。

———これらの人間的体験すべてから締め出されるとしたら、果たして希望など持てるだろうか？

このストーリーは、知的障がい者である主人公を通して、『家族や恋人と愛し合えること』『友人と会話すること』、そして『学ぶこと』の素晴らしさを残酷に教えてくれる。

切なすぎるストーリーかもしれないが、きっと見終えた後は前を向いて人生を生きようと思える。そんな映画だと思う。

※ちなみに原作となった小説が、凄まじく感動する。これまで数百冊以上の小説を読んできたが、間違いなく一番の傑作だと言える。

作家ダニエル・キースによる超有名SFが原作。

IQ60だった35歳のシャルル、ある日、知能を向上させる実験の被験者にならないかと誘いを受ける。その後実験を引き受け半年でIQは190に。その実験結果を成功と呼ぶべきなのか、失敗と呼ぶべきなのか…

アルジャーノン(シャルルと同じ実験をさせられているネズミの名前)とシャルルを対比させるような編集が実に素晴らしかった。

ラストのシーン恋人を追いかけ家を出るものの、薬の効果が切れているため道すらも覚えられない。まるで迷路に迷うアルジャーノンのように周りをキョロキョロと見渡すシャルル…

彼女とワインを飲み酔った勢いでクビに赤色のスカーフを巻くシーン。実験用マウスとしてつけられている赤いリボンのようだった。人間としての価値がその頃から失われかけていたのかも…

頭が良くなれば人間として素晴らしくなれるの？ありがちな問いだがやっぱり考えてしまう。

人間が人間らしく在るには何が必要なのでしょうか？

ぜひ

知識として想像することと実際に体験(疑似体験)することとの違いを思い知らされる。

自分の中にある様々な感情が触発される…何度も何度も読み返してきた小説の映像化作品。



この作品ならではのラストシーンは原作とは違うけれどこれも良き。ほんの少しだけ救われる。

それでも知能とは、幸せとはなんだろう…正解のない机上の空論に頭の中が支配されてしまうこの余韻はやはり小説と同じ。


その『タラレバ』の説得力に最後までクギズケになってしまうジョアン・ボアスリエ氏の演技。これだけでも観る価値あり、素晴らしすぎる。

• #やっぱり嗚咽…。