このレビューはネタバレを含みます
アンドレイ・ズビャギンツェフ監督のデビュー作。
母親と暮らすロシア人兄弟。ある日、写真でしか見たことのない父親と思しき男が、12年ぶりに帰宅する。数日後、男3人で旅に出る。
"Papa"
アンドレイ・ズビャギンツェフ監督作品は、『ラブレス』に続いて2作目。
傑作。ロシアの美しい大自然の中で紡がれる、心を引き裂くようなComing of age story。失って初めて気づくものもあるが、その失う対象が家族であることほど悲しいことはない。最後の最後に口にした"Papa"という一言は、とてつもなく重かった。
"父親"と息子たちのミスコミュニケーション。"父親"は不器用で高圧的な男だが、彼なりに愛情を持って、男とはどうあるべきかを息子たちに示そうとしたのだろう。しかし、12年間の心の溝を修復するのは、決して容易ではなかった。少なくとも、数日間で事足りる問題ではなかった。
"父親"に対する兄弟の対照的な態度は、どちらも理解できるものだった。主人公アイヴァンが抱く、家族3人での平穏な暮らしを壊した"父親"への怒りと反抗心。兄アンドレイが抱く、"父親"という存在への憧れと、"父親"に一人前の男として認められたいという想い。"父親"への態度を巡って、兄弟関係がギスギスしていく様子は、見ていて居た堪れなかった。
見せない演出が巧い。主演3人のリアクションショットメインで、背景で起きていることは映像ではなく音で補う。観客に想像力を働かせる。
What's in the box?
『セブン』を超える、箱の中身が気になる映画。男(父親)の素性も、空白の12年間も、男と母親との関係も、箱の中身も、全ての真相が闇に葬り去られる。恐らく、本作の"父親"は、"父親殺し"の父親としての象徴的な意味合いが強いのだと思う。
勇気を出して飛び込むか。抱擁してくれる母親、暴力をふるう父親。
この後、この兄弟はどんな人生を歩んでいくのだろうか。
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