波鳥知己

3-4x10月の波鳥知己のレビュー・感想・評価

3-4x10月(1990年製作の映画)
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草野球でバットを振れない男・雅樹がヤクザに暴力を振るまでの物語。

ガソリンスタンドで適当に働き、バイクに女を乗せて、多摩川沿いで草野球をする平凡な人生。恋人のサヤカが石田ゆり子で可愛すぎるので、それだけは全く平凡ではない。しかしそんな人生を謳歌するためには、ヤクザに暴力を振るわなくちゃいけないときがあるんです。

やはり暴力の描き方はすごい。何も脈絡もなく、無意味に人が殴られ、関係が捻じ曲げられ、死んでいく。これぞ暴力だ。登場人物の行動原理は、暴力によって駆動するので、理屈がありそうで矛盾を帯びていて、それが人間らしさではある。だって「ビートたけし演じる上原が部下の玉城に恋人の純代を強制的に抱かせ、なのに怒って指を詰めさせる」とか意味分かんないです。けれど何となく上原の心情も分かってしまう。

雅樹はそんな暴力の当事者ではあるが傍観者でしかない。まさに草野球でいうところの見逃し三振。サヤカを見逃すナンパの一声のごとく。けれど彼が草野球の特大安打を打つように、盛大な暴力の一振りを果たすのである。

結局、それは夢まぼろしでーまさかの夢オチー、特大安打も前のランナーを追い越してアウトになるように、滑稽である。しかし人間模様は寄りでみれば暴力で、引きでみれば笑いと化すので、暴力と笑いはコインの表と裏のような関係な気もするのだ。

指を詰めるときのデカ将棋の「忍耐」の文字にも笑った。バーの店主で元ヤクザの隆志が灰皿で女を殴る沸点の低さにも笑ったー女がトイレが汚いと侮辱するのが悪いのだがー。ともかく私もサヤカとキャッチボールする人生を送りたい。

追記
とはいっても、上原の彼女の純代に対する演出が酷すぎる。それは上原が純代に純粋な暴力を働くという演出である。でもそれは単にビートたけしが篠原尚子に暴力を働いているのがカメラに収められているだけである。それは演出ではなく単なる暴力だ。そのように思えるのも例えば、ビートたけしが腕を振り上げて、彼女が怯えた表情で身を反らす身振りは危険を察知した反射である。あれが演技であれば彼女は天才だ。確かにこの暴力は、「上原は女に暴力を働く粗暴な男だが、彼女を愛し、最終的に逃がす優しさがある」と、物語における意味がある。それをみる観客が、目を背けたくなるほどに感情を引き出される効果があるかもしれない。けれどそれが演出の名に値しないのであれば、劇として失敗なのである。彼女が演技をする上で、「演出」の意図は説明されたのだろうか、心理的な配慮はされていたのだろうか。おそらくされていないし、彼らの間で関係性があるからいいというわけでもない。このようなことがみえてしまう以上、スコアをつけるわけにはいかない。論外である。
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    波鳥知己

    波鳥知己

    1998年生まれ。メモメモ: