オーソン・ウェルズの『市民ケーン』（1941年）と並ぶ傑作のフィルム・ノワール。そのディレクターズカット版です。公開時は映画会社がファイナルカットを行い96分に短縮しましたが、本作は監督であるオーソン・ウェルズの意図に沿った111分の完全版（1998年公開）です。

その冒頭の長回しでメキシコからアメリカ国境に渡った車が爆発します。偶然そこに居合わせたのがメキシコ人麻薬捜査官バーガス（チャールトン・ヘストン）と妻スーザン（ジャネット・リー）。そしてアメリカ側で捜査を担当するのが老刑事クインラン（オーソン・ウェルズ）。縄張り意識から敵対するバーガスとクインランだが……という話です。

『市民ケーン』は色々と凝った映画技法を使った作品ですが、本作も同様になかなか凝った作りになっています。ただ、自己主張の強かった『市民ケーン』に比べ、本作の映画技法はとても自然に使われてより好感が持てます。陰影の強い照明の使い方や、独自の構図の撮り方など。特に有名だし素晴らしいのは冒頭の長回しですよね。

ちなみに、本作がオーソン・ウェルズのアメリカでの最後の仕事となり、以降は活動の場をヨーロッパに移します。

オーソン・ウェルズは画面の内でも外でも小物になることがない。その体躯含めて常に規格外の巨人だ。

久々に再鑑賞。やっぱオーソン・ウェルズが好きだ、と思った。

彼を形容する言葉としてピッタリなのが「ゴミ溜めに捨てられた天才」だと思う。
歴史的傑作『市民ケーン』を作りながら評価されず、再起を図った今作は勝手に再編集されヒットせず、彼はこれ以降ハリウッドで映画を撮れなくなってしまった。


組織の絶対的強さを前にちっぽけな個人はなす術なし、その上個人は「正義」を掴むことさえできないという地獄の話。
主人公は悪役オーソン・ウェルズを倒しはしたけど事件の犯人を捕まえた訳じゃない。爆殺事件の犯人を捕まえたのは他でもないこの「悪役」オーソン・ウェルズであって、彼が「善」であったことがラストに判明し、個人（主人公）が「善」になり得ないことが分かる。

今考えると『坊ちゃん』みたいな構造。