【A24の知られざる映画たち】
俳優ヴァル・キルマーが自身の人生を振り返ったドキュメンタリー。
世代というか、裕福な家庭だった故か、幼少期から撮り溜められた映像素材の物量が半端ない！そして俳優として活動が始まってからも、いろんな現場で自らムービーカメラを持って廻していたので、数々の名作の舞台裏を垣間見れるのも興味深い。きっと今回の作品では使用許可の出なかった大物共演俳優の素材とかもあるんだろうなぁ…。でも、自分の撮影現場にそのようなムービーカメラを持ち込む事を快く思わない監督がいることも事実で、そこらへんから“要注意俳優”的なレッテルも貼られるようになってしまったのかも…とも思った。黒澤明監督の「影武者」で勝新が降板するきっかけになったように。
ヴァル・キルマーがジュリアード音楽院に最年少の17歳で入学するほどの超エリートの演劇畑の人だったとは知らなかった。そのような経歴からなのか、舞台・映像を問わずお芝居への向き合い方がとても真面目で意欲的。自らオーディション用にいろんな演技パターンで撮影したのを製作に送りつけてたりして。
ナレーションを息子で俳優のジャック・キルマーが担当していたのが泣ける。ちなみにジャックは、ブラックメタルをテーマに若者たちの暴走を描いた作品「ロード・オブ・カオス」で、死に憑りつかれ、やがて自分で頭を撃ち抜いて自殺してしまうヴォーカリストの役を演じていて、メチャクチャインパクトを残していた。

• #2024劇場とらキチ

　『トップガン マーヴェリック』でのヴァル・キルマーのアイスマン役での再登場は記憶に新しい。栄光に包まれたアメリカ最後のトップ・スター然としたトム・クルーズとは対照的に、すっかり年老いて声も出せなくなったアイスマンの姿に思わず涙腺が緩んだのは何も私だけではあるまい。今作はその『トップガン マーヴェリック』直前に撮られたドキュメンタリーのようで、時折トム・クルーズに冷笑をかましながらも、どこかおどけるような飄々としたヴァル・キルマーの姿が垣間見える。ナレーションを担当したのは懐かしの『パロアルト・ストーリー』のヴァル・キルマーの長男ジャック・キルマーで、父親の黒子役に徹している。それにしても良くこれだけのフッテージが残されていたものだと思う。全てヴァル・キルマーによるプライベート映像で構成された物語は、自身の生き様の記録にも余念が無かったヴァル・キルマーの恐るべき創作意欲とも言えるし、単なる余暇を利用した肩肘張らぬ映像にも見えるが、そこには80年代からハリウッドの歴史を駆け抜けた1人のスターの栄光と苦悩が垣間見える。

　80年代のケヴィン・ベーコンやショーン・ペンとのエピソードも楽しいが（何気にお尻は2人に許可を撮っているのか？）、特にバットマンを僅か1作で降板したヴァル・キルマーの完璧主義と並外れたプロ意識とが交錯した90年代後半以降の孤独な性格俳優のレッテルを貼られてからのヴァル・キルマーがひたすら痛快で面白い。特にH・G・ウェルズの小説『モロー博士の島』を映画化した『D.N.A./ドクターモローの島』で、尊敬して止まないマーロン・ブランドとの幸福な共演を夢見たヴァル・キルマーが、途中から監督交代したジョン・フランケンハイマーと確執を深める場面の描写が特に秀逸で、ホーム・ヴィデオを回す傍若無人なヴァル・キルマーの姿は、勝新太郎と黒澤明の『影武者』における確執を彷彿とさせる。『ウィロー』で共演したジョアンヌ・ウォーリーとの離婚に心を痛めながらも、スウェーデン生まれで寡黙で孤独を愛した母親の死に不意に少年のような涙を見せるヴァル・キルマーの姿がひたすら胸に迫る。今回のA24特集で期待値は随分下だったが、図らずもかなり上位に来るような素晴らしいドキュメンタリーである。

U-NEXT独占配信。A24制作のドキュメンタリー映画。
昨日鑑賞したジャニス・ジョプリンの生涯を辿ったドキュメンタリーが余りにも良かったので・・。

「トップガン」をリアルに映画館で観ている世代の自分は、“アイスマン”のキャラクターを演じたヴァル・キルマーも圧倒的にカッコ良く、絶対にスター街道を突っ走ると当時は思ったもの。実際に、「バットマン フォーエバー」で主役に抜擢されたりするものの、その後の活躍の話をとんと聞かなくなってしまった。

ネットか何かの映画雑誌かで「ヴァル・キルマーは扱いづらい俳優」というレッテルを貼られているという事実を知って驚いたが、このドキュメンタリーを観ると、彼の俳優としての拘りがしっかり伝わる。

彼が当時史上最年少で名門ジュリアード音楽院に合格していたとは知らなかった。厳しい演技指導を学び、自身もマーロン・ブランドのような舞台俳優から映画の世界に入る事を目指していたのだが、「トップガン」での大抜擢によって、自分が思い描いていた俳優としての道のりが異なる事の違和感について、しっかり共感できた。

本作では、彼の少年時代のホームビデオの映像、兄弟の中で最も映画に興味を持っていた弟を亡くした過去などが語られ、「トップガン」など出演作のオフショットも盛り込まれるという見応えある内容。「D.N.A./ドクター・モローの島」では憧れの俳優であるマーロン・ブランドとの共演を果たすが、監督との確執でマーロン・ブランドが途中降板し、以降は代役で撮影されたという話も興味深い。

咽頭ガンを患い声が出せなくなった彼に替わり、ヴァル・キルマーのご子息がナレーションを担当しているというのも粋な計らい。

構想10年にも及んだ一人舞台「マーク・トウェイン」は、是非とも観たかったなあ。