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イニシェリン島の精霊のminorufukuのネタバレレビュー・内容・結末

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

20世紀初頭のアイルランドの孤島が舞台。人の好い主人公は長年の友人から突然、絶交宣言される。戸惑う主人公はなんとかして復縁を試みるが友人はこれ以上話しかけてくるなら自分の指を一本ずつ切り落としていくと告げるのだが...という話。
同監督の前作「スリー・ビルボード」が僕の生涯ベスト10に入る傑作だったので鑑賞。

変わらない孤島の生活の中で起きる幼馴染み二人の男の関係性の変化を、不穏な空気とともに描いた問題作。
主人公は何気なく続く大切な家族・仲間との穏やかな日常に満足感を得ているが、もう一方の芸術肌の友人は壮年に差しかかり生きている証のような何かを残したいという思いから、時間を惜しんで作曲するため主人公との対話を無駄なものと考えるようになる。突然の絶縁の申し出に主人公は理由を問いただすが、友人の説明に主人公は納得できない。どちらの気持ちもわかるし正解は無いのだろうけど、二人それぞれの生き方の違いからのすれちがいに胸が痛んだ。
酒に酔った善良な主人公が何かを成し遂げなくとも普通に生きる尊さを語るシーンは胸が熱くなった。また、無視を貫いていた友人が警官とのトラブルから殴られ昏倒した主人公を助けて家まで送る場面は二人の絆の深さを感じた。
中盤まではそんな二人の葛藤が描かれていたが、次第におかしな雰囲気になっていく。普通の人間ドラマ作品なら主人公の仲直りの努力に友人が心を動かされて仲直りする流れになりそうなのだが、この監督の話は一筋縄ではいかない。予告編でも友人の「指を切る」という脅し文句が強調されていたが普通なら脅しだと思うじゃないですか?(泣)。やがて曲を完成させ目的を達した友人が和解を申し出た時には、思わぬ悲劇が発生して修復困難な遺恨が生まれてしまう。同時に主人公の唯一の家族である妹が就職のため島を去ることとなり、主人公は孤独を深めていく。終盤、復讐に走る主人公が、友人に憎しみを抱きつつも彼の愛犬の身を心配する優しさを見せるところも切なかった。
全体的には舞台も登場人物も固定されているため派手さはなく、重々しいストーリーとグロ描写は見る人を選びそうだが僕はとても好みの作品だった。これまた僕が好きな「聖なる鹿殺し」という映画で共演していたコリン・ファレルとバリー・コーガンが共演しているのも興味深い。舞台であるアイルランド出身の俳優を中心にキャスティングしているのも徹底していると感じた。

「曲作りに集中したいから一週間ほど話しかけないでくれない?」ではダメだったのだろうか?←台無しな意見(^^)
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