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医学生 ガザへ行くのいののレビュー・感想・評価

医学生 ガザへ行く(2022年製作の映画)
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イタリアの医学生リッカルドがガザへ。自ら留学を希望。ガザに研修医として赴くヨーロッパ人は初めてとのこと。その様子を映すドキュメンタリー。2018年、数か月間のこと


彼を迎えるガザの人たちが皆とても親切で、しかも本当にとてもうれしそう。そうか、ガザ行きを自ら希望して来てくれる青年がいるってことが、きっとものすごくうれしいことなんだ。と、アタシは思う。ほとんどのガザ市民は、自分は外には行けない。外の世界をみることができない。世界から長く孤立させられているような場所。だから危険を承知のうえで来てくれることがどれほどうれしいことなのか。それがよく伝わってくる。


ヘンな言い方かもしれないけど、映画全体の雰囲気がびっくりするほど優しく穏やかで、彼とガザの人たちのあたたかな交流が描かれるので、「ガザ」というイメージから映画を観るのを躊躇ってしまう方が観たとしても、全然大丈夫な映画となっている。とても敷居が低い。壁がない。そのことも今作を稀有な作品としているように思う。ガザの人たちが両手を広げてウェルカムしてくれているような。「ガザ」の人々に対するイメージを覆す力を持っている作品だと感じた。


イスラエルによる深夜の爆撃など、彼らの日常は絶えず破壊される恐怖と隣り合わせにある。あたたかな交流が描かれる映画だからこそ、かえってその日常のなかにある緊張などがより強く伝わってくる。デモに参加するとイスラエルの狙撃手は脚を狙ってくるので(命を奪われる人も多数いる)、次々と病院には負傷した人たちが運ばれてくる。手当をする医師たちも、救急外科医を目指すリッカルドにとても丁寧に教示する。なんかそういう場面も観ていて胸が熱くなった。自分の持つ知識や技術を、伝達できる誰かがいるということも大事なことだ。


赴いた当初は不安や途惑いを吐露していたリッカルドがガザで居場所を見つけていく過程がとても丁寧に描かれる。居場所って、自分がそこで必要とされているって実感できる場所のことを言うのかもしれない。リッカルドさんと、ガザの人々が互いにかけがえのない存在になっていくのがとてもいい。同じ医学生のサアディや、弁護士を目指すアダムたちと過ごす時間のかけがえのなさ。サアディとの、文化の違いをめぐる対話も忘れられない。海外ジャーナリストと現地をつなぐ役割を担いたいという女性ジュマナもとても魅力的でした。


映画の最後には、彼らのその後や、撮影した場所のほとんどが2021年5月には崩壊していたということが示される。出演者はそのときは皆無事だったということだけれど、今現在はどうなんだろう。出演者だけじゃなく誰もがみな無事であってほしいと心から願うけど、そんなことわたくしごときが軽々しく口にしてもよいわけがないだろうと自分の無知を自分で恥じつつ、とにかく学んでいきたいと思っています



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遅ればせながら、岡真理『ガザとは何か—パレスチナを知るための緊急講義』2023年(大和書房)を読んでいるところに、これ以上はないという絶妙なタイミングで、snatchさんによる今作のレビューがタイムラインにあがっていました。snatchさんのレビューがなければ出会えなかった作品でした。ありがとうございます!

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〈追記 2024年10月〉
読んで良かった本

岡真理『ガザとは何か—パレスチナを知るための緊急講義』2023年(大和書房)

岡真理・小山哲・藤原辰史『中学生から知りたいパレスチナのこと』2024年(ミシマ社)
11件
  • snatch

    早っ! もう観たの⁈とレビューを発見💡かなり嬉しかったです😊 いのさんのこの映画を観て欲しい気持ちにハッとして、私のレビューは後半辛い事を書いていたので、少し変えました。こういった映画は観客が少ないから、せめて紹介をと思って書いていたので反省しまくり…😅

  • 風ノ助

    snatchさんのレビューで気になっていたら、いのさんも観られたのですね アジアンドキュメンタリーズって配信サービス初めて聞きました 私も学びたいと思ってるのでまずはいのさんが読まれている『ガザとは何か』を図書館で予約しました!

  • 湯っ子

    まさに「感情を移入しつつ思考をやめない」を実行されてるいのさん、すごいなと思います。

  • いの

    snatchさん びっくりするほど、はやかったでしょw ドヤッ笑!  snatchさん、反省することなんか1ミリもありませんぞ! わたしはsnatchさんのレビュー拝読して観たいと思ったのですからね!本当にありがとうございます!  いずれにせよ、今作が多くの方に届くといいですね。ちなみにわたしはこれを機にガザのドキュメンタリーをもう1作観ようと思っています!

  • いの

    風ノ助さん わたしがアジアンドキュメンタリーズを知ったのは、昨夜から今朝にかけてです笑! このドキュメンタリー観たいと思ったけどもうほとんど上映されていないし遠出は今はちょっとできないし・・・→で、ネットで調べて行きついて、勢いで観てしまいました! 『ガザとは何か』は講演記録をもとに編集された本なので、とても読みやすいです。いったい何が問題なのか、問題の根っこがどこにあるのか、主流メディアの報道の在り方はこれでよいのか、などなど、読むことによって、わたしなりに見えてきたこともあります。

  • いの

    湯っ子さん もったいないような言葉をかけてくださってありがとうございます!なんですけど、いやいやいやいや、直情と申しましょうか、その場の思い付きのようなかたちで突入し、たいして深く考えたりもせず右往左往しているだけなのです。でも、湯っ子さんをはじめとして皆様の優しさで、このフィルマに存在しててもいいよと言ってもらっているようで、ほんとうにありがとうございます!

  • snatch

    いのさんへ 月刊誌「世界」8月号の国際刑事裁判所のカリム・カーン主任検察官のハマスとイスラエルに対しての、CNNのインタビュー記事が掲載されています 冷静で公平で着実な内容で、このような考え方を多くの国が共有して賛成していけばと心から思いました

  • snatch

    もう1作は、あれかな🙄レビュー待っています

  • いの

    snatchさん 「世界」も読んでいらっしゃるんですか!凄すぎます! 図書館で借ります! 教えてくださってありがとうございます! ガザのもう1作も、昨夜から今朝にかけて知ったばかりの作品です! ちょうにわかで申し訳ないっす!

  • snatch

    たまに気になる特集があると読むようになりました「世界」は分厚いし、難しいと読むのにすごい時間掛かります😅私もちょうにわかっす!

  • いの

    snatchさん 図書館で予約しました!すでに予約している方がたくさんいらっしゃることに驚くと同時に、少しうれしくなりました。まだまだ世の中は捨てたもんじゃない。 わたしの手元に来るまでに時間がかかりそうですが、その間に学びたい意欲を減退させてしまわないように頑張りたいと思いますw!

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ひとりで映画館に行ったのは13歳の夏で、以来、映画にはずっとお世話になっています。そのわりには学生の頃から映画館でウトウトしていて、ウトウト断ちができずに現在に至っています 2016年11月 開始…

ひとりで映画館に行ったのは13歳の夏で、以来、映画にはずっとお世話になっています。そのわりには学生の頃から映画館でウトウトしていて、ウトウト断ちができずに現在に至っています 2016年11月 開始。退会したのち、2019年10月 再び始めました。退会前のレビュー(手元に残ってたもの)+ α は、↓のリンク先にあります