ファブリス・ドゥ・ヴェルツ監督の真面目な犯罪スリラーだった。
ベルギーで1995年～1996年に起こった連続殺人犯・児童レイプ犯のマルク・デュトルーの事件をアレンジ加えてフィクションにしたもの。
組織を前にした正義の限界と怒り。
アンソニー・バジョンは「祈り」で見て以来ずっと童顔のままだが(ほんと変わらない)、演技力がやはりすばらしい。
悪役セルジ・ロペスの他にも、ベオタリス・ダルやローラン・リュカが善悪不明な不穏なキャラで登場するのも良い。

犯人を突き止めるサスペンスやミステリーではなく、犯人(だとされている者)を「マルドロール」として監視することになった主人公ポールの姿を描く。

ほぼ犯人だとわかっているのに何もできず野放し状態、いてもたってもいられないポール。気持ちはわかりすぎる。でも彼の場合は度を越していたとされてしまう辛さ。
それなら早く手を打ってくれと言いたくなる展開が続きもどかしい。腐った組織にイラつくこと間違いなし。
…なんだけど、ポールが事件に執着すればするほど、正義だったはずが次第に道徳的判断が怪しくなってくるし、不快で残酷な仕打ちをする人間にもなってしまう。それを正当化させようとしてさらに拗れていく…みたいな。

ポールの親の過去や上司の言葉からもポールがなぜここまで執着するのかがなんとなく想像できる。

実際はこの事件を機にベルギーの警察や司法が変わったようだ。

正義は法律によって規制されない。
そんな矛盾を感じるベルギーの闇映画。

90年代ベルギーの社会情勢、実際にあった少女失踪事件、156分（！）と胆力もいるけど、毎度、この世の地獄を見せてくれる、ファブリス・ドゥ・ベルツ監督（『地獄愛』『依存魔』）
ベアトリス・ダルも出てます！