最初は旅先での一期一会、まさに“ビフォア・サンライズ”のような雰囲気だったのに中盤からまさかまさかの展開に...。

心温まる作品かと思ったらその真逆でだいぶ後味悪いです。美しいヨーロッパの風景やどこを切り取っても絵になるジュリー・デルピーはよかったんだけど、衝撃の事実を知った途端に作品に対しての見方が変わってしまった。

偶然や奇跡というのは良い面も悪い面もあることを痛感する。

過去の過ちが制御不能に陥り、運命を左右するという教訓物語。やっと本気で愛した相手は、、だった🥲ユーモアに満ちていて美しく、同時に哀しみにも溢れた風景画のよう。見る前はロマンチックな作品のかなと思ってたけどどちらかというと抗えない運命系の話だった。教養があり言葉遣いの巧みなサムシェパード。彼は5日以上も同じ女性に留まることができない。しかし、やっと出会えた本気の女性は〇〇だった。。ロードムービーのように美しい場所を渡り歩くのも良かった！映像だけでも価値がある。旅人なのに最後の"もう何も見るものがない"は刺さった。

サービスデーかどうかは分からないが、客は多く年齢層が高かった、地域性が関係しているのか、していないのか、そのあたりは何とも言えない。単なる偶然ということもあるだろうけど。

【↓以下ネタバレがございます↓】

「ボイジャー（原題：HOMO FABER／VOYAGER）」（1991年）は、1950年代を舞台にしたロードムービー的な恋愛ドラマである。合理主義を信条とする中年技術者フェーバーが、仕事で南米へ向かう途中、思いがけない事故に巻き込まれる。その旅で出会った若い女性エリザベスと心を通わせ、彼の人生観や感情が次第に揺らいでいく。マックス・フリッシュ「HOMO FABER（邦題：アテネに死す）」を原作とし、旅の途中で過去の因縁と偶然の連鎖に翻弄される合理主義者の男が、自らの生き方、人間関係、そして禁断の愛に向き合う姿を描いた作品である。

題名と新たに作られたポスターだけを見ると、最初はB級SFメロドラマかと誤解するが、実際は想像を超える物語であった。とはいえ、フォルカー・シュレンドルフ（代表作「ブリキの太鼓（1979年）」）が好んで撮りそうな題材ではあるが。

唯物論者に対する辛辣な皮肉として捉えれば、その通りだと感じる一方、客観的に見ても天文学的な確率の偶然が多すぎる。それでも物語に惹かれるのは、近親愛がタブーであっても、必要悪として無意識に潜んでいるからかもしれない。

仮定として、当時の国際旅行者は年間約2500万人であれば、そのうち20歳前後の若い女性は5％にも満たない。旅先で男性が出会う女性旅行者の数もせいぜい100人程度にとどまり、その中に、かつて知らずに出生した実の娘が含まれる確率は数万分の1にすぎない。さらに、その短い旅の間に恋愛関係に発展する可能性となれば、一層低くなる。まさに天文学的な偶然である。

細かい揚げ足取りはさておき、映画の構成は分かりやすく、エリザベスを演じたジュリー・デルピーは今とさほど変わらない魅力を持つ（当然ながら若い）。サム・シェパードの技術者らしい抑えた演技も見事である。飛行機事故の場面では、CAよりも冷静に対応する姿を通じて、フェーバーの性格から生じるであろう中盤の展開が巧みに示唆されている。

エリザベスの母親ハンナ（ファスビンダー「ローラ（1981年）」のバルバラ・スコヴァ）は、フェーバーとの久々の再会でも感情をあまり表に出さず、その抑制された態度に最初は不気味さすら感じる。女にとって20年前は過去よりも遠いという意味ではよく出来た演出である。しかし、別の部屋で泣き声を漏らす場面や、時折感情を爆発させる演技は、メリル・ストリープを彷彿とさせるほどの才能のある女優である。

出会いからギリシャ悲劇を思わせる急展開は、２人が旅行先で目にする首が切断された「眠る少女」の石像で示唆されるが、（小説の邦題は直球だが。）蛇に噛まれて毒で死ぬ古典的悲劇ではなく、事故死という結末は原作と異なり、危険、変容、再生など両方の意味も兼ね備えた蛇の象徴が、神話として重要でありながら、寓話を否定して現実を選んだ現代的解釈と捉えれば、これは思い込みかもしれないが、フェーバーのように数値化された合理性を感じる。

［恵比寿ガーデンシネマ 13：35〜］