こんな危ない映画だったとは。

落日の大映：最末期の作品とあって、その台所事情から最早形振り構っていられない感が全体に漂っており、当時の世相の閉塞感とも相俟って、明るいトーンで描かれて然るべき筈のシーンも受ける印象は鉛のように重たい。

高校一年生、学年のマドンナ的存在の美子は、彼女に好意を寄せる同級生、昇の盲目な劣情に絆される形でなし崩し的に初めての肉体関係を結ぶが、程無くして自身が妊娠している可能性を認識する。それが確信に変わろうとする頃、昇にその胸の内を告げるも、昇は事態を受け止めきれずに狼狽するばかり。

この作品の主題によって提示されたセンセーションは、今やこの現代社会に於いては中学の道徳の授業の教材に採用されてもおかしくない程陳腐化してしまった。
こうした現実は噂話であったり、実際多くの人の身の回りでも起こっていることで、今更センセーションという程の驚きには値しないのは確かだが。
しかし、本作が今日において尚、観る人の心を掻き乱し、まあストレートに言ってしまえば「観ながらとんでも無く嫌な気持ちにさせられる」要因は、その主題から一歩も二歩も踏み込んだ先で主人公達が為した選択にこそある。
このあたりこそが、逆に今日的倫理観に慣らされた現代に住む私たちにとっては相当にショッキングなものであり、ことの良い悪いは置いておいて、今日的な事情の中ではこんな映画はもう絶対撮れないだろうということだけは肌感覚で感じられる。

直截的な意味では、当時実年齢まさに１５歳の関根惠子（現・高橋惠子）に堂々たるヌードと性交シーンを演じさせているという、制作側の形振り構わない姿勢も今では相当問題になるであろうことは想像に難くないが、もっと問題なのは、本作自体の制作動機と内包したメッセージが、本作における表現とテーマの過激さを凌駕し、そこに確固たる必然性を与える迄には至っていない、というか寧ろハナからそんな気はないとばかりに盲目にセンセーショナリズムに向けて狂走しているように容易に感じ得てしまう処にある。
要するに脇が甘い。最初っから防御する気配など見当たらない、完全なる真っ裸である。

少し意地悪な見方にはなってしまうが、そうした時代性の違いにより現代の目で見ると図らずも相当スリリングに映ってしまう部分にフォーカスしてわざわざ心をざわつかせるのも、昔の映画を観る上での醍醐味の一つとも云えるのではないか。
昔は良かった、などと感傷じみていうつもりはないが、何かと五月蝿い今の世の中に少々うんざりすることも、時折あるし。

当時15歳の高橋恵子がフルヌードで…とその時点でやばい映画であるが、話はそれに拍車をかける様にやばい。年端もいかぬ男女間の純愛なる幻想とそれに付随する性行為がもたらす最悪の結末、生殖と言う行為そのものをもはや恐怖し忌むべきものの様に捉え、醜く悍ましく汚らしく描いている。猛烈に嫌な気分になるし、彼女が選んだ「最良の結果」というものがあまりにも凄惨であるが、安易な性行為がどの様な事態に繋がるかを分からす為の反面教師的作品としては現代にも通ずるのかもしれない、まぁSNS全盛の現代であれば開始早々の時点で炎上必至なのであるが…。哀れにも殺される金魚二匹に哀悼の意を。例のシーンはマジでトラウマになる…。

「堕すんだな。ともかく堕すんだ」
「怖いわ」
「大丈夫さ僕に任せろ」
「昇さんまだ私のこと好き？」
「・・・好きだよ」
「いつも私と一緒にいて、絶対に離れないで。
私たちもう離れないわね」
「うん」


　関根惠子さんがデビュー作となるはずだったゴールデンアロー賞新人賞受賞作となった『おさな妻』以前に急遽代役で主演された『高校生ブルース(1970年)』です。関根惠子さんは大型新人でまだ10才だった私は映画を観たことはなかったのですが記憶に深くあります。

　女子高生の妊娠と堕胎を扱った1970年当時としてはかなりの衝撃作品だったようですが、その昔関根惠子さんのヌード見たさにレンタルビデオを借りた記憶はあるのですが、真面目にストーリーを観賞するのは初めてです。


　16歳のおとなしい高校生の北原美子(関根恵子)は同じクラスの優等生の加藤昇に求められるまま体育館で肉体関係を持ってしまいます。
　妊娠していることに気付いた美子は昇に相談するのですが昇は堕すことしか考えがなく、美子は昇の愛に疑問を持ち始め「死にたい」とまで話します。

　性に疎かった美子は、学校の友だちの話から母親と伯父の関係を知ってしまいます。
　美子は幼い時に父親を亡くし、毎日のように訪ねてくれる伯父さんがいたのです・・・。

　昇は産婦人科を訪ねて中絶の費用を確認すると、費用を工面するため美子にも家族にも分からない様に牛乳配達のアルバイトを始めます。

「産みたい」「学校をやめて、二人で働けば育てられる」と話す美子に、昇は「大学にも行きたいし・・・」と美子の考えには耳を貸しません。

　揺れる美子は堕胎目的でゴーゴー喫茶で激しく踊るのですが・・・。

　ある日、科学の実験の時間に一瓶の硫酸がなくなり大騒ぎになります。不良と思われている五十嵐 (篠田三郎)らが「盗んだのは女で、復習のために使われる・・・」などと噂をするために昇は気が気ではありません。昇は美子がこっそり薬品庫に入るのを見ていたのです。

　昇は美子に体育館に呼び出され硫酸をかけられるのではないかと恐る恐る体育館の裏口のドアを開けます。
　昇の情けのない態度に「心配しなくてもお腹の子供の父親のことは誰にも言わない」と言い「お腹を踏めば下ろすことができる」と仰向け寝転がる美子に無情にも昇は・・・。

　一人お腹を抱えて玄関にたどり着いた美子は、母親が呼んだ主治医の診察で流産を告げられます。

　何も聞こうとしない母親に美子は無き父親に対する愛への疑問、伯父との肉体関係、何故私を産んだのか？16才では理解の出来ない怒りをぶつけます。


　関根惠子さんはヌードデビューだったからかマスコミから不良的な扱いを受けた報道犠牲者で、一度は引退を考えた方です。
　この映画では妊娠に悩む役柄から暗い表情が多いのですが、世代的には大人気だった『太陽にほえろ!』のマカロニ(ショーケン)の恋人？「シンコ」のような静かで理知的なのが関根惠子さんのイメージです。


　休んでいた学校で久しぶりに昇と顔を合わせた美子は一方的に話します。
「終わったわ、全て。
　これから始まるのよ。
　愛、悦び、悲しみ、痛み
・・・私の青春」

　男は無責任でダメな奴なのです・・・。