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L・B・ジョーンズの解放
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『L・B・ジョーンズの解放』に投稿された感想・評価

3.5
「L・B・ジョーンズの解放」

冒頭、アメリカ合衆国南部テネシー州。とある町で葬儀屋、裕福な黒人、浮気、離婚請求、弁護士、脅迫、重機にぶら下がる死体、復讐、殺害、 偽装工作。今、人種差別から生まれる暴力と憎しみの連鎖が映される…本作は‪嵐ケ丘、我等の生涯の最良の年‬、ローマの休日‬、必死の逃亡者‬、大いなる西部、‪ベン・ハー‬等でアカデミー賞最優秀監督賞を2度受賞し、パルムドール等も受賞しているウィリアム・ワイラーが原作ジェシー・ヒル・フォードの同名の小説を映画化し、フォード自ら脚色を担当した隠れた名作として有名なこの作品を、シネマライブラリーから漸く初ソフト化され、購入して初鑑賞したが傑作だった。どうやら監督自身の遺作のようだ。 ローラ・ファラナの芝居が良かった。


さて、物語はテネシー州ソマートンに向かう列車にスティーブとネラのカップルが乗車している。彼は叔父のヘッジパスが経営する弁護士事務所にパートナーとして迎えられる。その列車には13年ぶりに故郷に戻ってきたソニーも拳銃を手に乗車している。そしてその事務所に葬儀社を営む裕福な黒人のジョーンズが浮気をしている嫁と離婚したいとの相談をしに来る。だが、ヘッジパスは彼の依頼を断り、その姿を見ていたスティーブは疑問を抱く。一方ソニーは育ての親を訪ね、自分に暴力を加えた警官、バンパスに復讐すもりだと伝える。やがて複数の登場人物による人種差別がもたらす憎しみの連鎖が始まる…


本作は冒頭から魅力的である。列車の線路を捉えるカメラ、続いて列車本体を映し、そこには白人のカップルが乗車しているのを窓越しに捉える。2人は接吻し、窓際から男の子が自転車に乗っている場面が写し出される。そして1人の黒人男性を窓越しに新たに捉え始める。彼は小さな箱に拳銃を入れている。続いて、列車が通る踏切で白人2人の警官を乗せたパトカーが止まる。列車からは先ほどの黒人が飛び降りる。それを見ていた白人警官は彼に近づき話をする。


事情を答えた黒人、それを聞いた白人はその場から去る。そしてタイトルロゴが写し出され、また列車が映り込む。そうすると冒頭で映された白人のカップルが乗車する。先程の黒人は街に行き、お店で果物を購入し、草むらに寝転び食べる。彼は先程のお店に拳銃の入った箱を置き忘れてしまい、出戻る。そこの白人亭主はその箱を預かっている。亭主は共犯者にされるのは嫌だから警察に通報してやろうかと彼に半ば脅しめいたことを言う。黒人はそれに起こり無理矢理彼から拳銃の入った箱を暴力的に奪う。

続いて、白人カップル2人がヘッジパスの経営している事務所へと行く。男はここで雇われる。そこには黒人が妻とのトラブルにより相談を持ちかける。続いて、拳銃を持った黒人は母親の自宅へと行き、久々の再会のように2人は笑顔になり話す。ここで初めて母親がソニーボーイと名前を呼び、黒人の名前がソニーだとわかる。続いて、先程の事務所へ。先程の黒人の相談をスティーブ(冒頭の列車に乗っていたカップルの男性の名前)が時間を持て余しているから僕が担当するとヘッジパスに言う。

だが、違う案件の方がいいんじゃないかと言われる。だが、スティーブはこれをやりたいと言い張る。それに折れたヘッジパスはジョーンズさんに連絡をしてくれと言い解決する。続いて閑静な住宅街を捉えるカメラ、車に乗っているカップル、葬儀社がフレームインされる。そこに黒人の老婆が私の棺を見さしてくれと言い棺を観覧する。それを説明するジョーンズ。

続いて、ダンスフロアで若い黒人女性が踊るシーンが一瞬写し出され、ソニーの家庭の模様が写し出される。彼は復讐しに来たと家族に伝える。昔、自分に暴力を振った警察官にとの事だ。ジョーンズの妻であるエマの自宅でやってきた夫が離婚話について話をする場面へと変わる。そこへシュガーボーイと言われている警察官が彼女に会いに行き、2人は夫がいない部屋で抱きつく。

続いて、事務所にジョーンズが出向き、結局離婚の話が行き詰まったことを伝え、今すぐ離婚したいと言う。そしてヘッジパスはでは火曜日にと伝える。そこではスティーブがヘッジパスにせっかく依頼を持ちかけてくれたのに断ろうとするなんてと驚く表情する。彼はスティーブにお前は黒人に対して熱心だなぁと言う。そこでヘッジパスは昔話を彼に伝える。


下っ端の警官が車の後部座席で黒人の女性に卑猥なことをするときに運転手の警察官がバックミラー越しに目の表情を捉えるアングルのショットは非常に不気味である。
それにジョーンズが後部座席で暴力を振られ、とっさに扉を開けて外へ飛び降りて廃車場に向かって警官2人に追われる場面もなかなか面白い。というか雰囲気のある廃車場での逃走劇は緊張感がある。途中で犬が現れたり、結局その犬は〇〇されちゃうんだけど…。

この映画凄いことに警察官同士が黒人を殺した。でも黒人が黒人を殺したように偽装したから安心しろとか、通報はいちいちしなくていいとか平気でこういった会話が出てくるのに正直驚く。それにジョーンズを殺害した警察官とは別の警察官が動物の死骸を引っ張るかのように引きずってフックにかけてつるす場面もえぐすぎる。

そもそもこの白人の警察官はめちゃくちゃバカである。黒人同士の殺害に見せかけるように偽装したとか言ってるけど、ジョーンズを巻き込むこの警察官やこの街の状況を考えると、黒人が黒人を殺すなんて絶対にありえない状況なのに、それを分からずにやったのか、どうなのかは知らないが、こんなバレバレな偽装でごまかせると思ったのだろうか?かなり浅はかで笑える。

だが、この映画のラストの衝撃的な殺戮シーンは脳裏に焼きつく。この小さな村で起きる空間での人種差別がいかに人々を苦しめているかがうかがえる1本だ。
最近の映画は、ステディカムのせいでやたらに動きまくる。しかし、このワイラー作品は、しっかりしたカメラワークでホッとしますね。しかし、この悲劇的な内容は、後半になるにつれ、観ていてアメリカの人種差別の根深さを感じますね。曲がエルマー・バースタインでブラック・ミュージックを書いていて良かった。
地味でTV用作品といっても通る、W・ワイラーの遺作であるが、カラーになってからのコマーシャルベースが対象・題材を強いてるかのように見えた中で、巨匠の座にあぐらをかいていない(或いはメインを外れたせいか)、事象に対し、正直な視線を回復している(或いはそうにしか題材を見つけられなかった?)。妻と他の女をイメージ的に結びつける細かいカッティングもあるけれど、基本的に’60年代のラジカルでサイケな流れから、荒んだ下地が表れてきた’70年代物トーンの流れに沿っている(ワイラーらしい広さ・深さ・高低の峻厳な図を欠く~階段の活かしも少なく)が、核にある苦渋・決断の意志や表情の押さえには力ある。車窓からの流れのシャープさや限られたカメラワークも確かだ。アメリカ地方都市の、人種間の差別とそれに根ざした屈折し歪み錯綜した依存と支配の関係と意識、それが大元・表立ったところを揺らし始めると、鬱屈し短絡的な暴力が陰で起こってゆく、それすら呑み込んでしまう体制の見掛けの不変・安定への無力・従順が端から覆い、最終的にも全てを包み込んで括ってゆく内容。内容のせいなのか、バジェット・モチベーションの為か、作品に念押しや極めがない。
日本公開当時、確か孤高の名作公開で定評のあったATG配給で中央限定、まだワイラーという名もまだまだ日本では神通力があった時代、キネ旬のベスト10に入っていた。敢えて観たいとは思わなかったが、気にはなっていた。果たして同時期のフォード(’66)やホークス(’70)の遺作の凄さ・素晴しさから比べると相当に落ちるが、名前を貶めるものでもなかった。
ワイラーは戦前から充分に尖鋭・気鋭の鬼才であったし(スラムや風説からの社会の頽廃扱ったり、女性の中の鬼を描くのに演劇・歴史世界へ入る)、戦後も世界が向き合う問題を真正面から引き受けたり・豊穣な教養をいきいき披露する巨匠ぶり、で我々の世代ではヒッチコック・フォードより一段高く見る人も少なくない。高名な撮影監督トーランドとのコラボは有名だ。個人的には、確かに気品・厳しさ・慈愛は認めるも、’50年代を中心とする、あの独特の演技最良を繋いでるのか・美学運動的契機のないカッティングには、アレルギーに近い違和感を感じ続けていた。が、今ではあれはデクパージュのルーティンによる緩み・隙間を締めて、張り詰めを戻す直感的処置だったのかな、という気も半ばしている。『孔雀夫人』『月光の女』『必死の逃亡者』辺りは傑作と思ったし、『黒蘭の女』『偽りの花園』『我等の生涯~』『女相続人』『黄昏』『ローマの休日』辺りも悪くなく、楽しませてもらった。『大いなる西部』『ベン・ハー』辺からは凡庸さが増したが。昔、結構面白かった『コレクター』も今観ればどうだろう。アカデミー賞監督賞ノミネート最多の十数回というのが信じがたい、当時のアカデミー賞はバカにして嘲るのが通例だったにしても、彼以上に優れスポットライトを浴び、更に自由に大胆な作品製作に乗り出すべき天才は数多くいた筈だ。

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