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天皇・皇后と日清戦争
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『天皇・皇后と日清戦争』に投稿された感想・評価

3.7
忘れもしない。
これを観たのは小学校3年生の時。私が歴史、特に近現代史が好きであることを知った母が借りて来てくれたビデオだった。
この時初めて、大本営が広島に移っていたことを知り、広島の子である私は感動した。故郷をとても誇りに思った。
日本が勝つと分かっているので、安心して観ていられたように思う。
母云はく「子供って残酷なものが好きなのね」と思っていたらしい笑
再見しないとなぁ。
前年の「明治天皇と日露大戦争」(1957)に続く新東宝”明治天皇三部作”の二本目。監督は「鞍馬天狗」シリーズをヒットさせた並木鏡太郎。

日本の初めての対外国戦争である“日清戦争”の経緯と勝利までを、明治天皇(嵐寛寿郎)と皇后(高倉みゆき)、農民出身の山田一太郎二等兵(高島忠夫)を軸に描く。

前作は明治神宮から始まったが、本作は伊勢神宮に“君が代”が流れてスタート。日清戦争は「侵略ではなく東洋の平和のため」と定義づけられる。明治天皇と皇后が聖人のように描かれる究極の右翼映画で、史劇としての評価は前作の方が高いようだが、右翼的娯楽映画としては本作の方が面白かった。

序盤、孝行息子の二等兵が出兵するシーンは戦時中のプロパガンダ映画「陸軍」(1944)のラストが再現される。今生の別れを覚悟した悲しみと同時に、“国の代表”という大きな名誉と誇りが描かれる。病院では皇后が傷ついた帰還兵に慈愛に満ちた言葉をかけ、明治天皇は敵捕虜への気遣いを示す。戦争映画ではあるが敵も味方も悪人は出てこない。例外の悪人は清の外交官を襲撃するチョイ役の暗殺者(天地茂)のみ。

何度も“君が代”が流れ、勇ましいシーンではマーチとしてアレンジされて用いられる。感動シーンでは「戦友」や「水師営の会見」といった有名な軍歌(唱歌)が頻発する。実物大軍艦、戦闘シーンのエキストラは前作に引けをとらない。嵐寛寿郎演じる明治天皇は立派で格好良く、皇后は清らかで(高倉みゆきは新東宝社長の公然の愛人だったが)より情に訴える右翼娯楽映画として作られている。衣装やセットの様式美も完成度が高く、鑑賞時の感覚は有名な神社に参拝し縁起を読んでいるときの気分に近いものがあった。本作は伊勢神宮に始まり、伊勢神宮を正装で参拝する明治天皇・皇后の姿で終わる。かなり宗教映画的だが、現在日本に住む者として否定しきれない美学は感じられる。

日本の対外国戦争は、政治的にも精神的にもこの日清戦争から始まった。江戸時代から遠くない明治27年当時の日本人の精神に多少ではあるが触れた思いがした。その精神が太平洋戦争にまで連綿と続いていたとも感じた。日清戦争を直接描いた映画は他に見当たらず、大変に偏った映画ながら貴重な学びの機会になった。

★追記
神社の多くは天皇直系の神が祀られていて、そこで参拝することは天皇神に祈る行為に他ならない。実際の心情は資本主義者の娯楽で自己実現の願い事をしているだけだとも思う。キリスト教のクリスマス、仏教の除夜の鐘、神道の初もうで・・・悪い言い方をすれば真似事の娯楽であり、そこに哲学は伴っていない。自分もそうだし否定するものではないが、果たして、ノンポリシーのままで有事に非戦を貫けるだろうか?本作で描かれた戦前の神道国家に自分はどのように対応できるだろうか?


■日本の対外国戦争メモ
1894(明27)日清戦争~1895
1904(明37)日露戦争~1905
1910(明43)韓国併合
1914(大3)第一次世界大戦~1918 
1918(大7)米騒動・大正デモクラシー
1931(昭6)満州事変
1937(昭12)日中戦争~1945
1941(昭16)太平洋戦争~1945

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