◎異国味ある長谷川一夫の海賊首領 滅罪も基督教

1959年 大映京都 モノクロ 90分 シネマスコープ
＊若干ホワイトノイズあるも鑑賞に差し支えなし

再見のような気もするが、前回観た記憶はほとんど残っていない。

長谷川一夫が珍しく優男ではなく、男っぽい海賊の頭目御崎庄五郎を演じている。

子分たちは大ノ字ノ安（田崎潤）はじめ荒くれ者たちだが参謀格の老爺兵衛（武田正憲）は伊留満（イルマン＝神弟、平修道士）を名乗り、少年のような少女小金（弓恵子）にデウスの教えを授けている。

【以下、一応ネタバレ注意⚠️】










ただ、庄五郎の前日譚として、旗本だったのか、大阪の蔵屋敷勘定方だった時分は、長谷川一夫らしい凛々しいが優男な青年武士ぶり。

美しい花魁綾衣に心底惚れていた庄五郎は次第に金の工面に窮するようになった。
信頼していた上役川島源次郎（河津清三郎）に問題ないからと念押しされて、一時的に借りたつもりの剰余金着服が発覚し、捕縛されて入牢。
川島とその上司大脇次右衛門（浅尾奥山）が自身の公金横領の罪を着せるため、庄五郎は罠にハメられたと気がつき、脱獄して綾衣も上役の一味だったと知り、三人を惨殺して逃亡。

長崎で略奪品を売り捌き、子分たちと妓楼で大騒ぎしていた最中、盗品に足がつき役人が動き出したと聞いて一行は急ぎ出航。

ところが船には、豪商の娘お糸（京マチ子）と手代幸七（木村功）が駆け落ちのため密かに乗船していた。
幸七は、お糸を代償に差し出すから自分の命だけは助けて欲しいと懇願。
怒ったお糸にも見限られ幸七は海賊の刃にかかり落命した。

普段は略奪した女たちも全て子分たちの一夜妻として自分は指一本触れることもなかった
女嫌いとして通っていた庄五郎だったが、あまりにも綾衣に似たお糸に心動かされた。

珍しく自分の部屋に呼び、「俺の一夜妻となれ」と命ずるが靡かない。

怒りに任せ、他の女たちと同様に、子分たちに差し出したが、「幸七もお前も、男は何でこうなんだ。女は何でこんな目に遭わなくちゃいけないんだ」と満身で怒りを露わにするお糸の姿に庄五郎の心は揺れ動いた。

悔い返した庄五郎は、追っ手が迫るなか、お糸を陸に返すことを決意する。

すんでのところで船手奉行の砲弾を避け、セントエルモノの火が帆柱に灯るなか、船は追っ手から遠く逃げ去ることができた。

庄五郎は、この機会に日本を離れ、遠く南方へと旅立つことを期していた。

「俺たちの罪はデウスの神が清めてくれるのだろうか」

‥‥愛する女性（ただし遊女）に裏切られた男が、女を性欲処理の対象としてしか見ない典型的なボーイスクラブである海賊衆の頭目になったが、「自己主張する女」の登場で、その「罪」に気がつき、これからはその罪滅ぼしをしようと決意する話で、そこにキリシタンノ要素が絡んでくる。

ボーイズクラブの行き着く果てとして、悲惨な敗戦を招いてしまった日本が、連合国（キリスト教国）の指導で、男女平等の民主主義国としての再生を誓う構図を、長谷川一夫の姿を借りて描いたのだとも解釈できる。

だが、勘定方の経済官僚だった武士が、海賊になった経緯、理路は判然としないし、かつて裏切られた女と似た駆け落ち女によって悔い改めるというプロットも分かるようで良く考えると納得できないものが残る。

伊福部昭の音楽含めて、無国籍な海賊船の風俗は面白い（風俗考証が甲斐庄楠音だけあって兵衛は辻が花染めを着用）が、船が舞台の物語で感じる空間的な狭さの弊は本作も免れていない。
リメイク前の作品の方は未見だが、本作については成功作とは言いがたい。

《参考》
＊1 「女と海賊　1959年の映画」で検索
ja.m.wikipedia.org/wiki/

＊2 女と海賊
1959年4月1日公開、90分、時代劇
moviewalker.jp/mv25991/

＊3 俺の命はウルトラ・アイ
女と海賊　伊藤大輔監督作品（三）
2021-10-07 05:00:00
ameblo.jp/ameblojp-blog777/entry-12702253919.html

＊4 チャンバラワールド
長谷川一夫のチャンバラ映画
www2u.biglobe.ne.jp/~kazu60/hhei2/hkch4.htm

《上映館公式ページ》
京都文化博物館
特撮魂！映画職人の夢と汗
2024.8.6(火) 〜 9.5(木)
www.bunpaku.or.jp/exhi_film_post/20240806-0905/

京マチ子がキレることで長谷川一夫と互いに異性への怨念を抱いて行動することになる、というプロットは良いのだが、結局すぐ改心して長谷川一夫になついてしまうので肩透かしに。
船を丸々一艘作り上げたセットは大したもんだが…。

　弓恵子さん演じるみなし子女海賊・小金の可愛らしさで☆一つ追加。

　終盤で彼女がお頭率いる海賊たちと運命を共にしようとしたものの、お頭や兵衛の意志を慮ってああいう決断をしたところも熱かった。