【2003年キネマ旬報日本映画ベストテン　第6位】
『秋津温泉』吉田喜重監督作品。第55回カンヌ映画祭では特別招待作品として上映された。

吉田監督はなんていうんだろう、あまりにお手本的すぎてどうしてもハマれない。いい映画だったかというとそうなんだけど。

もちろんクオリティ的には間違いない。カメラワーク、美術、キャスト、全てが一級品。岡田茉莉子、田中好子、一色紗英ほか全てのキャストが見事な演技を披露している。

でもそれ故に逆に人間離れしすぎている感じもする。あまりに完璧すぎてつけいる隙がないというか。

僕は隙があっても何かがドカンとくるような映画が好きなので…単純に好みの問題かな。よくできているし、いい映画なのは間違いない。静かなストーリーテリングが好きならいいのかも。

• #キネ旬日本ベストテン2003
• #第55回カンヌ国際映画祭

松竹ヌーヴェル・ヴァーグを代表する前衛芸術派・吉田喜重監督の遺作。
3世代の女性の葛藤や記憶を通して、広島の原爆という重いテーマを扱う。
撮影は中堀正夫。
音楽は原田敬子と宮田まゆみ。
(2002、2時間10分)

都内で暮らす川瀬愛(岡田茉莉子)は、24年前に女児を出産後に失踪した娘の美和が見つかったと連絡を受ける。
だが、尾上正子と名乗るその女性(田中好子)は川瀬美和名義の母子手帳を持っていたが、過去の記憶を失い、幼女誘拐容疑で逮捕されていた。
愛は、孫娘の夏来(一色紗英)をアメリカから呼び寄せ、釈放された尾上正子と対話を重ねて、母子関係に繋がる過去を蘇らせようとする…。

～登場人物～
1️⃣メイン・キャスト(3世代の女性)
①川瀬愛(岡田茉莉子):5年前に医師だった夫(シンジ)が死亡。24年前に娘・美和は女児を出産後失踪。
②尾上正子(田中好子):記憶喪失。幼女誘拐容疑を受ける。川瀬美和名義の母子手帳を所持。スーパーのレジ係。
③川瀬夏来(一色紗英):愛の孫娘。アメリカ在住。ゲノム解読に従事。自分のアイデンティティを探し求めている。

2️⃣サブ・キャスト
・〈役所の戸籍係〉ゴウダ(室田日出男)
・〈正子の身元引受人/ 愛人〉ミツオカ ゴロウ(西岡徳馬)
・〈TVプロデューサー〉ハヤシダ ナオコ(山本未來):広島で被曝したアメリカ兵についてのドキュメンタリー番組を企画。
・〈夏来の大学時代の先輩〉藤村純(北村有起哉)
・〈老夫婦〉マツキ ハナエ(三條美紀)&リュウゾウ(犬塚弘):正子に自分の娘ではないかと申し出てDNA鑑定を請う。
・〈警官〉石丸謙二郎
・〈アメリカ人捕虜〉ピーター大尉(登場しない)
・〈アメリカ人捕虜の通訳官〉イザワタカシ(登場しない)

"母子手帳"
"紅茶のカップに付いた口紅"
"ヒステリーによって割れた鏡"←フロイト理論
"C級戦犯"、"原爆後遺症"、"黒い雨"
"少女の影"

①岡田茉莉子が封印してきた過去が、記憶を喪失した田中好子と過ごす過程で明らかにされる。
田中好子の記憶が甦ったかは謎だが、岡田茉莉子は胸につかえていた秘密を解放し、一色紗英は自分のアイデンティティを見つける。
そして、物語は最後まで暗いトーンのまま終わる。
②原爆投下がもたらした悲劇を生々しい映像を見せずに表現。ただし、前衛芸術家特有の分かりにくい部分があり、鑑賞者の読解力が試される。
不安を煽るため意識的に使われる不協和音は狙いどおり耳障り。
物語のテンポが少し遅く感じられ、緊張感が緩むところがある。
③原爆の影響は世代を超えて継続する。
また、被曝者の中にアメリカ人もいたことを忘れてはならないとしている(原爆/被曝は日本人だとかアメリカ人だとかを選ばない)。

吉田喜重監督作品。吉田監督の遺作であり、室田日出男さんの遺作でもある本作は原爆と3世代に渡る女性たちを描いた反戦映画となっている。吉田監督の作品なので、いつも通り画がきまっている。岡田茉莉子さん演じる川瀬愛が広島で昔を語るシーンや、障子が真っ赤になるシーンなどが印象に残る。そして、ホラー映画じゃないのに、ホラーのような不気味さが作品全体から漂う。全体としてクオリティが高く、観応えのある作品だった。しかし反戦映画にしてはちょっと分かりにくいし、広島に行くまでの尺が長く、テンポが悪かったのが残念だった。