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世界大戦争のHKのレビュー・感想・評価

世界大戦争(1961年製作の映画)
4.0
東宝の二枚目スター宝田明(享年87歳)の訃報を聞き、追悼鑑賞はやはり東宝特撮を。
東宝特撮でタイトルに“大戦争”と付くと伊福部昭のマーチが高らかに鳴り響く『宇宙大戦争』や『怪獣大戦争』などの娯楽SFを思い浮かべますが本作は全く別物です。
初見でしたが、大真面目に第三次世界大戦への警鐘を鳴らす、今こそ観るべき力作でした。

戦後16年経った高度成長期の昭和の日本が舞台ですが、十分現代に、いや現在に通じる恐ろしさが伝わってきます。
復興後の社会で慎ましく平和に暮らすフランキー堺(当時32歳)演じるタクシー運転手の一家が中心に描かれます。
その妻には音羽信子(当時37歳)、娘は星百合子(当時18歳)、娘の恋人に宝田昭(当時27歳)、娘の下にもまだ小さな二人の姉弟がおり、冒頭はその子たちの七五三のシーンから。
ささやかな明るい未来を夢見る主人公たちの生活と並行して、冷戦下の東西の小競り合いが見えないところで徐々に進行し、最悪の事態に向かっていきます。

本作ではあくまで主となるのは人間ドラマであり、特撮技術はそれを支える役割ですが、要所を押さえた円谷英二によるミニチュア特撮には目を見張るものがあります。
特撮によって描かれる大惨事が地震や津波などの自然災害、ましてや怪獣・異星人の襲来によるものでなく、人間同士の醜い戦争が原因であることが却って虚しさを際立たせます。

出演は上記の他にも笠智衆、白川由美、東野英治郎、山村總、上原謙、中村伸郎などベテラン揃い。序盤ではフランキー堺とジェリー伊藤が同年公開の『モスラ』と同じく揃って登場。初々しい星百合子はレギュラーとなる若大将シリーズも同年に始まります。“ニッセイのおばちゃん”こと中北千枝子がプロデューサー田中友幸の奥さんだったとは初めて知りました。

刻々と変わる世界情勢も描かれるため外人の出演者も多く、子供用の怪獣映画なら吹替のところを本作では全て字幕で通しています。
音楽は『パイプのけむり』などエッセイストとしても有名な團 伊玖磨。
監督はコメディ(『社長シリーズ』他)から戦争物(『連合艦隊』他)まで器用にこなす松林宗惠。僧侶でもある変わり種の監督で本作では無常観を表現したかったとか。

昭和世代には懐かしき昭和の風物もしっかりと描かれているのも印象的。
船上の笠智衆のセリフが切ないラストは『渚にて』に通じるところも。
タイトルがドストレートで趣も何もありませんが、今だから多くの人に観てもらいたい映画です。
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