「みわたす限り、お前の人生よ。」

街中をバスが走ります。
バスに乗りながら、マルタは考えます。

最近マルタの周辺では奇妙なことが起こります。働く人々が彼女の目の前で楽しそうに踊るのです。
彼女は楽しく思いますが、一緒に踊ることが出来ないので茫然とするばかりです。

とても変わった始まり方でした。

学生の内に優秀とされていたマルタは就職が上手くいかず、コールセンターのテレフォン販売と子守のバイトをすることになりました。
そんなマルタの日々が描かれます。

コールセンターの会社は意味のない機械を多額に買わせています。それを知りながら、他に仕事がないので働くマルタ。

日本でもそんな女性はたくさんいるのではないでしょうか。
きちんと大学を出ていながら、ちゃんと勉強出来ていながら…納得できる就職をできない人。

見渡す限り、自分の人生。
思い通りにならないことばかりでも、自分らしく生きていきたい。
見渡す限り、自分の人生だけなのだから。

「あんな仕事でも唯一の生きる道なのよ！」

♫ケ・セラセラ
なるようになるわ。
先のことなど わからない♫

ケ・セラ・セラ
なんとかなるよ。

そんなラストにちょっと救われる。

• #tulpen+2019

パオロ・ヴィルズィは好きな監督。現代の人間疎外甚だしい労働環境、非正規雇用者の不遇をシニカルに描いた社会派ブラック・コメディ。着地も問題解決の爽快感というよりは苦味の方が強かった。でも如何にもイタリア映画らしくパワフルな演技に溢れていて、とても気に入った作品。

主人公マルタ(イザベラ・ラゴネーゼ)は聡明で大学の哲学科を優秀な成績で卒業するがアカデミックな職は勿論のこと、コネもない彼女は一般職にも就くことができない。仕方なく偶然知り合ったソニア(ミカエラ・ラマゾッティ)宅の住み込みベビーシッターとなり、そのツテで胡散臭い浄水器などを扱う健康機器メーカーの電話セールス・レディとして非正規雇用者の一員になる。この会社のいかがわしさ満載感や登場する男ども…労組活動員(ヴァレリオ・マスタンドレア)に至るまで悉くクソな様子、果ては痴情のもつれまで暴走し、そのとばっちりを食う笑うに笑えない状況…いや、もうこれは笑うしかない。
エリオ・ジェルマーノ、サブリナ・フェリッリらも含めた多彩な顔ぶれの競演も見応え充分。