◎ハプスブルク家末裔超美少女のviolin とballet

1955年 芸研プロ製作 新東宝配給 モノクロ 84分
スタンダード　＊ホワイトノイズあるも支障なし

1952年の小津映画『お茶漬けの味』（2024.3.25レビュー）の冒頭近くでタクシーに乗車している木暮三千代が「ノンちゃん雲に乗る」と言うのは、本作公開前だから、石井桃子の原作が如何にベストセラーだったかを物語る証言として貴重だろう。

本作には原節子がノンちゃんの母親役として出演していることが注目されがちだが、何と言っても、10歳の超絶美少女鰐淵晴子（1945- ）なくしては成し得なかった奇跡の一編だ。

【以下ネタバレ注意⚠️】





子役を主役とする映画には、是枝裕和監督の『誰も知らない』（2023.12.25レビュー）の柳楽優弥、スティーヴン・ダルドリー監督の『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』（2023.12.26レビュー）のトーマス・ホーン等、彼／彼女以外には考えられないほどのハマり役を観せて、共演の大俳優を圧倒してしまう場合がある。

本作の鰐淵晴子も、まさにその例に漏れない。

とにかく日本人ヴァイオリニストの父賢舟とハプスブルク家の一員だった母ベルタ（＊1 ）との間に産まれたあどけない彼女の見事に整った顔立ちは、この世のものとは思えないほどだ。

＊1 鰐淵晴子さんフォトギャラリー
成人式で母のベルタさんと
　※インタビュー記事へのリンクがあります
yomidr.yomiuri.co.jp/article/20230802-OYTET50018/?catname=column_wellness-talk-gallery

その上、高めの声までがコロコロと鈴を転がすように美しく、歌えば完璧なガールソプラノの喉を聴かせる。

ヴァイオリニストとしては、すでに天才少女演奏家として、コンサートでの経験も積み重ね、バレエも本式で、多くの少女の群舞を引き連れて、素晴らしいプロポーションのプリマぶりを観せる。

子供向け映画として製作されているが、天才少女歌手美空ひばりを迎えた映画のように、本作も、天才美少女鰐淵晴子をフィーチャーした作品に違いない。

お兄ちゃんのタケシ（高崎敦生）は見た目は賢そうなのに、お父さんに怒られてゲンコツ喰らわせられると、「お父さんが僕をブったぁ」と泣き出すあたり、小津安二郎の『お早よう』で笠智衆の息子を演じている設楽幸嗣の演技とそっくりだ。

タケシは、他の男の子たちがインディアンごっこに興じているときにも「僕は源平が好きなんだ」と言いながら、那須与一ごっこを一人でやっている。
それを鰐淵晴子のノンちゃんに「逆コースね」と言わせているのは、さすがに原作からではなく映画化した際に当時の流行語を取り入れたのだろうが、小学生までがそんなことホントに言ってたのだろうか？

徳川夢声の雲のおじさんは、現実編の雛壇の高砂の尉の化身ですな。

原節子の母親は想像以上にハマっていたが、藤田進はどう見ても司令官殿で、いくら貰っても父親としては願い下げにしていただきたいですな。
司令官殿にビンタ喰らわせられた日にゃ、誰だって声をあげて泣きたくなります。

現実の父親鰐淵賢舟は、黒柳徹子の父親のあと、新響（現在のN響）のコンサートマスターをつとめたらしい。
そう言えば、本作の舞台は浦和あたりと自由が丘より自然が多い田舎だが、アスペルガー症候群の気を疑わせる主人公のキャラクターといい、東京近郊のアッパーミドルの家庭の暮らしぶりといい、『窓際のトットちゃん』との共通性を強く感じさせる。

原作は、このあと、兄や長吉が出征することで終わるらしい。
本作を観たあとに残る何とも言えない寂寥感のよって来る理由はその辺にあるのだろう。

子どもたちを戦地に送るようなことだけは繰り返したくないものだ。

《その他の参考》
＊2 「ノンちゃん雲に乗る」で検索
ja.m.wikipedia.org/wiki/

＊3 ノンちゃん雲に乗る 作品情報
movie.jorudan.co.jp/film/24325/

＊4 空飛ぶ自由人・２
映画『ノンちゃん雲に乗る』
24/06/28 23:00
blog.goo.ne.jp/lukeforce/e/7269af45af6c16c58970bddaeefbc481

＊5 こどもと映画を楽しむ
ノンちゃん雲に乗る
kodomoeiga-plus.jp/2012/04/11/movie109/

＊6 サブロジーの日々是ずく出し
映画『ノンちゃん雲に乗る』～幼児期の記憶
2019年01月16日09:40
saburojii.blog.fc2.com/blog-entry-503.html

＊7 懐かシネマ劇場第7回　ノンちゃん雲に乗る
２００６．７．１８改
genir.sakura.ne.jp/nonchan.html

＊8 徒然なか話
ノンちゃん雲に乗る　～鰐淵晴子～ 09/02/10 23:12
blog.goo.ne.jp/np4626/e/c432f2c98f0d2d97183e085a44299ed0

＊9 Dreaming field―夢は世界をかけめぐる
石井桃子『ノンちゃん雲に乗る』～浦和界隈
2016/01/31 19:58
innergame.seesaa.net/article/201601article_2.html

＊10 心地よく秘密めいた書棚～
120字の映画館No.28　新東宝映画 その５～「ノンちゃん雲に乗る」
2020/12/08 10:55
vellum-anp.seesaa.net/article/478901985.html

＊11 おたま未亡人日記　ノンちゃん雲に乗る
2010/10/21 7:53:19
nurebumi.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/eba-4.html

＊12 久恒啓一のブログ「今日も生涯の一日なり」
2010-06-15
「ノンちゃん雲に乗る」（石井桃子）
k-hisatune.hatenablog.com/entry/20100615

＊13 幻想館　ノンちゃん雲に乗る
www.ne.jp/asahi/gensou/kan/eigahyou64/nonchankumoninoru.html

＊14 唐沢俊一　裏モノ日記　2011.2.28
古い映画をみませんか・１２　『ノンちゃん雲に乗る』
www.tobunken.com/diary/diary20110228172829.html

＊15 映画音楽書物遊戯等断罪所
ノンちゃん雲に乗る（モノクロ） BBB
2006/01/2300:01
danzai449.blog19.fc2.com/blog-entry-4673.html?sp

＊16 永遠のセルマ改め、「チネマ神戸」懐かし映画
2020年9月3日
ノンちゃん雲に乗る 1955 新東宝製作・配給
cinekobe.com/ノンちゃん雲に乗る-1955-新東宝製作・配給/

＊17 Club Blog-Gamo Bazil's Blog of "B"
ノンちゃん雲に乗る　2010/03/30 23:43
blog.livedoor.jp/badzilla/archives/51805406.html

《上映館公式ページ》
シネヌーヴォ日本映画大回顧展
新東宝 映画まつり
　Preseted by 新東宝キネマノスタルジア
2024.7.6〜9.6 シネ・ヌーヴォ
www.cinenouveau.com/sakuhin/shintoho2024/shintoho2024sakuhin7.html

いやぁ テーマは深いんじゃないかな
いわゆる優等生みたいな良い子が 裏に抱える問題っていうのかな
正しい事を正しくするだけじゃ生きていけない 世の理不尽さの認知みたいな 妙に大人な視点を 純朴な鰐淵晴子に要求してる感じが とてもファンタジーだった
確かハーフだったからか 妙に大人びた表情も それに拍車をかけてたなぁ
しかし 原節子はいつ見ても美人だ

石井桃子のことはもちろん尊敬しているし、「ノンちゃん雲に乗る」も大傑作なのだが、優等生的な鰐淵晴子を軸にしたこの映画はあまり評価できない。その辺の子供の「お嬢さま」への憧れに当て込んで作品が作られていた時代があるんだなと。
原節子の魅力に3.5点。