ダグラス・サーク、もしくはデトレフ・ジールク制作のオランダ映画は2本あり、1本目は永遠に失われたと考えられているデビュー長編"April, April!"のオランダ語版"'t was een april"(1936)であり、2本目がナチスドイツによってオランダが占領される前年に制作された"Boefje"であるが、オランダの児童小説を原作とした本作はアメリカやシカゴのギャングに憧れる少年を主人公としており、彼を演ずる Annie van Ees(アニー・ファン・エエスか？)の顔面、特に鼻梁の太々しさ、常に地面に唾をブチ撒ける態度は正に児童映画に相応しい、身体的にも精神的にも反社会的な人物でありながら、サークは彼の反社会性を動作として魅せることにあまり頓着していない代わりに、鷹揚として彼を更生させんと奔走する牧師の凡庸な寛容さにこそ着目してしまい、その挙句、犯罪を犯して収監された少年が神に祈るや否や実際に改心し、更にその犯罪自体も赦されてしまい、最後には教会のパイプオルガンの清冽な響きと壮大さに恍惚を抱くという様は、Marvelとともに2010年代のハリウッドを席巻したキリスト教啓蒙映画の醜さをも包括しており、それなら飛行機事故から奇跡的に生還した直後から俗悪の極みとしてのキリスト教啓蒙映画を作り続けたRon Ormond ロン・オーモンドさながら、もはやアンチ・キリスト教映画と見分けがつかない先鋭化したものが観たいと想いながら、この頃の何とも温い映画を連発していたサークには望むべくもないが、"インディアン"の扮装をした男に少年がアメリカ移住の費用を執拗に尋ね、オランダ語が分からない(という設定の)男に業を煮やして"コイツ、酒臭えな"と吐き捨てた後に"このガキ、地獄に堕ちろ！"と反撃を受ける光景には、ここにおいて無邪気なまでに微笑ましく差別的なサークの意識が巡り巡って、とうとう「アパッチの怒り」にまで至ってしまうアメリカ映画史の奇妙さに思いを馳せてしまう。上にもちゃんと唾を吐け。