初のチャン・リュル監督作品という事もあり、かなり独特な作品で新鮮だった。個人的には心地よさすらある。まずは冒頭の古本屋から、浮世ではない世界観を見せつけられる。

福岡という街の、なんてことのない居酒屋や路地、タワーから見る景色、それらは特別美しいわけでもなく、雑多な風景であるのだが、どこか現実味が薄く不思議な雰囲気がある。

恋愛に纏わる話であり、2人の男の後悔についての話でもある。福岡という街の中で漂うように老いた二人と少女が歩く姿、時折ファンタジーにもなりうるその展開が見事だった。

　ジェムン（ユン・ジェムン）は草臥れた様子で奥の特等席にどかっと腰を下ろす。というか腰に力が入っていないようにも見受けられる。本が書棚に入り切らず、何層にも積み上げられた古本屋はさながら迷宮のようで、この地を訪れた若い少女ソダム（パク・ソダム）は「そうだ、福岡へ行こう」と唐突に店主を日本へと誘うのだ。2人の関係性は最初、完全に父娘に見えたものの2人に血縁関係はなく、親戚の子でもないようだ。ではなぜ古本屋の店主が突然の福岡への成り行き旅行を承諾したのかわからぬまま、白色灯のつかぬ迷宮のような書棚のレイアウトに帰り道に気をつけるようにと言ったジェムンの方がソダムよりも実は遥かに危うい道行だ。次のカットでは既に福岡にいて、心細い50歳のおっさんは若い少女ソダムの3歩後を歩く。ソダムを道先案内人とする2人の旅はその実、ほとんど観光らしき観光をしない。ほとんどソウル市内での散歩や彷徨と同じレベルの徒歩ばかりだ。呑み屋の看板や電線など、福岡の街には昭和のどこかあの頃の情緒が残る。この風情溢れる街で2人はとある喫茶店に入るのだがそこにはジェムンと旧知の中のヘヒョ（クォン・ヘヒョ）がいた。

　2人の会話は最初あまりにもぎこちない。韓国らしい先輩・後輩の厳格で辿々しいやり取りの後、徐々に2人の病巣が浮かび上がる。すっかり草臥れた2人は遠い目をしながら、28年の時に想いを馳せる。『群山』ではあまりにも生々しい先輩の元妻ソンヒョン（ムン・ソリ）が目の前にいるが、福岡出身の女性は2人の想いの中にしか居ない。むしろ28年にも及ぶ確執からの再会をお膳立てしたソダムの方が当時のあの人の歳に近い。チャン・リュルの映画はまず空間を決め、カメラのポジションを決め、俳優たちの配置を決めた時点からほとんど役者のフリー・ハンドに身を任せ、カメラに収めて行く。そのため監督はスタートとカットしか言わない。その上役者たちの情緒に身を委ねるとカットまでのタイミングはどんどん長くなる。役者たちの三者三様の身振りは草臥れた中年男性の自分巡りの旅だ。いつも口喧嘩や小言が絶えないがその実、ほとんど兄弟のような身振りを見せる男たちの傷の舐め合い、そして詫びしき背中。福岡の街そのものが彼らの詫びしき道行を支える。その様子はどこかファンタジックな幻想譚にも見えて来るから不思議だ。聾唖の中年の突然の発声などそれでも前に向かう心の有り様は見えるが、あの少女のキスは必要だったろうか。『群山』のあまりにも冗長な121分を踏まえ、88分に落とし込んでいるが体感としてはそれでも長い。おそらく70分あたりが適性で妥当な時間だろう。

2022年映画ベスト50位〜31位まで

㊿窓辺にて（今泉力哉）
㊾ベイビー・ブローカー（是枝裕和）
㊽すずめの戸締まり（新海誠）
㊼インフル病みのペトロフ家（キリル・セレブレンニコフ）
㊻トップガン マーヴェリック（ジョセフ・コシンスキー）
㊺ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行（マーク・カズンズ）
㊹スパイダーマン：ノー・ウェイ・ホーム（ジョン・ワッツ）
㊸メタモルフォーゼの縁側（狩山俊輔）
㊷川っぺりムコリッタ（荻上直子）
㊶ザ・ビースト（ロドリゴ・ソロゴイェン）

㊵バビ・ヤール（セルゲイ・ロズニツァ）
㊴最後の決闘裁判（リドリー・スコット）
㊳ケイコ 目を澄ませて（三宅唱）
㊲GAGARINE／ガガーリン（ファニー・リアタール. ジェレミー・トルイ）
㊱アトランティス（ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ）
㉟パラレル・マザーズ（ペドロ・アルモドバル）
㉞モガディシュ　脱出までの14日間（リュ・スンワン）
㉝そばかす（玉田真也）
㉜グリーン・ナイト（デヴィッド・ロウリー）
㉛女神の継承(バンジョン・ピサンタナクーン)

パラサイトのパク・ソダムちゃんが福岡を舞台にした映画に出る？この情報だけでずっとclipしておいたのがようやく観ることができました。

日韓コラボ映画特集という企画の中の一作品とのことで。当初は去年の春に日本公開予定だったようですが、日韓関係の影響で公開延期だったとのこと。韓国ではすでに公開されており、初週目は9位だったとか。

「ジェシカ、一人っ子、イリノイ、シカゴ」でわたしのハートをぶち抜いたあのパク・ソダムを90分丸々楽しめます。

鑑賞後はZOOMを使って、監督からリモート舞台挨拶もあり楽しかったです。ちょっと内容は高尚過ぎてよくわからなかったのですが…監督の中で映画＝生きること、と同義とのことで。

恐らくですが…言葉によるコミュニケーションや、性別や人種による壁を取っ払い、時間軸や空間など物理的距離感すらも超越した、人間同士の純粋な恋愛物を描いていたのではと思われます。


ロケ地情報はこちらから。
天神や大名など普段見ているエリアがたくさん出てきます。NTTの鉄塔とか、キャナルシティとか中洲とか。

https://yokanavi.com/feature/192491/


今のところ上映館は福岡のミニシアターKBCシネマの一館のようですので、気になる方は他の作品と合わせてこちらから有料でストリーミングレンタルにて鑑賞できるようです。

https://vimeo.com/ondemand/koreajapan






ところで皆様、ワンダヴィジョン観ました？？

MCU史上初のシットコム、でもそれだけに終わらない演出の数々、そして豊富にまかれた小ネタたち。最高のドラマでした。マーベルロゴが最新になってるだけですでにテンション上りまくり。

全9話、以降金曜日に毎週配信とのことで楽しみすぎです。

そのあとはすぐにバッキー&翼も控えており、再延期がなければブラックウィドウとMCU続きの幸福の日々が…

マンダロリアンもディズニーに魂を売ったからにはとことん楽しんでおりますが…

ディズニープラスのサーバーの貧弱さは一体何…ワンダヴィジョンの初日はエラーで一向に観れないからダウンロードにしてようやく観れたし。夜はいつもだいたいプツプツ途切れるし。

Netflixではこうならないので、おそらくうちのネットワークの問題ではないはず。

月額1000円に上げてもいいから、ちゃんとサーバー強化して視聴環境は整えてほしい…せっかくの素晴らしいコンテンツなのに、プラットフォームがクソしょぼいとか…天下のディズニージャパンさんよ、マジで頼みますよ…お金儲けも大事ですが、ユーザーの満足度を上げることにも少しは興味持った方がいいよ…まじでこれディズニーマイナスですよ…