アカデミー賞最多7部門受賞で話題の『オッペンハイマー』（'23）の事前学習のつもりで観たのですがちょっと違ったかな…。『オッペンハイマー』のほうは、大戦終結の立役者がなぜ“反逆者”扱いとなったかを軸に描かれていたので、Wikiとかで“赤狩り”の線でおさらいしておくとよいと思いました。

本作の方はアルベルト・アインシュタインの伝記モノで再現ドラマを取り混ぜたドキュメンタリー。アインシュタインと原爆がどう関わっているのかを、よく理解していなかったことが自覚できたのが収穫かな。アインシュタインがドイツから亡命した背景やその後の足跡、人類最大の発明をした天才ならではの苦悩が描かれていました。

アインシュタインが原爆の開発には携わっていないことはなんとなく知っていました。では、相対性理論と原爆の発明との繋がりがわかるのかな？と思っていましたがこの辺の説明はサラッと、でした。

その代わりアインシュタインがルーズベルト大統領に書簡を送り、早急な原爆開発を進言したことについては、割と時間を割いて描かれていました。平和主義者の彼がなぜそんな進言をしたのかが少し理解できた気がします。

オッペンハイマーの予習

世界で最も有名な科学者の1人であるアルバート・アインシュタインは、平和主義者であった。

だが迫り来るナチス・ファシズムの足音が、この天才物理学者に原爆開発のきっかけを作る引き金を引かせてしまった。

ナチス政権下のドイツから逃れたアインシュタインは、イギリス経由でアメリカに渡り、ドイツが原子爆弾の製造に着手したとの情報を知る。

平和主義者ではあるが、反ファシズムの彼はヒトラーの手元に原子爆弾が渡ることを心底恐れたことだろう。

誰よりも原子爆弾の絶大な効果と恐ろしさを知るアインシュタインは、1939年にフランクリン・ルーズベルト大統領に対し書簡を送り、アメリカ政府に原爆の開発を急がせることを進言した。

これを受けてウラン諮問委員会が設置され、1941年に原爆製造を具体化する〝マンハッタン計画〟がスタートする。科学部門のリーダーにはロバート・オッペンハイマーが指名される。過去の反戦的な言動が問題視され、アインシュタイン自身はマンハッタン計画には一切関与していない。

つまりアインシュタインの原爆への関わりは、当時のアメリカ大統領に宛てた原爆開発を促す手紙に署名をしただけなのだ。だが結果的に〝抜群の知名度であった天才〟からこの書簡が、広島、長崎に投下された原爆の開発へとつながった。

その後、アメリカはドイツが核爆弾の開発に失敗したことを知る。ドイツが降伏すると標的は日本へと切り代わった。そしてその時、〝マンハッタン計画〟＝原子爆弾の製造は成功する。

1945年8月に２つの原爆が広島と長崎に投下され戦争は終わった。

のちにアインシュタインは、アメリカに技術開発を勧める以外に当時は選択肢がないと感じていたと語っている。同時にドイツが原爆の開発間近との情報は誤報だったと知り、この書簡は結果的に〝大きな誤り〟だったとも話している。

映画としてのクオリティはともかく、記録映像やアインシュタイン本人の言葉を交えて、苦悩に満ちた天才の知られざる素顔を知ることができるドキュメンタリードラマで、公開中の映画「オッペンハイマー」のサブテキストとしては、うってつけなのではないだろうか？



〈余談ですが〉
映画の中で新聞記者に相対性理論をわかりやすく説明するのに〝美女と公園で座っていると1時間が1分に感じるが、熱いストーブの上に座ると1分が1時間に感じる〟と例えるなど実際のアインシュタインはユーモアに溢れる人として知られている。

その彼が〝科学の発明は人類への祝福であり、呪いであってはならない〟と説いていた。

だが、発明は時として科学者たちの手を離れ別の道を歩んでしまう。クリストファー・ノーランの「オッペンハイマー」は、〝マンハッタン計画〟の前後を別の視点で描いていると聞く。果たしてノーランがどの様に描くのか、明日劇場で確認してきたいと思う。

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