今年584本目

ベトナム戦争の悲惨さを表す、ナパーム弾を受けて裸で走る少女の写真
歴史の教科書に載ってた記憶があります。
この写真を撮ったのは誰なのかを追ったドキュメンタリー映画

• #ドキュメンタリー

ベトナム戦争において、反戦ムードを一気に高めた一枚の写真をめぐる疑惑を追っていくNETFLIX最新のドキュメンタリー。その写真がピュリッツァー賞を受賞して撮影者が世界的な賞賛を受ける中、実際に写真を撮影した別の人物が浮かび上がり、真実を追っていく過程がスリリングで手に汗握った。組織の都合によって真実が隠されるというのはいつの時代にも起こりうることで、微力ながらもこうした取り組みが真実を暴き出すというところに創作活動の意義を感じた。

ベトナム戦争下の1972年、ナパーム弾の攻撃で火傷をし、泣き叫びながら走る裸のベトナム人少女を捉えた衝撃的な写真はあまりにも有名。冒頭でその様子を捉えたビデオ画像が流れて、動画も残ってたというのが驚いた。この写真を撮ったとされるベトナム人の写真家ニック・ウトがAP通信社の所属だったことをきっかけとして、実は無所属の別の写真家がその写真を撮ったのではないかという疑惑が生じる。原題にある”The Stringer”（ストリンガー）とは雇用されない独立系ジャーナリストのことで、周辺人物の調査を通してグエン・ゲというベトナム人の名が挙がり、中盤でようやく本人が登場するのがワクワクさせる。

グエン・ゲが重要なフィルムをたった20ドルで売ってしまったのが貧しい生活環境を思わせて歯痒く、彼が50年以上秘めていた思いをようやく語り始めるところは胸が締め付けられる。法医学専門グループによる調査結果が多角的な視点で語られるところは、ちょっとアントニオーニの「欲望」を思わせるサスペンス味が漂って思わず引き込まれた。終盤で2025年の最新事情が説明され、本当に今起きているリアルなことなんだなと実感。年老いた当時の撮影スタッフが発した「真実が無視されるときに世界は腐敗する」という言葉が重く、SNSのデマに振り回される現在の世界的な状況に思いを馳せた。

興味深い題材、真実を追求する過程を映画にしたこと。誰がどのように企画して形になったのだろう。構成も質も高く見応えがあった。
これだけ理詰めにされると写真を撮ったことになっている人もさすがに辛い。ただ、すぐに自分が撮った写真だと主張せずお金を受け取ったため権利を失ったとも思う。生きるために争うことをしなかったのは自分の選択。周りも誰も動かなかったという事実。しょうがないと感じた。
今だからやっと言えたということもあるし、真実を明らかにしていくことは大切とも思う。記憶が曖昧になっていることもあるとはいえ当事者の声は貴重。当時の映像というのもいくらでもCGで製作ができると思うと、真実は声の大きい者のものになってしまう。もっと別の問題でも史実が歪んで残っていく恐ろしさを思った。
終始、戦争の悲惨さも。