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楽日
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目次

楽日の作品紹介

楽日のあらすじ

閉館の日を迎えた古い映画館では『血闘竜門の宿』(67)が上映されていた。主演しているミャオ・ティエンとシー・チュンの姿もまばらな客席に見える。受付係の女の思慕は、映写技師の男に届かない…。ツァイの映画愛が散文のように綴られる。ヴェネチア映画祭でFIPRESCI賞を受賞。

原題
不散/Goodbye, Dragon Inn
製作年
2003年
製作国
台湾
上映時間
82分
ジャンル
ドラマ

『楽日』に投稿された感想・評価

4.0
 ツァイ・ミンリャンは、いま終わりを迎えつつある台湾のうらぶれた映画館を舞台にしている。正面のポスターだけは当時の面影を残すけれど、裏側や通路はどこも殺風景で暗い。まるで廃墟のような静けさの中で、土砂降りの雨の音だけが映画館を包み込む。トイレの汚さなんてショットから独特の臭気が匂ってきそうである。台北市にある「福和大戯院」という古い映画館の閉館の報せを受けた監督はこの映画館を半年あまり借り受け、今作を撮った。実際の閉館日には名残を惜しむ大勢の観客が集まったはずだが、今作においてはほんの僅かな人間しか劇場の最後を看取りに来ていない設定になっている。閉館日にかかる映画はキン・フーの67年作『残酷ドラゴン・血斗!竜門の宿』。あのツイ・ハークが師と仰ぐ人物であり、ミンリャンは過ぎ行く時代を象徴する作家としてキン・フーを選ぶ。時代に取り残された映画が、皮肉にも映画館のフィナーレをいま飾ろうとしている。

 映画館の最後を飾る人間たちも、どこか癖のある人間たちが並ぶ。当時の映画館はゲイの発展場としての側面を持っており、広い場内で席はたくさんあるのにどういうわけか隣り合わせに座る男たちの姿が異様な光景を綴る。彼らは暗闇を愛し、スクリーンそっちのけで来場者を物色している。日本からやって来た男も、どういうわけかトイレで隣り合わせで連れションしたり、狭い路地裏をホモ同士ですれ違うことに快感を覚えていたり、異様とも言える行動が続く。タバコの火を借りた男から「この映画館は幽霊が出る」と聞かされたその日本人の男は、二段後ろに座った女性の行動に恐れおののき、映画館を足早に立ち去る。彼らは誰一人として映画館の最後の瞬間を悲しんではいない。自分たちの快楽に応えてくれる暗闇としての映画館を愛しているのであって、文化的な役割には無頓着な人物ばかりというのが悲しい。

 観客側もクセの強い人たちが並ぶが、劇場側の2人の関係性がまた心地良い。かつては何十人もの従業員を雇っていただろう映画館に、今は映写技師の男ともぎりの女の2人しかいない。足の不自由なもぎりの女は、密かにこの映写技師の男に恋をしているがなかなか思いを伝えられない。やがて2人の距離には無情にもタイム・リミットが訪れる。このなんとも言えないエピソードをミンリャンは映画館の閉館の挿話として丁寧に付け足していく。クライマックス、人がいなくなった館内にたった2人だけ残った観客のアイコンタクトが泣ける。実は彼らこそが『残酷ドラゴン・血斗!竜門の宿』で主演を務めたシー・チュンとミャオ・ティエンその人である。彼らをスペシャル・ゲストに呼んで盛大なイベントでも打てばもっともっと人は入ったのだろうが、そんな姑息なアイデアすらこの「福和大戯院」の最期にはない。終演後人がいなくなった座席を、スクリーン側から据え置きのカメラで長回しにした5分間がとにかく強烈で容赦ない。
『全編に極上のノスタルジア、でもこれを過去の亡霊にしたくはない』

実際に閉館する映画館を貸し切って撮られたという本作。
ツァイ・ミンリャン監督の作品を観るのはこれが初めてだが、なんとノスタルジックな作品なのだろう。

セリフはほぼない。
ストーリーもないに等しい。
ただ、そこにはそれぞれの人間のドラマがある。
当然、人は誰かと会っているとき、何かを話しているときだけに生きているわけではない。
独りでいるとき
物思いにふけるとき
誰かを想っているとき
言葉が生まれる前に、心のなかで膨大な意識の流れに任せて生きている。
そして、やっと人は動き、言葉を紡ぐ。
本作にはその言葉になる前の「生」が焼き付けられていた。

かつては栄えたであろう、映画館。
それは今や来る人もまばらな、寂れた建物になっていた。
誰かは恋のためにデートで使ったかもしれない。
誰かは片想い破れて、気持ちを紛らわせるために来たかもしれない。
誰かは好きな役者が出ている作品を楽しみに来たかもしれない。
誰かは映画に夢見て何度も通ったかもしれない。
多くの人たちが幾通りもの想いを抱いて栄えた映画館。
今や映し出されるのは、そんな想いの残滓が染み付いたような場所ばかり。

ツァイ・ミンリャン監督はそんな映画館をゆっくりと、その想いをすくうかのように撮る。
まるで迷宮のような映画館に集った人たちもまた、言葉にする前の何かに囚われたかのようだ。
人は想いの操り人形。
自分の想いだけでなく、そこにある想いによって意思決定をして、動き出す。
攻殻機動隊のアニメシリーズにも「映画監督の夢」というエピソードがあったが、人が忘れたい・忘れられないノスタルジーに共通したものがあった。
ゴーストは確かに存在するのだろう。

コロナで映画館から客足が遠のき、いくつもの劇場がなくなってしまいそうな今。
本作はなにか改めて迫ってくるものがあった。
映画館という、想いの集まる場所。
誰かのゴーストが取り憑く(残される)ところ。
本作が観るものにくれる素晴らしいノスタルジーをもって、自分はまた想いを抱きながら映画館に通いたい。
小便長すぎ。ひまわりの種?食べすぎ。おばけが出るというよりも映画館自体がほとんどおばけ。楽日においても残留思念を上積み。

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