憲法九条を改正して日本を「普通」の国にしようとする首相。首相である夫に内緒で富士山の麓に核兵器を作っていた妻。米大統領呪殺を解明するためにやって来たFBI霊的国防部の女捜査官。富士山の地下に潜む古代王国富士王朝。それぞれの思惑が交錯し、クライマックスは『日本沈没』級のカタストロフが展開される。

一言でいうなら、高橋洋版『博士の異常な愛情』。映画の境界線をぶち壊していた前作『ソドムの市』の尺と内容を3倍に濃縮し、さらにぶっ飛び度１０倍にして、そこへ憲法九条といった政治的な部分までもぶち込んだ映画になっていた。ここまでくると、アウトサイダーアートの領域だ。

特に、映画で語られている社会的テーマは、現在の方がより先鋭化してしまっているのでシャレにならない。しかし、テーマや物語といったすべてが爆発するクライマックスは、「低予算で滅茶苦茶なのに、なぜこれほどまでに我々の心をとらえてしまうのか」とを考えさせられる。

映画学校のカリキュラムの一環として制作されたと云う説明でやっとこさある程度納得出来るんですが、高橋洋のイマジネーションを理解すること等凡人にはやっぱし無理なんでしょうか。

本作、系統で云えば『発狂する唇』『血を吸う宇宙』『ソドムの市』の荒唐無稽でアクロバチックな内容を連綿と受け継いでおり、その作品群の中でもスペクタクル・エンターテイメントに最も近い画を表現出来うる作品だと思うんですが、誠に残念ながら特撮技術が全く伴っておらず（そりゃそうや）、自主制作映画に近い（だからカリキュラムだって）、いやそのまんまのクオリティに何の事前情報も無しに観賞すると、１９８２年の新日マット、髪切りマッチで負けたにも関わらず控室へ逃げ込んでしまったラッシャー木村に対して暴動を起こしたプロレスファン同様のブチ切れ状態になるやもしれませんが、そこはお気を鎮めあそばせ。

普段Ｂ以下がメインディッシュの方々でも脱力感は避けられませんが、上記一連の作品群がツボの奇特な方限定でまたまた微妙な笑いに包まれるでしょう。
様々な脱力必至の小ネタが何食わぬ顔で盛り込まれております。
首相の名前にファーストレディの呼び名、宇宙兵器や核兵器の名前は要注目です。
ちなみに今年の参院選の争点になるであろう、非常にタイムリーな内容である憲法改正問題や核武装、日米間の不平等関係問題等お堅い社会派ネタが表層を覆っておりますが、本作が制作されたのが２００７年と云う事は安倍１次内閣の時だったんで現代の時事ネタとリンクしてるんですよね。
その事を認識しながら観るとまた違った面白さを発見出来るかもしれませんが、断言できるのは本編３４分と云う短尺に感謝と安堵の気持ちを抱く事になるでしょうｗ←２０１３年視聴当時の時世ですｗ

まぁ、観終わっても数々の疑問が脳内を占拠するんですが、特典映像にて高橋洋と黒沢清の対談が収録されており、観客の疑問の数々を黒沢清が代りに高橋洋に尋ねております。
その時の答えがまたちんぷんかんぷんで黒沢監督の苦笑を伴う困惑した表情がツボでしたが、お陰様で本作が何にインスパイアされて作られたのか、オープニングクレジットの「○○に捧ぐ」の意味等ある程度判明します。
よって、本編鑑賞後この対談は必見ですね。

また別の特典映像で現場の撮影風景を観ると助監の安里麻里のお姿発見。
私の最大の疑問である、ホラー・オブ・マスターの黒沢清でもちんぷんかんぷんだったのに、映画学校の生徒さんはシナリオをきちんと咀嚼出来てたんでしょうかね。
間に立って生徒に直接指示を出す安里さんも大変だったでしょうが、学園祭の舞台の延長だと考えを切り替えればかなり愉しかったのかもしれませんね。

くそ笑った。アタマおかしすぎ。そして本当にただ日本を沈没させたいだけなのが面白い。これだけでかい話なのにほぼ4〜5人で全部進んでしまうのも面白い。憲法改正賛成か反対か云々する前に、全国民が観るべし。いやそんなことしたらみんな馬鹿馬鹿しくなっちゃうか。