あゝ有意義な時間を過ごした、観てよかった、そう思わせてくれる粋なウィーンらしい作品。
ヴィリ・フォルスト監督好きだなぁ！
洗練されていて格調高い、なんとも品のいい作品を創る監督だ。生粋のウィーンっ子だからだろう。

男爵夫人の見捨てかた…一人勝手に若者に恋をし、威厳を保ちさらりと捨てる。これぞ貴族。青い血の方々は、平気で人をモノのように扱い、すましている。
しかし、悲劇で終わらず、それぞれにそれぞれの美しい終幕をつけているところが良い！

名誉あるブルク劇場の専属大俳優フリードリッヒ・ミッテラー。
彼はその名声に違わぬ舞台一筋の男で、恋もせず、社交界へも行かず、真面目にただひたすら実直に日々舞台と家の往復を繰り返し、晴れた日に街を散歩し、その気持ち良さ心地良さに心揺さぶられ、全ては舞台のために、常に役者として生きているような人物だ。

そんな彼がある日、教会で若き純真な娘に出会い一目惚れ。自分の歳も忘れこの娘に夢中になる。人生最初で最後の崇高なる恋愛だ。

自殺しようとした若き青年に「君の一世一代の大芝居だな！私はキミと替わりたい！」と失恋の哀しみを爆発させる。もちろん青年は何を言っているのか理解できない。

舞台後、鏡に映る自分を見て彼は哀れで笑ったのだろう。

「俺が、この年老いた俺が、あんな若い娘に恋するなんて…娘が俺を受け入れてくれるとでも思ったのか愚か者よ！いつも鏡で見てた俺の顔じゃないか、なぜ気づかない！」

彼はそう思ったに違いない。実に哀れだ。
しかし、いくら勘違いしたとはいえ、何歳になっても恋愛は甘酸っぱいものがあるようだ。同時に苦い薬でもあるが…。

娘“レニ“の名が書かれ浄められた首飾り…この首飾りが青年を救い、老人をもある意味救ったのである。老人は、青年のことを若いのだから「自殺などするわけがない」と思っていた。
しかし夜、舞台の上から首飾りが落ちてきて青年の絶望を知る。そして、青年の命を救い、説教して立ち直らせた。
老人は後悔せずにすんだのである。
説教し終わった後、こらえきれず青年をひっぱたいて去ってゆく。
老人は門番に、青年を待ち続け居眠りしている娘とそれに寄り添う青年、この若い二人の邪魔をしてはならぬと言い残し家へ帰って行く。

ブルク劇場の大俳優としてのフリードリッヒ・ミッテラーも『ブルグ劇場』のヴェルナー・クラウスも最高の名演技だ！

青年は熟睡している彼女に「本当は君のこといつも思っていたんだよ。もう絶対離さないからね」と甘い言葉を囁く。

冒頭と終幕が同じ演目『ファウスト』
場所はブルク劇場。
失恋の痛手から立ち直り、大俳優ミッテラーは今日も舞台へ立ち喝采を浴びるのだった！

★1939年度キネマ旬報外国映画ベストテン第3位

過去記録

◎老名優、仕立て屋の娘、男爵夫人、役者志望の青年。
老名優が仕立て屋の娘を見初めるところから始まり、大きな勘違い、出来心、嘘、誤解、噂が連鎖して繋がってゆく。

◎当時のウィーンの華やかさが想像できる。ビルフォルストらしく、衣装から劇場、パーティ会場、調度品に至るまで全てが上品でエレガント。