【老人と孫】

1931年のハリウッド・モノクロ映画。
シネマヴェーラの特集「プレコード・ハリウッドⅡ」にて。

会計士の父親、主婦の母親、失業中の長男、勤めに出ている長女、年が離れた小学生くらいの男の子ふたりという一家。たまたま夕食に妻の老いた父がやってきた。祖父は南北戦争に従軍した経験があるのが自慢で、日頃は退役軍人のための施設で暮らしている。

ところが住まいの前の道路でギャング団とそれを追う警察の銃撃戦があり、警察側ふたりが射殺されてしまう。ギャングたちは一家の自宅を通って裏道に抜けて逃亡するが、「俺たちのことを警察にばらすなよ」とすごむ。
やがて警察はギャングのボスを逮捕して、一家に裁判で証言をしてくれるよう頼む。家族たちは了承するが、一家の父親がギャング団に誘拐されて半殺しの目に遭う。それで一家は態度を変えて証言を拒むが、祖父だけは筋を通せと主張。だが、小学生の息子が誘拐されてしまい……

ギャング団の犯罪行為を、危険を承知の上で証言するかどうかが問われる筋書きで、アメリカ市民のモラルが問われる内容ではある。南北戦争に従軍した経験のある祖父が、誘拐された孫息子とうまく連携するところが面白い。

それにしても、父親がギャング団に誘拐され半殺しの目に遭っているのに、小学生が家から抜け出すのを防げない警察の無能ぶりにはあきれてしまう。担当警官が無能だということは作中でも言われているけれど、幹部やトランプ大統領でなくても（笑）「クビだ！」と言いたくなりますよね。

マフィアの大物が殺人罪で死刑判決を目前に控えている。事件を目撃して証人として召喚される予定の家族の中の子供がギャングに拉致される。家族は子供の命を優先して証言を避けるが、南北戦争で戦ったお爺ちゃんだけは「子供の命はもちろん大切だがそれよりもアメリカ人の義務を全うするのが先決だ」と(トランプ派が好みそうな老人だ)躍起になり、証人として立つスタンスを崩さず、一人で拉致された子供を助けようと警備網をくぐり抜ける。

言っちゃえば御多分に洩れず勧善懲悪に帰結するのだが、「優先すべきは家族か国民の義務か」で最後まで葛藤する様は否が応でも観る側をハラハラさせるし、これだけ国家が分断して個人社会になった今でさえ通ずるものがある。

ギャングの殺人を目撃してしまった一家の話。一応主演のウォルター・ヒューストンが出てくるまで15分と主役は完全に一家の変人爺さん。
笛の音とともに現れ、笛によって事件解決のきっかけになり、ラストカットも笛を吹く爺さん。音が出るという事を実に楽しんでる。
一家の父がギャングにリンチされるシーンはめちゃ怖い。ギャングの殺人といいこの辺キレキレなのもさすがのウェルマン。
少年が捕まった後爺さんが俺が証言するって言った後に、孫の娘に酔っ払ってるのよって軽蔑されちゃう切り返しとかもう残酷すぎて。一家も検事のヒューストンも誰も爺さんを信用していない。
爺さんと少年たちの敬礼！
おかずを奪い合う少年たちも最高。