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おんなの渦と淵と流れ
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『おんなの渦と淵と流れ』に投稿された感想・評価

ネマヴェーラ渋谷「妄執・異形の人々」特集で。

「裸体」と同じく成沢昌茂脚本だが、ここで描かれるのは男の妄執と女の業。全体が「渦」「淵」「流れ」と三章構成になっており、語り手が変わるという「バンテージ・ポイント」方式。シャープなモノクロ映像(山崎善弘撮影)が秀逸。
脚本家である程度作品の匂いって決まるんだな、と痛感した。これは優れた「押入れ映画」。城定秀夫「悦楽交差点」の遠いご先祖様とも言える。文学マニアの男が写真だけで一目ぼれした女と結婚し、彼女の溢れ出る「おんな」そのものの前でたじろぎ、疑念を抱く様は、今の若い男子に観て欲しい。この女性への不信は中平「狂った果実」にも通じる。

ヒロインを演じる稲野和子の幸薄そうな雰囲気も作品にぴたりと合った。成沢脚本らしさとしては、おんながおんな自身の「価値」に気づいてしまう所やそれを持て余す所か。「流れ」パートがきつすぎる。それにしても若い頃の仲谷昇のリーアム・ニーソンぶりは異常。
「月曜日のユカ」単体で見ると突出してるように見えるけれど、「狂った果実」からこの年の「おんなの渦と淵と流れ」や翌年の「結婚相談」などと見ていくと、中平の女性観みたいなものが俯瞰できるような気もする。そのくせ「黒い賭博師」とかもやってるのが、これが混ざって「混血児ユカ」になるかもしれん。
✔『おんなの渦と淵と流れ』(3.5p)及び 『四季の愛慾』(3.1p)『街燈』(3.1p)▶️▶️

 中平康という名前からは、少なくとも四半世紀前には傑作は、新藤本=旭演の一本しか思いつかず、21Cに入り若干追加あるも、大方は今に至るも変わらず、映画の独自な力を宣していたのは、初期の極短い期間だった気がする。どんどん映画が覇気を失ってくるのだが(それでも裕次郎や小百合ものなど目を惹き·飽かせないものはある)、居直った打ち出しのある、仲谷主演の性を主題にした文学崩れ的三本(かな)は悪くない、映画から離れてるは確かにしても充分魅力·艶やかさがある。
 暗くぼんやり部分照明も多いルック、門の他に先に塀の壊れた所があり気づかれず戻り可能、金沢と東京の庭の立派日本庭園風や特異巨大石像群、疑い察知し覗き見るが当たり前の日常行為、日本間や隣家や川との繋がり。歴史的スチル写真連ね·ややハイキーで弾み動く画面、らの嵌め込み、主人公ばかりかその妻のモノローグの説明多用。
  日本文学選集的に、しっとり又は狂しく、(結局)一元的に纏め上げられた(歪んだ)情感の作を予想させるも、ナレーションと現実のやり取り·反応の差異、反論されてスッと押し切られる·反論した側も後で前言撤回、が何回も繰り返され、昭和14年から戦中大連、戦後金沢の、10年間の(元)大学教授、(戦後)小料理屋の女主人の夫婦の話は、一筋縄には進まない。妻の(以前からの)性的成熟·(浮気も重なる)益々怪物化、にはっきりさせ決着を、と思い詰めてく夫。女学校時通い元の伯父(伯母の夫)に関係持たされて以来、無力感と死の誘惑に囚われてた妻は、戦後夫を食わせ‘ボウヤ'と思える段になって、生きがい·唯一の愛の対象は夫と実感強まってくも、夫の「冷たさ」の塊りに荒れる。ぶつけ合い、わだかまり半ば融け、夫は東京に移り夫は勤め始めての24年夏。家族を女身で養い意固地も·学問に明るい夫の部下、宗教帰依も売春も·留学と出世の科学の手段の·妻の過去知る隣家、と近づき、妻は違う理由で事を早める。
 角度、美術、空間、俯瞰め、縦図、90°変、CUの除きや窺い入れ、雨や闇、時に動感移動、らがしっくりと絡まるも、本質を少し外してる。本格の味わいの変革の才と年季。只、成沢の本来の本はもっと細部細部を納得出来た物では?の気もする。面白いが共感は···  
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 増村や沢島らと邦画新風とされた初期作の本質を覗く。
 『四季~』、展開の捌きの正確さ·冴え、天才の垣間見え、少なくとも外面は一流。しかし、正直、一部の作を除けば、中平は確かな才能とは、言い難いは、承前。当時賞賛の表面の輝き·正攻は理解も、今や(凡庸でも先に言ったように裕次郎もの等、面白さで当時ではなかなかイケてる)伝わり来ず。
 建屋上部に取付けの鏡と写り込み·様子だけでで声を遮断の間仕切硝子、(3段寄りカットやカメラ寄るのもある)表情と小道具のCUの入るタイミング、(鋭い真)俯瞰ショット多用と雨飛沫·靄の活用、列車やトラックの動きとそれに絡む人間の弱み露呈、らの才気が自ずと光り、そのベースの90°変·どんでん·仰俯瞰·切返し·様々セットの澱まぬ正確さで余計なケレンの排し。
 2度の離婚·48でも若く女盛り続く母と、3人の子供らの家庭の絡み。上り坂作家の長男は互いの人気を考え、秘して·距離持つ一流モデルの妻あり、妻は更に飛翔の為·有力者ゲット。が、それは母の10年に亘る愛人。母のショック振り払うレストラン差配仕事復帰へ、若さの無情に戻りくる愛人。ヤケ長男妻は那須の旅館で荒れ続け、原稿の為居合わせ、心寄せる女中頭と懇ろだった夫の心配を取り付ける。母扶助で宇都宮財産家に嫁いだ長女は、優しくも年齢差ある夫から東京の怪しげ青年実業家にはまるも、その打算·非人間性を思い知る。独身次女は兄に職場の親友をめあわそうとしてる。絡み·切れては·目撃や鉢合せで焼け木杭に火、隠しと誠実の煩悶、のとどまらなさ。とはいえ、駒の多彩鮮やか処理だけで、実がなく響かない。
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 『街燈』。以前観た35ミリに比べると見劣りするデジタル版だが、それでも外国映画史上最大の名匠と謳われたデュヴィヴィエと、彼を尊敬する洒落者市川崑が併さったような、シャンソンとオートクチュールと様々な群像の捌きの世界、相当にフレキシブルでゴージャスな才気が迸ってる。ベッケルやキューカーとの間の溝は歴然だとしても。
 俯瞰(L)の多用·対する仰角。カメラ縦移動も、俯瞰へ更に大きく退き·緩急持ち何時しか大きな前後へらの力、後半横へ(廻りめ)も巧みに加わる。カメラに向かい来るや·間近カメラ目線の、大接写の刺激。似た動きでのシーン転換繋ぎ。傾き図連打のクセ味、(浅め)切返しや90°変やどんでんやフォロー移動の正確さ。そして人や車の出入りや連鎖次々留まらぬ悪ノリ。取分け、見せず効果が最大貢献〜顔わからぬ理解あるスポンサー、キスシーン見せずに「今度は髭剃って来て」、「終」後の黒画面にシャンソン。全体、華麗·滑らかだが、真の品位はそうないが。
 只、脚本に監督が相当に入れてるのか(新藤もの以外?)、辻褄らのおかしい思いつきが多く、かなりだらしない。年が少し離れた互いに女友だち同士がやってる都心と郊外の2軒の洋装店に、娘制しきれずも「ファミリアリティ」謳うトップの保険調査会社?(研究所といってる)の誠実サラリーマン、やり手色男学生にチンピラ付き、口出しオバサマコンビ、らが絡まり、メイン人物らの恋の迷い·交錯と真の独立心への目覚めを描いてく。





 
t

tの感想・評価

3.7
無口だが嫉妬深い文学インテリを演じる仲谷昇がとても良い。会社の部下と自宅でインテリ談義になり稲野和子が置いてきぼりになるとこ好きだが、こういうの気を付けないとなと感じた。
1・2部のある行為に至る過程がやはり白眉か。3部の川地民夫はかなり悪人な気がするが「単なる粘膜の接触じゃないか」は名言。

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