やい。やい。やあい。江戸っ子風に。
ロマンポルノの洒落た作品とか、中川梨絵さんがかわいいとかで済ますのはもったいないではないか。

一発百文(高いか安いかわからない。多分激安)の女郎屋。ついた客が次々と死んでしまう「死神」おせん。
どん底の界隈でなおもゲスの極みfeat.ゾンビの富蔵に搾取される日々。そんな中浄瑠璃フェチの梅吉に出会う。どん底からの脱出の光が差す…

江戸時代の時代劇という所がある意味普遍的ないつの時代にも当てはまるワンダー。
今観たらようやく作品に時代が追い付いたと錯覚してしまう。
主人公の女郎はワーキングプアで、ヒモの富蔵は最低のDV野郎、浄瑠璃フェチはフィギュアオタク的な男子、女郎長屋は格差社会へと現代劇にでも置き換えられそう。製作年度よりも今の時代に。
そんなこと意図してないだろうけど、強く「今の物語」に感じた。

それらを支えるのが主人公のカラゲンキの明るさ。
明るさはある意味強さかもしれない。

冒頭の女郎屋に並ぶ男たちが、牛丼食べに来たおっさんにも見え欲望に忠実なのがなぜか清い。

交わった客人を変死させてしまう下級遊女（中川梨絵）が、浄瑠璃人形に魅せられている純朴な青年に心惹かれていく。生き方を模索する遊女の人生模様を描いている、日活ロマンポルノ。成人映画史上初となる、日本映画監督協会新人奨励賞を獲得。

本作の主人公には、コリン・ウィルソンが定義付けた、アウトサイダー論を当てはめることが可能。生（＝性）と死の板挟みを実感している主人公が、如何にして生きるべきかに関心を抱きつつ、今現在の立場を真っ向から受け入れていく。

主人公の自己実現に棹さす人物として、内縁の夫（高橋明）、晒し場の少女（山科ゆり）、若い人形師（堂下繁）が登場。情念を描いたシリアス・ドラマと艶笑系の古典落語をミックスさせたような、不思議な世界観が構築されている。

色街の最下層を再現したセットが絶妙に生々しく、人形振りを真似たセックス演出に驚嘆させられる。"魔性"に翻弄される男女の、双方の立場を鮮烈にスケッチしている、時代劇ポルノの到達地点。

時代劇ポルノの金字塔として名高い田中登監督の傑作。いま観るとそこまで「ポルノ映画臭」はなく、むしろ芸術的・耽美的メロドラマの要素が強めでそこはやはり『㊙️色情めす市場』同様、アーティスティックな作風だと感じる。

かなり昔に観たのだが、中川梨絵の鬱屈した表情がいまも目に焼き付いている。映像、セットが溝口健二並みに重厚で、鑑賞中むせ返りそうになる程男と女の情念の描写が炸裂。日本的な構造悪(封建制度)にも言及しておりただのエロ映画として片付けるにはあまりにも勿体ない作品である。

観終わった後は心にズシンと残るヘビーな作品だが、田中登監督ならではのこだわり抜いた映像美学を心ゆくまで堪能出来る一代歴史絵巻となっている。必見❗️