ホン・サンス監督がキム・ミニをヒロインに起用した記念すべき第一作。

舞台は世界遺産の古都・スウォン（水原）。

ホン・サンス作品で男性が主人公となる場合、往々にして監督自身を投影した映画人となるが、本作の主人公となる映画監督のキャラ設定は、実際のホン・サンス監督とキム・ミニの私生活での関係を考えると、一番リアルで少し生々しくもある。自虐的なネタも放り込んでいて、ちゃんと自分に正直なホン・サンスはどこか憎めない。

あまり起伏が無いストーリーで奇をてらわない作風が持ち味の監督ではあるが、本作では一組の男女の出会いのエピソードに二つの展開を描いているのが、監督らしからぬエンタメ色を感じて、ちょっと驚いた。

但し、どちらが正解で本当にハッピーな結末なのかは観客次第。

主役を演じたチョン・ジョエンは好演だし、やはりホン・サンスのミューズであるキム・ミニが「お嬢さん」「火車」とは全く異なる素の可愛らしさがにじみ出ていてとても魅力的。

古都・スウォンのロケーションの数々、刺身居酒屋の長回しのシーンなど見どころも多く、個人的には好きな作品。

邦題の「正しい日　間違えた日」は、表面的なストーリーの構成上、英題のほうがより明確ではある。但し、前述した通り、主人公の映画監督の言動によって結末が変わる二つの展開のどちらが本当に正解なのかは見る人の受け止め方によって変わる狙いが脚本上あると思われるので、これはこれで有り。

見せ方一発勝負な映画

地味な味付けなんだけど、でも解釈を「実は」受け手に委ねてるあたりが映画ファンとしては楽しめるし憎い演出かなと思う(この「実は」というのがとりわけ重要)

起伏に富んでない徐行運転映画でも楽しめるのはそれが理由です

• #脚光を浴びせてあげたい映画

「監督は皆浮気者って聞いたけど？」こんなセリフを吐かせられるのはホンサンス監督くらいだろう。事件性もないのに、真実を追求するその心意気が爆発的な面白さを体現している。誰でもデートの時のあの会話は不味かったな、やり直したいなとかあの一言は効いてくれたかなとか反芻するものだから。