ポール・22歳で映画スクールをドロップアウトして完璧すぎる短編を作り上げた天才・アンダーソン監督作。

サンダンス短編部門で注目され長編キャリアをスタートさせる契機になった作品。であり「ハードエイト」の下地でもある20分ちょいの短編。

ラスベガス近郊のカフェを舞台にカジノ、お金、人間関係に関する3組の会話から構成された群像劇。20分強でここまで面白くまとまった群像劇の作品を作ってしまうPTAの才能恐るべし。

幸運のまじないとして名前を書いた20ドル札というモチーフがラスト近くで起きる奇妙な偶然に還元されていき、この3組が繋がっていくという展開は、「マグノリア」のあの蛙の雨に通じる。

本当にやべぇよこのクオリティは。
今のハリウッド監督の中で、冗談抜きでトップレベルの映画的な才能を持った作家だよPTAは。

長編映画デビュー作となった『ハードエイト』のベースとなった、ポール・トーマス・アンダーソン監督がニューヨーク大学中退後、テレビのアシスタントなどを経て22歳で監督した短編映画。
※YouTubeで観れます。
https://youtu.be/lfk1b65lb-M?si=giyPrPZGhC4KY9iL

ちなみに、全然本作に関係ないけど、その似たタイトルのせいでFilmarksではジム・ジャームッシュの『コーヒー&シガレッツ』の方の感想と思しき投稿を散見。
こちらは『Cigarettes & Coffee』、PTA作品なのでご注意。笑



ハネムーン中の安いダイナーで彼の金遣いについて痴話喧嘩をする男女。
ラスベガスで起きた身の上話を年配の男に打ち明ける若い男性。
店の外にある公衆電話で自分が行った犯行と思しきあらましを説明する男。
それぞれに共通するのはタバコとコーヒー。

あらすじは基本、『ハードエイト』で描かれた冒頭のダイナー場面にほぼ反映されている。
なんなら一部シーンはまんま同じといっていい。

一見、何ら繋がりのない3組の会話劇が、あるアイテムによってうっすら繋がりを見せるラスト。
若者に無条件で手を差し伸べる年配者。
金の揉め事から始まる人間関係のもつれ。
断片的な会話劇で紡がれる群像劇から、映画という限定空間によって浮かび上がる人間の滑稽さ、人生の断片。

わずか24分の短編に既に『ハードエイト』や『ブギーナイツ』にも共通するモチーフ、テーマが多く描かれている。


そしてこの頃から会話劇の描き方、3組それぞれの場面と場面の紡ぎ方が上手く、引き込まれる。
後半の、絶えず低音として鳴り響く伴奏のなか、若い男性が妻や友人スティーブへ抱く感情を吐露する場面のスリリングさが凄い。
ただただダイナーでおじさんに話しているだけ、なのに。笑

結局、人生とは、本作におけるあるアイテムが3組の物語を紡ぐように、対象に対して当事者がどう思うか、次第で見え方は如何様にも変わるものなのかもしれない。
そんなことをこの短編を観てふと思った。


そして『ハードエイト』でも主演を務めるフィリップ・ベイカー・ホールが本作でもやはり渋い。
アメリカのダイナーで、ウェイトレスに注がれるコーヒーを飲みながら紙タバコを一服。

彼の眼光というか、目の奥に漂う闇というか、その目力に引き込まれる。

『ハードエイト』は元々、彼が演じた役シドニーをまんまタイトルにするつもりだったらしい。
それもわかる気がする。

この短編をベースに長編映画を描くとしたら、彼をもっと掘り下げたくなるのも納得。
すごい存在感だ。

★★★liked it
『Cigarettes & Coffee』　
ポール・トーマス・アンダーソン監督

24分ショートフィルム

Full Movie
https://youtu.be/lfk1b65lb-M
https://youtu.be/gA3FJcUg3QU

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