色々な形の性と色々な形の愛
個人的にはLGBTQテーマの作品に関してはそれぞれ自由な形でその人達自身が決めることで、それが社会の構造によって阻まれているとかの社会問題に漬け込むなら分かるが、あまりテーマとしては好まない傾向にある　但し、葛藤や悩みは幅を利かせて面白いストーリーになることは多々ある
「恋とボルバキア」は何組かのセクシャルマイノリティと言われている性や発達障害の方達の、恋やそうなった時の原因、又それに起因して生じた出来事などを撮る
監督の小野さやかがカメラを持ち、プライベートな領域に入っていく　それからの演出の仕方というか、板付きではなくあくまで彼等の日常の中から言葉を引き出す感じが、多面的な彼等を見ることができると同時に画に飽きない作りになっている
人物の物語の構成が難解に見えたが、比較的分かりやすく構成されていたと思う
人物登場の際にそれぞれ違った音楽を乗せることにより印象付けていたのかと推測　又、オフのインタビューに合わせて人物紹介となりうるショットや実景を組み合わせることで映像的表現の意識の高さが参考になった、気がする　例えばタクシー内の対象者を撮るに当たって鏡越し、より、助手席から、窓から道路、フロントガラスからの景色　など持てる余りの画角を試していて面白かった…カメラの勉強

∴雑談
　終盤にポツンと入れられていた妻子持ちのおじいちゃんのシーンが好きだった　ちょっと若者とはまた違う世界観を持っていて、それがかっこよくて素直に感動した
　人物により良く変化があるから面白いのかな、言葉選び分からないけど
　承認欲求が気になった

LGBTQ、トランスジェンダーの人達のドキュメンタリー。多くの人を追ってるけど性自認が女性の男性が多い。
取材対象が多いので大枠でトランスジェンダーになるけど自身がトランスジェンダーだと気づいた時、それを受け入れていく過程が各々違っていて、当たり前のことなんだけど属性が同じでもみんな属性の前に独立した個人であることに気づかされる。マイノリティをそのマイノリティ性だけで潜在的に捉えてしまいがちな性的にマジョリティな自分の傲慢さに気づき、ハッとした。でも、それは何となくわかっていた。特にこういうことに関心がある人間ではないので。

意外だったのはこの性自認女性の男性達が思いの外ジェンダー感が保守的だったこと。
みんな女性に対して強い憧れがあるんだけど、その像が旧態依然とした女性なんだよな。女装をしてバチッと女になった時の話し方や動作が一昔前のマンガの女性みたいでびっくりした、あざといまでのオールドスクールなガーリーさ。デフォルメされた女性性というか。
でも、表層的ことだけなら深刻さは感じなかったんだけど、思考性が古いのが気になった。
みひろというトランスジェンダーの男性は女装するときれいめお姉さんで男だとは気づかれないぐらい美人になる。夜の繁華街でナンパされるシーンもある。彼女が男だと知った上で付き合ってる男もいるぐらい。
この男との恋愛はみひろが一方的に彼のことが好きで、彼には他に付き合ってる女性がいる。
これが明らかになるのは後半なんだけど、みひろは薄々それがわかった上で付き合ってる。送ったLINEに既読スルーされやきもきして、いても立ってもいられず電話して「他の女装さんとしっぽりいってるんじゃないかと心配でぇ」と甘えた声で牽制したり、「男の人は手料理に弱いから」と彼を家に呼んで肉じゃが作ったりと、昭和の女かよ！テレサ・テンの愛人の世界観？ってぐらい男に都合のいい耐える女っぷりにドン引きした。だいだい彼女本当に美人だし、男がどこにでもいるようなヤツなんで、何でこうなるんだろうって困惑したな笑
みひろは監督のインタビューで「男に容姿を褒められてきれいになる」「恋愛は欠かせない」と発言してる。要するに男に愛されることがアイデンティティになってる。今、そういう主体を男に明け渡すのは止めようじゃないかという風潮と真逆のパーソナリティ。
LGBTQの人達の理解者や支援する人達は社会から押しつけられた抑圧的なジェンダーロールを無くしていきたいスタンスの人達が多いけど、当事者の意識とかなり解離があるんじゃないかと思った。ここに出てくる人達だけ見ると性自認女性の男性は今の男女観の構造の歪みによって生み出された女性像、意識改革したい側が払拭したい女性像に強い憧れを持っているように見えて。

そして、個人的な体験からもそれを思った。おれは1度物凄い美人な、所謂男の娘に会ったことがある。
もう８年前ぐらいなんだけど、ライブハウスやSNSで知り合ったメタラーやパンクスの飲み会があって、その会は自分より若い20代が中心だったし「わざわざライブで会ってる若手のメタル・パンクスと飲んでもな…」て気持ちがあって辞退するつもりだったけど、先輩から「自分も来るから顔出せ」と言われて仕方なく出席することにした。
当日、予想どおりライブハウスで見かける若い男達ばかりでゲンナリしつつ店の入り口で立ち尽くしてたら、先輩のテーブルに呼ばれて「ちょっとこの子の相手して」と言われて女の子を紹介された。
この場に女の子がいるのも意外だったけど「ちょっとしたアイドルです」て言われれば信じてしまうぐらいキュートな子でびっくりした。
フランスのブラックメタルが好きと言われ、自分の知ってるフランスのブラックメタルの話をしたら喜んでくれ、知識がすごいです😍、センスいいですね😍 Twitterアカ、フォローしていいですか😍と褒められて、それから今日はメタルファッションしてるけど普段はこんな服着てますって何枚も画像を見せられたりして「モテてるのかおれ！？」てぐらいいい感じで話してくれて、もう生涯一ってぐらいデレまくり、来てよかったなと思いその日は終わったんだけど、後日、何かのライブでその飲み会にいた若いメタル男子に「あの子かわいいね」って言ったら「えっ！？知らなかったですか！あの子、男なんですよ」と言われたんだよ！至近距離で2時間近く話してたのに全然わからなかった。見せてもらった画像も完璧に女の子だったし。

長々、何でこんな間抜けな話を書いたかというと、おれが会ったこの子もちょっとあり得ないぐらいオールドスクールなガーリーな所作と口調だったんで、本作に出てるみひろと同じような古い女性像を理想にしてるメンタリティーなんじゃないかと思えて。だから意外とそういう人が主流派なのかも知れない。とか思った。

カラフルにトランスする恋とか愛だとかのドキュメンタリーというキャッチコピーからも分かるように、ちょっとした疑念を抱くほど着飾ったドキュメンタリー。

不思議な浮遊感のあるメロディに乗って、夜咲くセクシュアル・マイノリティたちの心根付近を徘徊していくマジョリティの中のマイノリティ

あたりまえのように混ざり合うには、まだまだ遠い