ショーン・ベイカー 初期傑作選 ②
ニューヨークのストリートで偽ブランド品を売って生計を立てていた黒人青年ラッキーの元に、かつての恋人がその存在すら知らなかった“息子”を連れてきたことで全てが一変してしまう。
後の作品群に通ずる“ショーン・ベイカー節”を随所に見てとることが出来て、序盤の数シーンだけでラッキーの現況というものを察する事が出来るし、あと、シーン毎の繋ぎで使われている“街並みのエモい雑感ショット”が特にショーン・ベイカーらしさ全開でカッコイイ！
「テイクアウト」にあった悲壮感や惨めさはないけれど、移民達の生きづらさは充分に伝わってきたし、そんな中にでもほっこりとした人間の暖かさが余韻として残る。特に最後のカレン・カラグリアン演じるボスの“優しい嘘”にはグッときた。
人間っていくらでも変われるし、なんだかんだで案外逞しい…そんなショーン・ベイカーの弱者への暖かな視線を感じる事の出来る素敵な作品。

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ショーン・ベイカー 初期傑作選③ 『プリンス・オブ・ブロードウェイ』

2008年、ショーン・ベイカー監督の長編3作目は、ハートフルなヒューマン・ストーリーでした。


■ 大人になりきれない男に降ってきた“予告なしの子育て”
ニューヨークの片隅で偽ブランド品を売って暮らすラッキー。
ある日、元恋人が突然現れ、「あなたの子どもよ」と赤ん坊を押し付けて消えてしまう。自分の子どもかどうかもわからないまま、ラッキーは予期せぬ育児と、過酷な日常のサバイバルを同時に背負うことになる。。というストーリーライン。

『「クレイマー、クレイマー』や、『赤ちゃんに乾杯！』 などの、子育てに縁のない男性が赤ん坊を育てる古典的なテーマを、ニューヨークの裏通り、偽ブランド市場といった、ショーン・ベイカー流のリアルな空気感で現代にUpdateしていました。


■ 即興が生むリアリティ
主人公ラッキーはチンピラ同然で、常に喧嘩腰で声を荒らげる男ですが、しょっちゅう泣く。驚くほど泣く。そんな、虚勢とやさしさが同居する姿を見ていると、いつのまにか感情移入してしまいます。

ラッキー役のプリンス・アドゥは、監督が現地で出会った素人。にもかかわらず、その自然な演技と存在感は驚くほどで、涙する姿には本物の俳優以上の説得力がありました。

驚くべきことに、彼はこの作品以降スクリーンに登場することはなく、この主演が唯一の出演作。まさに“一度きりの奇跡のキャスティング”であり、その儚さ自体が作品のリアリティを強めているように感じます。

また、ラストに流れる、
「この映画のセリフは、全俳優の共同作業で生み出されました」
という一文。

即興でつくられたセリフこそが、ニューヨークの雑踏の空気をそのまま映し出しており、言い淀みや、微妙にかぶせ合う会話が、作りものではない現実感を漂わせ、ドキュメンタリーのようなリアリティを生み出していました。


■ まとめ
監督・脚本・編集・撮影をすべて自ら担当した本作は、ショーン・ベイカーが最も自由にやりたいことを詰め込んだ原点とも言えそう。
のちの『タンジェリン』や『フロリダ・プロジェクト』につながる、「周縁の人々の尊厳を描く」という姿勢が、すでにここでも確立されていました。

物語の終盤、DNA検査や元恋人との再会を経て、ラッキーが父になる覚悟をにじませる場面、終盤からエンディングにかけての流れは感動的で、解釈を委ねる余白を残しつつ、確かな温かさと切なさを残しました。

今回の『初期傑作選』で公開された4作品のうち、”最も泣けた作品”はこの作品でした。

（以下は、少しだけネタバレの感想）

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このパターンの作品って、
・最初は子育てが嫌で、早く子どもを手放したい、と思うものの
・いつの間にか愛着が湧き、無くてはならない存在になる
・しかし、別れのときが来て、寂しくてたまらなくなる・・・
っていう流れが多いと思いますが、さすがショーン・ベイカー。あっさり、それを裏切ってくるところがさすがですね😋

ラストで、ベイカー作品常連のカレン・カラグリアンが演じるボスのレヴォンが、DNA検査の結果の書面を見るわけですが、「良かったな、お前の子どもだよ」といいつつ、ラッキーには見せずにポケットにしまい込んでしまう。

これはつまり、本当ではないってことなんでしょうね。

でも、ラッキーは自分の子供であってほしいと強く願っているわけで、「事実なんてどうだっていいんだよ。その子はお前が育てるのが一番だよ」ってことなんだと思いました。

そしてラストシーン、彼女さんと通りを歩くシーンは本当に良くて、泣けました。んでもって、彼女さん、いい人だなぁ、と。

いい映画だったなぁ。配信に出てこないかなぁ・・・

「アノーラ」でアカデミー作品賞を受賞したショーン・ベイカーの初期傑作選にて鑑賞。ベイカー監督が2008年に手掛けた長編3作目。この作品も先日鑑賞した「スターレット」同様かなり良かった。ニューヨークの移民コミュニティを舞台にそこで暮らす人々を軽いタッチで描いている本作は、即興やアドリブで撮られた部分が多いらしく、ナチュラルさが際立ったドキュメンタリーっぽい自然な演出が特徴だ。ショーン・ベイカーが優しい眼差しで大都会の片隅で貧しくも一生懸命生きる人々を捉えている。

ニューヨークの路上で偽ブランド品を売る移民青年ラッキーのもとに、元恋人が存在すら知らなかった息子を連れてくる。その日から彼の日常が慌ただしくなり、次代にその黒人青年と子供の間には不思議な絆が生まれる。そんな2人を取り巻く人間模様を優しく温かく描いた作品。

華やかなブロードウェイとは対照的なマイノリティの世界、そこにはラッキーのようにビザを持たない不法移民もいれば、ラッキーのボスのようにアメリカ女性と結婚して永住権を得たレバノンから来たアルメニア人もいる。それぞれが訳ありな人生を送りながら幸せを求めて生きている。

あの赤ちゃんは、何処から連れてきたの？とにかく、顔の表情といい仕草といい下手な役者よりも演じ切る。まだオムツをしているし、歩いていないから1歳未満だと思うが堂々としていて観ていて楽しかった。この赤ちゃんに合わせて即興やらアドリブの撮影が行われたのかもしれない。所々、ユーモアを覗かせている。

自分の子供かどうかもわからないのに、身勝手極まりない理由で元恋人に赤ちゃんを渡され、彼はビザがないために警察にも届けられない。やりきれない思いながらも、バギーを引きながら偽ブランド品の客引きをして一生懸命赤ちゃんの面倒を見る黒人青年。不法移民だし、その日暮らしの貧しい生活なのに赤ちゃんに接している彼を見ると優しさが滲み出ていて胸が熱くなる。

「アノーラ」にも出演していたショーン・ベイカー作品常連のカレン・カラグリアンが、ラッキーのボスを演じていて、今までの出演作の中では一番の好演だった。