耶馬英彦さんの映画レビュー・感想・評価 - 8ページ目

耶馬英彦

耶馬英彦

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パリタクシー(2022年製作の映画)

4.0

 老いて矍鑠としているパリジェンヌの物語である。家を出てタクシーで老人ホームに向かう道すがら、パリのそこかしこに立ち寄り、そこで起きた出来事を運転手に語るのだが、その波瀾万丈の人生に驚く。
 前日にイ
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聖地には蜘蛛が巣を張る(2022年製作の映画)

4.0

 面白かった。リアリティがあり、緊迫感がある。歪んだ精神が集団に蔓延すると、腕力に乏しい女性にとって、恐ろしい社会になる。

 原題は英語で「Holy Spider」だ。内容からすると「Psycho
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ノートルダム 炎の大聖堂(2022年製作の映画)

4.0

 この3月に観た「エッフェル塔〜創造者の愛〜」の中で、エッフェル塔の高さについて、ノートルダム寺院より高いのはけしからんという意見があったことが紹介されていた。本作品の序盤で鳥瞰のシーンがあって、そこ>>続きを読む

ガール・ピクチャー(2022年製作の映画)

3.5

 原題の通り、ミンミとエマとロンコの三人の女の子の物語である。5歳から15年というエマのキャリアからすると、三人とも20歳くらいか。学校に通っている二人は18歳かもしれない。
 80年代アメリカの青春
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ジョージア、白い橋のカフェで逢いましょう/見上げた空に何が見える?(2021年製作の映画)

3.0

 おそらくジョージア国民が鑑賞したら面白い作品なのかもしれない。多分流れる時間が日本人と違うのだ。ずっと間延びした描写が延々と続くので、かなり飽きる。オルガンのBGMで長々とドアを映すシーンに何の意味>>続きを読む

仕掛人・藤枝梅安2(2023年製作の映画)

4.0

 2月に先立って公開された第一作に続いて、期待通りの面白さだった。
 本作品は時代劇としては斬新でスタイリッシュだ。出会いも別れもあっさりしたもので、とてもリアルである。そこには他人に何も求めない諦観
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ノック 終末の訪問者(2023年製作の映画)

3.0

 新約聖書の「ヨハネ黙示録」の第七章から第九章を要約してみると、第七章には、地と海を損なう権威を授かった四人の御使いが世界の四隅に立っていると書かれている。第八章には、子羊が第七の封印を解くと、七つの>>続きを読む

オオカミ狩り(2022年製作の映画)

4.0

 面白かった。登場人物の殆どは悪人で、盲目的な役人や、職務にテキトーな刑事たちが間を埋めている。昭和の日本映画みたいな権威主義やパターナリズムが見受けられるのは、暴力に直結する精神性だからだろう。ゴア>>続きを読む

エスター ファースト・キル(2022年製作の映画)

4.0

 念のため動画配信サービスで2009年の第一作(原題「Orphan」=「孤児」)を観てから鑑賞した。当時12歳だったイザベル・ファーマンが主人公のエスターを演じたのは特に違和感なく観ることが出来たが、>>続きを読む

トリとロキタ(2022年製作の映画)

4.0

 変な言い方だが、人間は物心ついたときには、すでに生まれている。自意識が目覚めて自分の生を認識したときには、否応なしに自分には生命があって、現実に存在しているということを思い知るのだ。そして他の動物が>>続きを読む

映画 ネメシス 黄金螺旋の謎(2023年製作の映画)

4.0

 面白かった。テレビドラマはあまり人気がなかったようだが、当方は興味深く鑑賞していた。本作品はテレビドラマと同様に、遺伝子操作やマインドコントロールマシンなど、現代のテクノロジーに対して疑問符を投げか>>続きを読む

生きる LIVING(2022年製作の映画)

3.5

 ミュージカルの「生きる」を2度観劇した。主演は鹿賀丈史と市村正親のダブルキャストだ。一度目は2018年10月に鹿賀丈史が主人公渡辺勘治を演じた回、二度目はその2年後の2020年10月に市村正親が渡辺>>続きを読む

丘の上の本屋さん(2021年製作の映画)

4.0

「読書百遍意自ずから通ず」という諺がある。そのままの意味だから解説不要だ。当方も難解な本は何度も読んだ。聖書などの検索をしたい本は、自分でPCのドキュメントに入力してある。自分で打ち込むと言葉のひとつ>>続きを読む

BLUE GIANT(2023年製作の映画)

4.5

 聴覚や嗅覚や味覚は直接本能に響いてくる。大きな音や耳障りな音、嫌な臭いなどは、生存の危機に直結する恐れがあるのだ。そんな音や臭いや味に触れると、逃げたり鼻や口を覆ったり、または食べ物を食べなかったり>>続きを読む

ロストケア(2023年製作の映画)

4.5

 介護の現場は時として悲惨である。本作品より前に、介護の現実を扱った邦画をいくつか鑑賞した。昨年(2022年)12月に公開された「光復」や2017年5月に公開された映画「八重子のハミング」などである。>>続きを読む

ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー(2023年製作の映画)

3.5

 前作の「ベイビーわるきゅーれ」が出来がよすぎたのだろうか。どこか哲学的だったふたりの会話は情緒的になってしまい、凡俗化してしまった。前作では女子高生の殺し屋という設定自体から生まれるギャップで自然に>>続きを読む

通信簿の少女を探して~小さな引き揚げ者 戦後77年あなたは今~(2023年製作の映画)

3.5

 監督を務めたTBSディレクターの匂坂緑里(さぎさかみどり)さんの執念たるや、いかばかりだろうか。大分県の小学校の戦後間もない頃の通信簿。古書店の本に挟まっていたら、誰もが縁(ゆかり)を覚えるに違いな>>続きを読む

零落(2023年製作の映画)

3.5

 肥大した自意識は、時として人格を崩壊させることがある。ドストエフスキーの「罪と罰」のラスコーリニコフがその典型だ。本作品は「罪と罰」に似たところがある。文豪の世界的な名作と並べるのは無理があるのは承>>続きを読む

妖怪の孫(2023年製作の映画)

4.5

 とても面白かった。平日の朝一の回だったが、席は割と埋まっていた。年配の観客ばかりで、若い人を見かけなかったのが少し残念である。仄聞では元総理の誰かが公開初日に鑑賞したそうだ。年配客のひとりだったとい>>続きを読む

シンデレラ/3つの願い(2021年製作の映画)

3.5

 グリム童話で有名な「灰かぶりのエラ」=「シンデレラ」の新解釈だという触れ込みだったので、まったく想像はつかないものの、それはもう振り切ったシーンが見られるのかと漠然と期待していた。
 振り切ったシー
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赦し(2022年製作の映画)

3.5

 登場人物はだいたい嫌な感じである。おまけにあまり頭がよくない。そして法廷のシーンが多い。そのせいか終始辛い気持ちでの鑑賞となった。しかし観終えると、シェイクスピアの悲劇みたいなカタルシスがある。不思>>続きを読む

The Son/息子(2022年製作の映画)

3.5

 精神疾患のある息子と離婚した夫妻の話である。

 父親は自分自身も独善的な父親から人格を否定される言葉を投げつけられた記憶があるにも関わらず、息子に対して同じ言葉を投げつけてしまう。社会に適応しなけ
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コンペティション(2021年製作の映画)

3.5

 上映中の映画「シン・仮面ライダー」に主演している池松壮亮が、2003年に12歳で映画「ラスト・サムライ」に出たとき、トム・クルーズからペネロペ・クルスを紹介してもらったエピソードを披露している。抱き>>続きを読む

シン・仮面ライダー(2023年製作の映画)

4.0

 実は仮面ライダーには詳しくない。菅田将暉や福士蒼汰といった若手俳優が登竜門みたいにその役を演じたことは知っているが、数多あるヒーローものや戦隊もののひとつだと思っていて、テレビも映画も観なかった。>>続きを読む

ベネデッタ(2021年製作の映画)

4.0

 ベネデッタに起きた奇跡は本物なのか、それとも捏造なのか。湧いてくる疑問に揺れながらの鑑賞となる。当方は無信仰で、エホバもヤーベもアッラーもシバもヴィシュヌも信じていないので、当然ながらベネデッタの自>>続きを読む

劇場版 ナオト、いまもひとりっきり(2023年製作の映画)

4.0

 原発の地域に生きる人々の本音が垣間見える作品である。

 原発に関する我々の一般的な認識は、原発は効率よく発電できるシステムだが、天災地変などの原因でひとたび事故が起きてしまうと、放射能を放ちながら
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Winny(2023年製作の映画)

4.0

 権力者の一番の目的は、権力の維持だ。もっと具体的に言えば、権力者である自分の立場を守ることだ。歴代自民党政権はずっとそうだった。権力者の立場を維持するためにアメリカの言うことを聞かねばならないのなら>>続きを読む

オマージュ(2021年製作の映画)

4.0

 更年期を迎えようとしている売れない映画監督が、同じような境遇だった女性が監督した60年ほど前の映画の、失われた断片を探す物語である。地味なシーンの連続だが、少ない手がかりを頼りに切れそうな糸を辿ると>>続きを読む

オットーという男(2022年製作の映画)

3.0

 たまにこういう映画が作られる。嫌な感じの人間が実はいい人だったという話だ。ちょっと感動的な身の上話もある。どうぞ泣いてくださいという作りだが、いざ鑑賞してみると、大した感動はなかった。

 脳神経学
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エッフェル塔~創造者の愛~(2021年製作の映画)

4.0

 人々の役に立つものを安全第一で作り上げる。それが建設技師であるギュスターヴ・エッフェル社長の揺るぎない信念だ。実用的であったり、象徴的であったりする建設物は、おのずから人々を集める。様々な経済効果を>>続きを読む

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(2022年製作の映画)

3.0

 Nothing matter.
 普通は「何でもない」と訳す言葉だ。本作品では同じこの言葉が娘と母親の台詞で使われるが、その意味は異なる。
 中盤の娘の Nothing matter.は「(この世界
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ただいま、つなかん(2023年製作の映画)

4.0

 気仙沼市の唐桑の港で被災した菅野一代(かんのいちよ)さんに焦点を当てたドキュメンタリーである。ナレーションは渡辺謙の渋い声。メリハリがあってとてもいい。音楽は地元の岡本優子さん。この人の音楽が素晴ら>>続きを読む

ペーパーシティ 東京大空襲の記憶(2021年製作の映画)

3.5

 1945年3月は、日本各地を大空襲が襲った。東京大空襲、名古屋大空襲、大阪大空襲。東京大空襲の死者は10万人だ。長崎原爆の7万人を超え、広島原爆の14万人に迫る。

 軍人や軍に勤務していた人たちの
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逆転のトライアングル(2022年製作の映画)

4.0

 序盤はファッション業界の権威主義と拝金主義が描かれる。そこから、男女のモデル同士のマウンティング争いのシーンまで、なんとも低レベルの人間性が剥き出しで、なんだか気持ちが悪くなる。しかし後半になると、>>続きを読む

日の丸~寺山修司40年目の挑発~(2022年製作の映画)

4.0

 序盤のインタビューシーンはとても挑戦的で反感を覚えるが、我慢して観ていると、寺山修司の本意が分かってくる。天井桟敷の劇と同じで、世界に対してかなり斜に構えている。そして寺山の日本人観が見えてくる。>>続きを読む

エンパイア・オブ・ライト(2022年製作の映画)

4.0

 冒頭、雪が降る中を歩いて来たヒラリーが映画館の鍵を開け、次々に明かりを灯していく。カウンター、ショーケース、ロビー、そしてスクリーン。映画館の開館準備は、これから映画が上映されるのだという期待に満ち>>続きを読む