【閉塞感】

昔よりは一般的になったとは云え、ゲイの世界は差別の対象であり続けている。ゲイバッシャーなどはなくならず残っているのだ。

「フェム」は、物語の設定が秀逸だと思う。

ドラッグクイーン
ゲイバッシャー
ゲイバッシャーを装うけれども実はゲイ

誘惑と、支配するものと支配されるものの立場が徐々に逆転していく感じも自然で、明らかな転換点があるような違和感もないし、見入ってしまう。

こうした展開を示す物語の背景にあるのは、明らかに変わることのない差別なんだと思う。

反wokeなんて言うがヨーロッパにおいても、まだまだ差別が多いことは明らかだろう。

その中で足掻く若者の先の見えない閉塞感も感じさせる物語だ。

【因果応報にしてもオーバーキルなんよ🤧】
A24/ドラッグクイーン/復讐劇⇒観るっきゃない！

🍽️全体の感想
主人公が復讐相手であるプレストンと距離を縮めるほど、プレストンの虚勢がほろほろと剥がれ落ちていく。前時代的な男らしさに染まり、暴力でしか自分を表現できなかったプレストンがだんだん素直になっていく様子がとても可愛かった。でも復讐相手なんだよね、ツラいな…😿

🍽️2人の対比
主人公は自分のマイノリティな部分を受け入れ、その世界で行きていくと決心できた人。一方のプレストンは自分の性的指向を受け入れるかどうかの過渡期にあって自分への戸惑いと揺らぎの狭間にある。普段控えめな主人公だけど、時折、マイノリティ特有の芯の強さが見え隠れしてとても良かった。

🍽️有害な男らしさ
プレストンはアングラ社会にありがちな"漢たるもの強くあれ"という価値観に染まりきった人だと思った。彼の育った環境や交友関係をみるに『おれは強者（悪）だぜマウント』がすごくて、物凄く縦社会というか、仲間内でも弱さを見せてはいけない、油断のできない関係性が印象的だった。弱さを見せた瞬間、一気にいじられる側、搾取される側に回されてしまう。隙あらば相手よりも優位に立とうとするマウント合戦を見ていると、彼がなぜ軟弱な男にヘイトを撒き散らし、主人公にあんな非道いことをしたのか合点がいってしまう。ストーリーを追うごとに全ての言動の点と点が繋がって、内面描写が見事だった。

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⚠️この先、ネタバレあります⚠️
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🍽️好きなシーン
プレストンの可愛さが見えるシーンはどれもお気に入りで以下プレストン語録です🤗
・『触んなよ、ぶち殺すぞ』ってハッテン場で言ってるの面白すぎる。何しにきたんだ。あの場所であんな態度をとるくらいだから彼は今までノンケとして生きてきてゲイの経験はなさそう。絶対ここに来るまで緊張してただろうにがんばって虚勢はって初々しいな。
・ごはんの好き嫌いを聞かずに相手の分まで勝手に料理をオーダーするプレストン。だけどちゃんと雰囲気の良いお店だったり、料理を取り分けてくれたり、ステーキのソースをいくつか持ってきてもらったり、一応彼なりにもてなしてるんだよね。ちょっと浮足立ってるの可愛い。
・『お前の好みに俺ぴったりだけど？』『俺に彼女がいたら嫌か？そっか〜今いないけどな〜そっか〜』って主人公からの質問をヤキモチだと解釈して嬉しそうな顔してやがる。
・お会計のときにトランプのカードを扱うみたいにテーブルにドル札をペシペシ置いていくいやらしさ。俺はキャッシュでお金持ってるんだぞ〜！ていうアピールとドヤ顔が子どもっぽくて可愛い。
・『俺のために普通の服を用意したの？』って何気なく聞いてるけど、そうだよって言って欲しそうな顔してるんだな。そうじゃないよって言われてちょっとガッカリしてるのかわいい。
・『いや！違うよ！あの車は貰ったんじゃなくて！ちゃんと買ったんだよ！』と、あれは僕の車だもん！と聞いてもないこと喋りだす。はいはい僕の車だね〜。
・『誰にやられた？俺が仕返ししてやんよ』愛所表現の台詞すら暴力的なのよ。お前だぞ！
・『もっと良い機種に安く交換できるぞ』←ごめんねに代わる言葉があまりに斜め上だった…！不器用すぎるだろ。
・『俺は驚くと怒っちゃうんだよ！』←どんな感情の連鎖やねん。犬みたいな習性だしてくるな、笑っちゃったよ😂
・二言目には『GOOD BOY（良い子だ）』て言うのツンデレが過ぎないか？は？最高なんだが？？？

🍽️出会い方さえ違っていれば…
主人公はプレストンのことを『イケメン』て言ってたし、プレストンも主人公に『来いよ』て声かけてたし、2人とも出会い方さえ違っていればもしかしたらベストカップルになったかもしれないよね…

🍽️復讐の仕方
主人公が当初思い描いた復讐（無断のアウティング）に比べると手心を加えたつもりかもしれないけど、プレストンにとってはようやく自分の癇癪すら包みこんでくれる理解者が現れたと思ってたところだし、なんなら今までだったら絶対に足を踏み入れたくないであろうゲイの巣窟に顔バレ覚悟で変装せずにプレゼント持っていくくらい相手に歩み寄ってたわけで、あのステージは明らかにプレストンに対してオーバーキルなんだよね。虚勢はったり、マウントとったり、面倒くさい男社会から解放されて、シラフでチューできるくらいには主人公に夢中で、プレゼントだって一生懸命選んでさ。せっかく人生で初めて素直になれたのにあの仕打ちはないよね。自分だけ舞い上がってばかみたい。ラストは悲しくて泣きそうになっちゃった。まさかこんなに切ない気持ちになるなんて思わなかったよ…

🍽️その後の2人
あのあと2人はどうなっちゃうんだろうね…復讐する方もされる方も深い傷を負って誰も幸せにならなかったな。プレストンは塞ぎ込んで抜け殻みたいになっちゃいそうだし、主人公は自責の念から謝りに行こうとするけど、むせび泣くプレストンに銃で◯されちゃう未来しか想像できないんだよな…

🍽️その他、いろいろ
・主人公もガタイは良いけどダンスパフォーマンスのための筋肉だから、フィジカルのポテンシャルは高くても殴り合いの喧嘩が強いわけじゃないんだよな〜
・プレストンはオラオラな環境で育ってるから、容姿の好みは主人公みたいにタッパがあって一見強そうな男な気がする。
・プレストンは女の子にもモテそうだけど、おそらく女の子にもあんな感じの扱いするから彼女できても数時間でフラれてそう。あと女の子とのコミュニケーションを面倒くさがって電話かけただけで勝手に電話かけてくんじゃねーってバチキレしてきそう。目に浮かぶ。
・なるほど！ゆっくりか…！って学んだ顔してる。
・プレストンが従う側になったとき、責め受け逆になるかと思ったのに〜！ちがった〜！リバなしでした！
・メッセージに『X（キス）』まで入れられるようになったのにさ。
・主人公の近くに良い人いるんだけど、その人は恋愛対象にはならないんだよね…良い人なんだけどね😿

【追記】
パンフも購入。主演の2人の役作りや役への想いがたくさん語られていて読み応え抜群でした。買って良かった🙆

【余談】
プレストン役のジョージ・マッケイが良い味出してたから何気なくInsta観に行ったら普段はめちゃ爽やかなおにーさんでビビりました。全然雰囲気違いすぎる😳
https://www.instagram.com/george__mackay?igsh=aTYzbTB2OXYwZzdt

【第73回ベルリン映画祭　パノラマ部門出品】
英国アカデミー賞にもノミネートされた同名の短編を長編化した作品。サム・H・フリーマンとン・チュンピンの長編デビュー作。ベルリン映画祭パノラマ部門に出品された。

これはよかった。復讐劇というよりは人の弱さ、ないし男の弱さを描いた作品という印象。『1917』で名を上げたジョージ・マッケイが正反対とも言えるマッチョな役柄を演じているのが面白い。

ドラァグクイーンのジュールズはあるときヘイトクライムでリンチされる。打ちのめされているところ、たまたま入ったハッテン場でリンチしてきた青年をみつけ…

なかなかに辛い話だが、丁寧に心の機微を拾っていく演出がとても上手い。激しい描写、静かな語り口を使い分け、マッチョであろうとする男の弱さを暴いていく。

簡単にジャッジしない視点がすごくいい。人間の持つ欲望を正面から見据えた演出力が光る。倒錯的な欲望と激しい性行為に彩られた強烈にして鮮烈な作品。

展開力も申し分ない。主従関係の逆転、見られたいという欲望、そして人の優しさ。そういった人間の持つ本質を鋭くみつめた良作。思わぬ拾いものだった。けっこう好き。

• #第73回ベルリン国際映画祭