ぶっ殺してでも、あんたを助ける。

アレクサンドル・アジャ監督、セシル・ドゥ・フランス主演によるフランス製作のスリラー。
友人の実家を訪れた主人公が、殺人鬼に襲われる姿を描く。
2003年公開作品の4K版であり、オリジナルは未鑑賞。
主人公となる女子大生のマリーをフランス、友人のアレックスをマイウェンが演じているほか、謎の殺人鬼としてフィリップ・ナオンが登場。
物語は、傷を負いながら森の中で何かから逃げるマリーの姿でスタートと、ホラー感満点のオープニングとなっている。
次には、ドライブするマリーとアレックスの車内の様子が映し出されるのだが、ここは先ほどとは一転、試験勉強のためとは言いつつ、妙にテンションが上がりながら、都会から離れたアレックスの実家に向かう二人の様子は、若者のロードムービーさながらで、オープニングとの対比はなかなかのもの。
その後、その日の夜、アレックスの家に謎の中年男が忍び込み、彼女の家族を惨殺していくこととなるのだが、その容赦のなさと、ゴア表現のキレ味、常に鳴り響くロックや金切音のような劇伴により、閉ざされた空間で逃げ惑うというワンシチュエーションものとして素晴らしいテンポと恐怖感を醸し出している。
何より、この謎の男に関わる演出が文句なしであり、その登場の時から、生首であんなことをしていたり、はたまた、顔が見えそうで見えなかったりと、不穏感を掻き立てる中、その吐息の気持ち悪さたるや、臭いと温度まで伝わってきそうで不快感MAX。
そして、そのまま屋敷の中だけで物語が完結するかと思いきや、後半はガソリンスタンドからの森の中へと舞台が移っていき、思いのほか、絵面に動きがあったのは意外だったところ。
クルマ好きの視点からすると、殺人鬼が乗るクルマが、前輪駆動や後ろヒンジドアが特徴的なシトロエンのタイプHなるトラックであり、このトラックと、マリーが運転する日本ではほぼ目にすることのないフォード・グラナダのクーペが繰り広げるカーチェイスは、私のベストムービーであるスティーヴン・スピルバーグ監督『激突！』をオマージュしたかのような展開があったのに加え、森の中で登場したのが激シブなセダン、アウディ・100であったのは見逃せないポイント。
とにかく最初から最後までノンストップとも言えるテンポかつノリノリな劇伴と、エログロ、そして動機不明の変態殺人鬼とのマッチングが素晴らしく、そのまさかの結末を振り返ると、辻褄が合わないような気もするのだが、そんなことも吹き飛ぶような内容は、真夏の夜にピッタリ。
私もよく「テンション爆上がり」という表現を使うものの、本来「テンション」とは緊張感や不安を意味しており、高揚感を示す「ハイテンション」は和製英語なのだが、本作品は本来の意味のテンションが張り詰め、それを観た私は、前述した『激突！』を彷彿とさせるシーンに、勝手にハイテンションになることができたとともに、入場者プレゼントであるステッカーは、「マリー電ノコステッカー」と「殺人鬼バックプリントステッカー」の二種類が先着かつランダムで貰えるところを、まさかのどちらも配られるという大盤振る舞いに、思わずほくそ笑んでしまった快作。

「普通」なんて嫌い。

ネタバレはブログに書きました↓
https://x.gd/bUdMg
"いつ何が起こるかわからない"緊張感がエグ過ぎて、観た後は痩せた気がするネタバレ厳禁のフレンチホラー。前戯が上手すぎるホラー映画。欲求と理性がせめぎ合う自分との戦い。

この映画、キッツイ！
ずっと緊張感が抜けないタイプ！
私はこのタイプが1番苦手！

緊張感やば過ぎて肩凝る系の映画でした。
私は初見で映画館で鑑賞したのですが、中央の前目の座席を確保したことを後悔しました。

◼️座席で暴れた

劇場ではスクリーンから目を背けたいけど、観たいという気持ちがせめぎ合い、頭が右に左に動き回ってました。

ちょっとやばいかも！？っていう時はメガネをずらして視力を悪くしてみたり、謎の抵抗をしていました。

"来るんじゃないか！？"って時には
「ゔぅ！？」って声出たりしました。

同じ回にいた皆様にはすみません。

やば過ぎて観た後はなんか痩せた気がした。

◼️観客を裏切り続ける

もう気持ちいいです。
怖がりやすい手のひらの上でした。

◼️グロは期待ほどではなかった

屋敷女を先に観てしまったため、本作のグロは割と耐えられました。

◼️ハイテンションの意味

フランス語のハイテンションの意味はわからないのですが、英語では日本とは意味が違い、ネガティブな緊張や不安を示すそうです。
まさにこの映画を観ているときの私は”High tension”な状態でした。

◼️音楽がめちゃくちゃ合う

冒頭の音楽から一気に引き込まれました。
最高の選曲ですね。
帰り道はこの曲を聴いて帰るの一択でした。

• #あやちまるムビチケ当選

本作は、スラッシャーの文法を借りながら、観る側の「安全な距離」をわざと剥がしてくるタイプのホラーだと感じました。怖いのは怪物の存在というより、身体が“肉”として破壊されていく、その即物的な現実感です。血の量や残酷さが過激だからというより、痛みの質感そのものがこちらの神経に直接触れてくる。その生々しさが、快楽よりも不快さへ寄るように設計されているところに、本作の特異性があるように思います。

同時にこれは、ニュー・フレンチ・エクストリミティ的な身体ホラーを、明確に“ジャンル映画の枠”へ接合した作品でもあります。アートハウス的に暴力を語るのではなく、スラッシャーとして走り切りながら、観終わったあとに「いま観たものは、何の物語だったのか」を遅れて問い返させてくる。その意味で、前半は直球の追跡劇として成立し、後半に入ってジャンルの足場がじわじわと揺らいでいく感覚が残ります。

ただし、本作は結末が強烈なぶん、評価が割れるのも納得でした。ツイストを“精神の地獄の可視化”として受け取れるか、“物語の整合性を崩すアンフェアさ”として拒否するかで、同じ一本がまるで別の作品に見えてくると思います。



※以下、ネタバレを含みます。未見の方はご注意ください。
































「マリーこそが殺人鬼だった」という転回は、映画全体を“妄想の再編集”として読み替えさせます。前半のサバイバルは外部の脅威ではなく、内部で分裂した主体のドラマだった、という再定義がここで生じる。提示されるのは、悪が外から侵入してくる恐怖ではなく、自己同一性そのものが崩れていく恐怖です。恐怖の発生源が「自宅の外」から「自分の中」へと移動した瞬間に、作品の質が決定的に変わって見える。その転換こそが、本作の強度だと感じました。

もっとも、その再定義があまりに強引であるがゆえに、物理的整合性が崩れてしまう箇所が目立つのも事実です。特に追跡劇の場面では、「客観的スラッシャー」として提示されてきた映像が、ラストで急に「主観の妄想」へと回収されるため、観る側が納得できる“視点のルール”が欠けたまま反転してしまう。ここをアンフェアと感じる人が多いのも自然でしょう。一方で、その破綻そのものを、マリーの現実検討能力の破裂として読むなら、整合性の欠如は“欠点”であると同時に“症状”でもあります。映画の穴が、そのまま主人公の穴として露出しているようにも見えます。

本作の核心は、殺人鬼が「粗野な中年男性」として造形されている点にあるように思います。マリーの欲望と攻撃性が、そのまま“自分”として表象されるのではなく、「男」という外部の仮面に投影される。自分の中の衝動を自分のものとして認められないからこそ、“他者”の姿をした暴力として現れるわけです。結果としてマリーは、「守る者」として走り続けながら、同時に「壊す者」でもあるという二重構造に閉じ込められていく。終盤、彼女が“敵”を殺した瞬間に、その正体が自分自身であると露見するのは、自我が衝動に飲み込まれた場面として読めます。勝利が統合ではなく、崩壊の宣告になる。この反転は、かなり残酷です。

一方で、本作が議論を呼び続ける最大の理由は、同性愛的欲望が暴力と結びつく構図が、あまりに強く前景化してしまう点にもあります。マリーの欲望が周囲を破壊し尽くす執着として描かれ、最終的に隔離（病院）へ収束する流れは、映画史の中で繰り返されてきた「逸脱する女性の処罰」に重なって見えてしまう。ここにホモフォビア的だという批判が生まれるのは、避けがたいところだと思います。

ただ、そのまま差別的表象だと断罪するだけでは終わらない複雑さも、本作には確かに残っています。マリーの暴力性が「同性愛だから」ではなく、「欲望を肯定できない社会の圧力」や「内面化された自己嫌悪」の帰結として描かれている、と読むこともできるからです。殺人鬼が“男”の姿をしているのは、彼女が自分の欲望を“自分のもの”として引き受けられず、家父長的暴力の仮面に着せ替えた結果だとも解釈できます。抑圧が主体を分裂させる悲劇として読める一方で、その表象が現実の偏見と接続しやすい危うさも抱えている。だからこそ本作は、好き嫌いの議論だけでは終わらず、倫理と解釈の綱引きを長く残し続けているのだと思います。

スラッシャー映画がしばしば「通過儀礼」として機能することを踏まえると、本作はその構造を意図的に裏返す作品でもあります。多くの作品では試練を経た生存者が主体性を獲得し、社会へと戻っていくのに対し、マリーは試練を通じて成長するのではなく、試練そのものを自作自演し、最後には社会から隔離され、妄想へと閉じこもる。生還が救済ではなく、幽閉の始まりになる。その点で、ファイナル・ガールの神話が精神病理として崩れていく感覚が強く残ります。

総じて本作の真の恐怖は、電動ノコギリや剃刀そのものではなく、自己が分裂し、愛が執着へと歪み、現実が都合よく再編集されていく過程そのものにあるように思います。ジャンル映画として走り切りながら、ジャンルの約束事──安全なカタルシスや、ファイナル・ガールの生還神話──を内側から自壊させて終わる。だからこそ本作は、観た側の倫理観と解釈を否応なく炙り出す一本でした。