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『サディスティック&マゾヒスティック』に投稿された感想・評価

3.5

映画を撮らせてもらえるなら、なんでもやるよね・・・(小沼勝)


小沼勝という日活の監督さんの助監督をしていた中田秀夫が、小沼氏本人、中田秀夫を含めた小沼組の面々、役者たちとのインタービューを集めたもの。サドやマゾの分析はゼロ、撮影もただ撮っただけの映像、音楽は小沼の映画の引用と重なっていてどこからがこのドキュメントのものなのか不明だがスーパーマーケットでかかっているレベルであり、もしゃもしゃ話す人が多く会話が聞き取れず、おまけに私は小沼氏の映画を観たことが一度もないのだが、面白かった。中田秀夫の愛情の深さを感じた。

茶目っ気のあるおじさんといった感じで飄々と、日活側から課されたルールとしてオールアテレコで撮り、肉体的にSもMも実体験したことはないのだが、役者が困ると自演してみせ、そのために撮影前には、一人で濡れ場の練習をした、とかと語る。


(小沼氏は雇われの職人監督としては)極めて優秀でしょう。(脚本の人)
小沼勝監督を師と仰いでいる中田秀夫が、助監督時代の自己エピソードと日活関係者の証言をまとめ上げていく。世界最大規模のプログラム・ピクチャー「日活ロマンポルノ」を題材に取っている、ドキュメンタリー作品。

演技指導では、監督自身が女優の目前で演技して、女優に振り付けを施す。絡みのシーンでは、女優の足を突然引っ張って、予想外のアクションを生み出す。リアルを再現するのではなく、「映画的」な面白さを加味させる。そんな、映画術に言及している作品。

逼迫した撮影現場では、関係者たちのサドマゾ心理が幾重にも交錯。そして、その結果として、芸術性の高い作品が創出される。そういった法則を暗に示しながら、ロマンポルノの撮影現場という異空間のエピソードが語られていく。

さすがに出版されている研究本との重複部分が多く見受けられるが、当事者が語っている様子を映像で見ることができるため、衝撃度が段違い。とりわけ、谷ナオミが20年ぶりに日活スタジオを訪れる場面が感動的であり、資料的価値を見いだすことができる。
3.5
かつて日活ロマンポルノには神代辰巳や田中登、曽根中生といった映画ファンがオールナイトで特集されるたびに駆けつけた才能ある監督が存在していたが、その一方で西村昭五郎や藤井克彦などといった日活ロマンポルノ初期から終焉までほぼ毎年製作していた職人監督などがいてポルノ本来の目的である男女のまぐわいによるエロスを会社に命じられる方針に沿って撮ってきた。この映画で取り上げる小沼勝監督もその一人で、ロマンポルノがはじまった翌年に監督デビューして1987年というロマンポルノ終了直前の年までメイン監督として活躍してきた。

本作はそんな会社の命令に忠実な一方で独自の映像美にこだわり、時にはこだわりすぎてスタッフやキャストと対立した小沼監督の映画人としての生きざまを監督本人やスタッフ、役者などのインタビューを通して浮かび上がらせ、映画を作るというものがどれだけ並大抵のものではないかを感じさせる。そして同時に、巷ではポルノとバカにされても真剣になって作ってきた人たちがいたことをこのインタビューで切実に残そうとしていることが伝わる。この映画を監督した中田秀夫氏は80から90年代にかけて撮影所システムが崩壊していく様を間近に見ているだけに尚更そうした歴史を映像に刻みたい想いが強いのだろう。

同じ映画監督のドキュメンタリーである『ある映画監督の生涯 溝口健二の記録』に比べるとまとまりがなくポルノで活気に満ちていた時代に対する郷愁や小沼監督への愛情が先行しているので完成度はそれほど高くないが、それでもかつてポルノ映画で女優として活躍した面子(そのなかには近年亡くなった監督の元奥さんでもある片桐夕子がいたりする)が過去の思い出を映像で懐かしく語ったりする姿はファンとしては嬉しい限り。特に谷ナオミが20年ぶりに撮影所を訪れる場面は感無量。

でもこの映画では60を過ぎても現役であることを語っていた小沼監督が、その後2023年に亡くなるまでにたった一本しか監督できなかったのは無念な気持ちだったはずでそう思うと日活のその後も相まって複雑な気持ちになる。

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