『ワイルド・アット・ハート』
原題Wild at Heart
製作年1990年。上映時間125分。
鬼才デビッド・リンチ監督がニコラス・ケイジ主演で放つバイオレンスなラブストーリー米国映画。

ある日、恋人ルーラの目の前で襲いかかってきた男を返り討ちにし、殺してしまったセイラー。
その男は、娘に異常なほどの愛情を持つルーラの母マリエッタが送り込んだ刺客だった。
2年間の刑期を終え出所したセイラーは、ルーラを連れてカリフォルニアへと旅に出る。
マリエッタは再び彼らの元に2人の男を送るが。。。

クラッシュで脳味噌をむきだしにして死んでゆく女。
放置された吐瀉物に群がる蝿。
描かれるバイオレンスさとクレージーさは、今でも凄まじいものがありました。

本作上映後、1992年に米国でロス暴動が勃発した。
一連の暴動・略奪によって、死者63名、負傷者2,383名、逮捕者1万2,000名を出した。
またおよそ3,600件の火災が発生し、1,100件の建物が破壊され、4,500の店舗や企業が略奪や打ちこわしにあった。
被害総額は10億ドルにも及ぶ。
被害の多くは韓国系アメリカ人が所有する建物や企業に集中している。
監督の描いた地獄絵図てのは、 まさしく現実の光景となって顔を出したみたいで、当時、国内外では本作とそのような現実とを重ね合わせる言説も多く見られたそうです。
映画雑誌に、監督は『あのころ、一種の狂気みたいなものが漂っていて、 それをみんな感じ取っていたんじゃないかな。
我慢の限界まで来ていた欲求不満が爆発寸前の状態で煮えた ぎっている。そんな何かを感じ取っていたんじゃない かと思う』
と語ってた。
反面、こないなエグいなビジュアルイメージにヘンテコな監督から採用されたモチーフの数々の味わいを付加してる。
オズの魔法使。
セイラーとルーラが頭んなかで思い描いとるオズの国てのは、やがて彼らの内面に留まらんと、リアルの風景そのものを変化させてゆく。
それは監督が『オズの魔法使』を評して述べる
恐怖と夢の混在した風景として強烈な印象を残すが、同時にそこには、90年代という時代の幕開けに際して、かつての"アメリカ 夢”をそこに照射しようとする意図も込め られていたのではないだろうが。 ハリウッド 黄金期に量産されたMGMミュージカルはま さに"夢"の集積であり、"オズの魔法使"はその代表的な一作である。そこでは、"夢"の世 界で冒険を繰り広げた少女が、 やがて、わが家が一番であることに気づき、ホームへと帰ってゆく物語が描かれていた。
監督の作品としちゃ、躁鬱感漂う演出もしてきながら良く、ストーリーの流れも理解できて見易い作品やとおもいます。
ニコラス・ケイジにワイルドな悪党役は今やアリやけど、当時は賛否両論やったみたいです。
ポツリポツリとリンチっぽい演出が入るため、リンチの作品が嫌いじゃなきゃそこそこ楽しめる作品やと思います。

毒親すぎるヒロインの母やキモいウィレム・デフォーなど主役カップル以上に強めのキャラがいたが、思っていたよりも暴走していなく、のらりくらりとしたストーリー展開が残念だった。緊迫した逃避行を描いてほしかった。

　燃えさかる炎を捉えた美しいイメージ・ショットの後、劇中ではグレン・ミラー『In The Mood』の牧歌的なメロディが立ち昇る。北と南カリフォルニアの境界線沿いにある港町ケープ・フィアー、ナイトクラブから意気揚々と引き上げようとする若いカップル、セイラー（ニコラス・ケイジ）と恋人ルーラ（ローラ・ダーン）の元に大男が現れ、因縁を付けてくる。男は恋人を遠くに引き離した後、大柄な男を急階段の手摺りにぶつける。骨と骨のぶつかり合いにルーラは絶叫し、やがてボブ・レイ・レモンという名の男は脳髄を垂らし、絶命する。それは娘に対して偏執狂的な愛情をもつルーラの母マリエッタ（ダイアン・ラッド）の差し金だった。それから22ヶ月と18日後、刑務所を出所したセイラーの前に迎えに現れたのは、あの時と変わらないルーラの微笑みだった。母マリエッタの「絶対に会うな」という忠告を破り、セイラーとの再会を喜ぶ2人は、マリエッタから逃れるようにカリフォルニアへと逃避行を繰り広げる。若く破滅的なカップルのロードムーヴィーは野蛮者に追いかけられる危険な道行きとなる。ルーラは母親の過剰な愛情から逃れるように、セイラーと時速320kmで飛ばしながら、州境を目指す。その道行きの中でセイラーはルーラに対し、言えなかったことを話し始める。

　バリー・ギフォードの同名小説を大胆に脚色した物語は、破滅的な逃避行を繰り広げる2人の顛末まで一気に描き切る。マリエッタは恋人のジョニー（ハリー・ディーン・スタントン）に2人の追跡を頼んだが、なかなかはかどらないことに腹を立て、今度は殺し屋のサントス（J・E・フリーマン）に相談を持ちかける。サントスは暗黒街の大立者ミスターとなかいの力を借りてセイラー殺しを引き受ける代わりに、ジョニーも殺すという条件を出してきた。驚いたマリエッタは必死でそれを止めるが既に遅く、ジョニーは無残にも殺されてしまう。父親殺しの因果にまつわる人間関係はここで改めてセイラーを中心に据えられる。全ては母親の妄執が原因の嫉妬に駆られた殺人だが、様々な愛憎・利害が絡みながら、徐々にセイラー殺害の包囲網は出来上がって行く。散々馬鹿騒ぎを繰り返すセイラーのルーラへの懺悔は、自分自身への戒めでもあり、心を許したルーラへの純愛の情に他ならない。13歳で無残にも叔父にレイプされ、真実の愛を知らなかったルーラもそんな無慈悲な男が見せたほんの少しの優しさを受け止める。

　ヘビ皮のジャケットを着込んだ時代錯誤の男とトラウマを抱えた女は、ニュー・オリンズのバーボン・ストリートからビッグツナへ。そこで出会うボビー・ペルー（ウィレム・デフォー）の怪演ぶりとかつての相棒ペルディータ（イザベラ・ロッセリーニ）との腐れ縁、これで最後にするつもりだった犯罪計画の顛末。『オズの魔法使い』を夢想する物語は、『エレファント・マン』で主人公が亡き母親に導かれたように、人生に迷った男を最後に導く。今作でリンチはカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞し、時代の頂点に立つ。