『蜩ノ記』
製作年 2014年。上映時間 129分。
小泉堯史監督のメガホンで映画化した時代劇。
主人公・秋谷役は役所広司。
役所とは初共演の岡田准一が庄三郎に扮し、第38回日本アカデミー賞では最優秀助演男優賞を受賞した。

前代未聞の事件を起こした戸田秋谷は、10年後の夏に切腹すること、そしてその日までに藩の歴史である『家譜』を完成させることを命じらる。
幽閉されたまま家譜の編纂を続け、切腹の日まであと3年となったある日、城内で刀傷沙汰を起こした藩士の檀野庄三郎が、秋谷の監視役としてやってくる。　
庄三郎は、秋谷が7年前の事件を家譜にどう記しているかを確認して報告し、また、逃亡するようであれば家族もろとも斬り捨てよとの密命を帯びていた。
庄三郎は秋谷のそばで過ごし、その人柄や家族とも触れ合ううちに、秋谷が事件を起こしたことが信じられなくなり、7年前の事件の真相を探り始める。

この映画の美学は、小泉作品に黒澤の影響を与える手がかりを与えている。
演出、ショットの選択、物語のペースは、日本独特の落ち着きと静寂を際立たせていた。
人物の存在と自然の風景を調和させる努力がなされているようです。
裸足で土を耕す秋谷、緑の森の中で風に吹かれながら剣の稽古をする檀野、川辺で平民の息子と仲良くなる秋谷の息子。
しかし、今作品の最大の強みは、登場人物の描写にあるんちゃうかな。
世代の違う二人の侍を取り巻く登場人物たちは、義理人情に厚い侍にまつわる上品な苦労を披露してくれる。
原田美枝子演じる秋谷の妻は、多くを語らないが、切腹する日まで夫を支え続ける存在。
夫の死に対する悲しみは、涙や唇の震えではなく、普通の家庭を維持しようとする姿に表れている。
秋谷の娘（堀北真希）は、父の静かな勇ましさと母の義務感の両方を持ち合わせている。
武士の妻は厳しいと自覚しながらも、檀野に恋心を抱く。
一方、弟(吉田 晴登)は、父の仕打ちを受け止めつつ、社会階層の厳しさを知ることになる。
このような映画では、脇役の出番が少ない分、息を呑むような演技ができることがある。
この場合、原田、堀北、吉田の3人はインパクトのある存在感を示すことができてた。
彼らの静かな受容が、秋谷の旅をより深いものにするからだ。
美学的な類似点を超えて、小泉監督は今作品でもう一つの黒澤の定番を捉えた。
秋谷の無実を証明しようとする檀野の旅は、一種の真相究明的な使命として伝わってくる。
真実追求のアングルは、真実のさまざまなバージョンを強調するある壮大な渦巻きの物語、黒澤明の『羅生門』を思い起こさせる。
小泉の本意かどうかは定かではないが、彼は真実を探すという同じようなアイデアを探っているよう。
しかし、実は小泉は師匠よりも一歩進んでいたのかもしれない。
『羅生門』は、真実の異なるバージョンにスポットライトを当てることに重点を置いています。
真実は文脈に縛られ、複数の真実が存在しうるということを言おうとしているのである。しかし、『武士の一分』は、真実を記録することの重要性をさりげなく説いている。
秋谷は基本的に最後の10年間を自分の歴史を文章で記録することに費やし、檀野はその文章をコピーするためだけに派遣されたが、やがて実際の真実を記録することを自分の任務とするようになる。
今作品では、いくら真実があっても、記録されなければ意味がない、ということを云いたいのかな。
ある意味、小泉の考える立派なサムライは、もはや刀を振り回し、勇気と正義を貫く戦士の姿ではない。
そして、我々の社会が今、どのような状況にあるのかを考えると、もはやそのような存在である必要はない。
小泉がこの物語を現代の観てる者に提示したのは、2010年代半ば。
剣は古風な方法やった。
彼版の名誉ある侍は、真実を求め、筆を振るう歴史の記録者でした。

武士道について徒然に
※無知な小生がダラダラと連ねた愚文ですので、誤りが多いとは思いますし、お読みの際はおおらかな気持ちで宜しくお願いいたします🙇。

日本の伝統として思い浮かべる
『武士道』。
実は今ある思想体系は近代の発明であり、本来の『武士道』とはちょいと違うと、述べる研究者が増えてきている。
ある意味あってるし、ある意味違うかなぁとも個人的には思う。
まだまだ小生は勉強不足なんかな。
『葉隠』を始め『甲陽軍鑑』のような軍学書、『三河物語』『今昔物語』という物語、さらに摂政太政大臣・藤原道長の日記である『御堂関白記』にいたるまで、多くの古典書籍や大名家の家訓までひもとき追求した武士の実像、その筆致はスリリングでページをめくる手が止まらなくなる。
我々がイメージしている、この『武士道』てのは明治になって作られた──今日流布している武士道論の大半は、明治武士道の断片や焼き直しであると最近は云われ始めている。
それらは、武士の武士らしさを追求した本来の武士道とは異なり、国家や国民性（明治武士道では、しばしば『武士道』と『大和魂』が同一視される)を問うところの、近代思想の一つなのであると。
──本来の武士道とはいうまでもなく戦闘者の思想だ。
『平安の世の民にはおよそ想像を超えた異様な道徳』を持ち、
『明治武士道の説く(高貴な)忠君愛国思想とは、途方もなく異質なもの』、過激で、ある意味乱暴至極なものだったのだと。
周知のように首をはねる、耳をそぐ等が武功を明らかにするために行われた。
武士とはどのような存在だったんやろか。
それは３つの定義をあげると。
・戦闘を本来の業とするものである。
・妻子眷属を含めた独特の団体を形成し生活する。
・私有の領地の維持・拡大を生活の基盤とし、かつ目的とする。
つまり、武力によって所領を維持・拡大し、そのことで妻子一族を養う存在ということになる。
ここにあるのは『戦闘者』『共同体』そして『私』というものに対比される。
『共同体』は妻子家族を中心とする親子関係と、『従者郎党を構成員とする』主従関係をあらわしてる。
この共同体のキーとなっているのは
『苦楽を共にする時間』というもの。
この『主従の間の濃密な時』こそが
『忠』
ちゅうものを生みだす。
さらに、ここには
『情』ちゅうものも存在している。
この『情』こそが『上下関係しかない』主君と家来の関係に『心情の一体性』をもたらす重要なファクターとなってると思う。
主君と家来の関係が独自な『共同体』として成立するうえでこの『情』という要素は不可欠なのです。
この『共同体』ちゅうものを、気をつけなければならないのは、これは極私的なつながりがもとになっているということ──主従関係とは、この○△の誰それが、特定のこの主君△□の誰それとの間に見いだす私的な契りのこと。
徹頭徹尾、私的で特殊的な間柄であることこそが、頼み、頼まれる関係の基本。
『三河物語』を読むと、そこで描かれた主（徳川家）従（大久保家）関係（＝武士共同体）というものがいかに『情』ちゅう心情的な交流に支えられているかがよくわかる。
武士はどこまでも『私』性というものを手放さない存在である。
──仏語にある『唯我独尊』という言葉は、ある面で、武士という存在のあり方そのものを端的にあらわしているように思われる。
俺が、俺がの精神は、いつの時代にも、武士という生き物のきわだった特徴であると見られてきた。
我こそはとは、己れの力によって一人立つ武士のあり方そのものを示す文句やから。
武士道でいわれる
『忠』ちゅうものはあくまで具体的な我と具体的な主というものの間に生まれたものだったので、この極私的なものである『忠』というものを近代国民軍を創設するために軍人精神として利用しようとしたのが明治軍制。
明治になるまで軍隊は諸藩の連合軍。
これを解体して近代軍制（国軍の創設）を確立させるために『忠』の精神は必要とされたのやろな。
いってみればバラバラの（諸藩ごとの）主従関係を国家のもとに統合するために武士道の『忠』を拡大解釈し、明治天皇への『忠』というものに作りかえ利用したのが明治政府（中心は山県有朋）やった。
なら、
『私的で特殊的な間柄であることこそが関係』の基本である
『忠』をどのように利用したのじゃないか。
その目的で生み出されたのが『大和心』。
これは『天皇と軍人との間に心情的な絆』を生み出させるために創出されたもの。
作られた『情』と呼ぶべきか。
そして生まれたのが『軍人勅諭』。
この時、武士道（武士的道徳）はどうなっていたのか。
肝心かなめの武士自身の精神を、注意深く取り除いたところに成り立つ、擬似的な武士道と作りかえられた面がある。
近代軍制の成立とともに“古典的（＝本来の）武士道”は『否定すべき生々しい過去』とされた。ここには初期明治政府が直面した西南戦争等の“武士の反乱”への“苦々しい”記憶が残っていたのだ。
その後、こうして一度は排除された武士道（武士的道徳）が形を変えて復活する。
これには２派あり、井上哲次郎のような国家主義者によるものと、新渡戸稲造、内村鑑三、植村正久らのキリスト教徒によるものでした。
そして前者は敗戦と共に忘れられ、新渡戸稲造らが考えた『武士道』というものが残ったのです。それは血なまぐさを棄てた、道徳・倫理としての武士道の姿でした。
ところで新渡戸らはなぜ『武士道』を取り上げたのか。
実はそこには大きなモチーフがありました。
日本民族の精神が、キリスト教道徳とも通じる普遍的道徳であることを理解させるためには、もっと別の説明の言葉が必要である。
その言葉は、何と当の日本人すらも忘れかけていた、封建時代の旧弊の中にひっそりところがっていた。
それが『武士道』である。
キリスト精神に負けない日本民族の精神をあらわすものとして新渡戸が“発見した”のが『武士道』で、西欧に負けない日本固有の精神的バックボーンとし『武士道』というものを唱導したのだ。
そやから、そこでは武士の持つ『戦闘性』の要素は排除されて、『義』というものを中心として大きく取り上げるようになった。
こうして見いだされた『武士道』は当事者たる武士はおろか、儒教的な武士道徳をも突き抜けた、まったくの観念と化したものとなったのだ。
明治武士道は、明治国家体制を根拠として生まれた、近代思想である。
それは、大日本帝国臣民を近代文化の担い手たらしめるために作為された、国民道徳思想の一つである。
これが今に続く『武士道』のイメージを作り上げるもととなったのやと云う学者がいる。
こうして伝えられた『武士道』から私たちはなにを受けとるべきなのでしょうか。
それは『忠君愛国思想』に絡めとられてしまった『明治武士道』の名残をすてて、“私”に着目し“孤＝自立”を根底におく『武士道』というものだと思うのです。
そないな意味では今作品は明治武士道ではない、戦国の世と太平の江戸時代の間にある武士道を垣間見れたように思います。

元郡奉行の戸田秋谷は大罪を犯し、10年後の切腹と、それまでの間、藩の歴史である家譜の編纂に従事せよと命じられていた。
切腹の日は３年後に迫っていた。
豊後羽根藩の藩士、壇野庄三郎は、その監視役を命じられ、秋谷やその家族と一緒に暮らし始めた。
人柄も良く、ひたむきに、淡々と、仕事を勧める秋谷。庄三郎はその姿に感銘を受ける。そして７年前の「大罪」に疑問を抱き、監視の立場を超えて真相を探り始めるのだった。……ってあらすじ
ミステリー要素と、殺陣、愛、思いやり、友情、強さ、など多くが入っている作品。一言で言うと「美徳」だろうか？ラストの笑顔が心に染みます。オススメ時代劇。
まぁ多くは語るまい（笑）

Netflixにて配信開始❗️

ひぐらしのき、蜩、と読みます。
ずっと、たいのき、鯛、だと思ってた😅

役所広司が苦手なので見てなかったけど、岡田准一くん目当てで視聴。想定してたより遥かに良かった‼️

謎の事件の沙汰で10年後の切腹とそれまでの家譜編纂を命じられたかつての城主の側近とその様子を監視するよう遣わされた若いサムライのストーリー。彼もまた喧嘩の罪を赦されてる身の上。
家譜編纂により藩の秘密を知ってしまう2人の信頼関係が、藩内に様々なケミストリーを起こす。

かつての勧善懲悪時代劇はBSだけになり、血飛沫上げるガチ系か、ビジネス的ヒューマンコメディ系、参勤交代とか引越しとか財政とか料理とか、が最近の潮流。

これはそのどちらでもない不条理系だが、時代感覚的にはこれでも温情の固まりのような話なのかもしれない。

現代人的には不条理、サムライ的にはこの上ない名誉、なのかな。

奇しくも、役所は日本のいちばん長い日にて最後のサムライとも言われる阿南惟幾陸軍大臣を演じてるので、そのイメージがオーバーラップした。

関ヶ原で対決した2人が本作では、師弟関係のようになってるのが新鮮。激しくは無いが岡田准一くんのアクション俳優への萌芽も観れた。

一番驚いたのは、ヒロイン役の堀北真希、こんなに可愛いかったっけ⁉️逆思い出補正❣️
まさか、メフィラス星人に誘拐されるとは😅