映画に対してタイトルが重要な意味を持つかどうかは作品に依ると思うが、この映画の最初と最後にスクリーンに映される「悪は存在しない」という端的な宣言には、否応なくその言葉の周囲で観客の思考を歩き回らせる>>続きを読む
海辺に生い茂った植物、ススキだったろうか、その間を歩く喪服姿のリカを映した終盤のショットは息を呑む美しさだった。そこでは、対象の持つ物体としての重みが迫ってくる「近さ」から、風景としての気分の向こう>>続きを読む
ネタバレがあります。
誰かが通訳している姿を見るとき、ハラハラする気持ちがある。何かとんでもないニュアンスの伝え間違いをしてしまうんじゃないか、急に片方が怒り出すんじゃないかといった恐れや、>>続きを読む
ネタバレがあります。
“存在のゆらぎ”とでも呼びたいような何かがある。私たちにとっての世界が、その本筋から一瞬外れるような出来事である。家が突然軋んで音を立てたり、電球の光が突如強弱を繰り返して揺>>続きを読む
ネタバレありです!
この映画は私に目を凝らすことを強いてくる。クラブで暗がりから現れて蹴りを繰り出す麦をよく見ようと、目を凝らす。朝子と麦が頭からシーツを被っているとき、シーツの向こうのふた>>続きを読む
ネタバレあります。
映画における扉の力は殊の外大きい。実生活において、扉が閉まっていると、視線は遮断されるが隣の部屋で家族が何をしているかは音や匂いや振動、それらの複合的感覚としての気配からわか>>続きを読む
ネタバレあります。
ベニチオデルトロ扮するDJは吃音持ちだ。彼が発する言葉の最初の音は何重にも重なり少しずつズレて広がっている。その孤独な輪唱は、すっかり貧しいものとなってしまったスターウォーズと>>続きを読む
まず前作『ブレードランナー 』の評を貼っておく。
レプリカントを支配する液体の論理と人間を支配する固体の論理の奇妙な対立がこの映画を非凡なものにしているように僕は思う。何が奇妙かというと、従来>>続きを読む
レプリカントを支配する液体の論理と人間を支配する固体の論理の奇妙な対立がこの映画を非凡なものにしているように私は思う。何が奇妙かというと、従来、というより2017年の現在に至っても、レプリカント的なも>>続きを読む
ネタバレあり
1961年、アメリカ。三人の黒人女性が周囲に何もない一本の長い道路の上で、動かない自動車を囲んで軽口を叩きあっている。三人の名前はキャサリン・ジョンソン、ドロシー・ヴォーン、メリー>>続きを読む
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この映画においてほとんどの人物が記号的な存在に留まっている。記号とは定型であり「読まれる」べきものであり抽象であり没個性的なものである。代官は記号としての「悪いお代官様」以上でも以>>続きを読む
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聴覚を司る器官としての耳、の機能的本質は鼓膜にあるが、記号的本質は耳介にある。そのズレを見落としたところからジェフリーの一連の悲劇は始まっていた。彼は耳を拾ったと思っていただろうが実>>続きを読む
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いくつかの観点から書いてみました。
工場
作中所々で映し出される象のイメージはエレファントマンの起源に関わる悪夢であるが、加えて、象のイメージと同じくらい挿し入れられるのが工場>>続きを読む
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透明性をめぐって BABYとBATS
性善説か性悪説かという対立が昔から存在する。大雑把に言ってこの映画におけるBABYとBATSの対立がその構図に当たるように感じたのでこの>>続きを読む
睡眠欲、性欲、食欲は人間の三大欲求と言われます。この三つの内、睡眠欲と性欲は一般に隣接しています。どちらもベッドで満たされるからです。この映画ではそこに食欲も接近させられます。
最初に食と性と睡眠が接>>続きを読む
イーストウッド的な映画だった。僕の中で「イーストウッド的」であるということは良い映画だということになっているので、良い映画だった。
一度殺してしまったら以後はずっと殺人者であり続けるから、それを背負>>続きを読む
スリとは他人の無意識を侵す行為だ。スリの恐ろしさは自分の無意識をムリヤリ意識させられることにある。普通だったら意識されないまま捨て去られるある時間空間におけるサイフのあり方を意識させられる。そして、そ>>続きを読む
これは通常の意味でのチューリングテストではない。機械だと知っていて尚。という話だ。
ケイレブと一緒に僕たちも試される(試す)。映画装置のテストだ。映画は観客を究極的に没入させるイメージを作り出すことを>>続きを読む
聖域ノートルダム、パリの非合理。その聖音をパリ中に響かせる奇形の男カジモド。ジプシーのエスメラルダのような外からやってきた人々が、非合理である点で揺るがないパリを、まさにその非合理のためにズラしてきた>>続きを読む
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まずこの映画の「構造」と「内容」とに相反がある。それはこの映画の「構造」と「内容」が異なることを伝えているからだ。内容は「飛行機が落ちるのは全能の神が存在しないからだ」というセリフに集約されるように神>>続きを読む
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なぜふたりは最後に微笑み合えたのか。それはふたりが自分たちの状況を肯定できたからだ。なぜ肯定できたか。それはあの夢の解釈に依る。ふたりがあの夢を「ありえたかもしれないもの」として見たなら、現状を肯定で>>続きを読む
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夫と破局した40代のカミーユはある日、高校時代に戻ってしまう。そこで懐かしの80年代の青春を楽しみつつ、後に夫となる人物との恋から逃れようとする。でもこれがどうしようもなくってね。恋なんだから。
亡く>>続きを読む
視覚障害者の診療施設の話。主人公イアンは反響定位という方法などを用いて杖なしで生活している。イアンは施設の患者たちにその方法を教えていく。
見えない彼らは頻繁に「見る」「見える」という言い方をする。音>>続きを読む
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この映画の前に言葉を失う。もちろんどんな映画の前でもだが、特に。
それは中心がないから。日常には中心がない。すずが失った右手はもちろん絵を描く右手だ。それは大いにそうだ。しかし、失ったときその右手は「>>続きを読む
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どんなにデタラメに強いやつでも、悩みとか障害に感じるものは同じなんだなと思った。アポカリプスは何千年も何千回も人生を生きているみたいだけど、結局問題にしてるのは他者との共生の仕方。やっぱりひとりのミュ>>続きを読む
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前科三犯のエディは理由はどうあれ既に罪を犯してしまっている。それは覆せないという話。
せっかく助けの手を差し伸べてくれた神父を殺してしまう。神父の言うことが信じられない。「神父」である。神の代理者だ。>>続きを読む
僕は死が怖い。そこには死の絶対的な怖さもあるけれど、もうひとつ怖さがある。それは僕の死が当然この世界のゲームの規則に、そして僕以外のひとりひとりの人生ゲームの規則に回収されてしまう怖さだ。もし自分の死>>続きを読む
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ジョエルとクレメンタインは互いに関する記憶を消すことになる。
だが記憶を辿るうちに記憶を消すことを後悔し始める。最初は、一生懸命それを阻止しようと、ふたりの思い出の外に飛び出し抗う。しかし最後記憶が出>>続きを読む
東京の「生活保守」的リアリティがある。
彼らの底には諦めがある。バブル崩壊後の日本を包む諦め。俺たち世代を覆ってる。
本当は会おうと思えば会えたはずだし、電話やメールや手紙なんでもあった。でも始める前>>続きを読む
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なぜシドニーは狂ったか。突然「他者」に出会ってしまったからだ。
彼は拘束した現住の女性とふたりきりになると、「俺を好きになってくれ」と迫る。そもそも彼女には言葉が通じないし、嫌がっている。それでも彼は>>続きを読む
オーダーメイドの靴は、そこにない足の輪郭を浮かび上がらせる。靴をつくるには普段ぼんやりしている輪郭をくっきりと思い浮かべなければいけない。彼女を思い浮かべるのではない。身体を思い浮かべるのではない。彼>>続きを読む
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”したがって、こういえるだろうと思うんです。わたし自身の歴史的位置というのは、前衛の中の後衛だ、と。前衛であるということは、何が死んだのかを知っているということです。後衛であるということは、死んだもの>>続きを読む
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泣いたとか泣いてないとかばっかり言ってんのはダサいけど、これは終始泣き笑いながら観ていた。
空を駆けるスプートニクの映像が僕の初心を思い出させてくれる。
冷戦下、スプートニクはアメリカ人にとって間違>>続きを読む
わけわからん涙が流れるんですよね。ゴダールが天才ってことなんだろうけど。
アンナカリーナが本を投げて あなたは人生がわかってない!と言うシーンは、僕自身が殴られたように痛かった。
今日、大学生が雪崩>>続きを読む