今日の試写会は映画『おくびょう鳥が歌うほうへ』マスコミ試写。

ノラ・フィングシャイトは、『システムクラッシャー』ではすぐに癇癪を起こしてしまう重度の多動症の小学生を描いたが、本作の主人公「ロナ」はこれも重度の「アルコール依存症」。自分のコントロールの効かない人が立ち直ろうとする姿というのは、両方の作品に共通する。

青い髪色のシアーシャ・ローナンがアンニュイな表情を浮かべるポスタービジュアルは美しいが、実は髪色にその時のロアの状況が反映されている。「青い」時は”blue”。一番生活が乱れていて憂鬱な時だ。依存症からのリハビリが始まってからは、青の部分は先だけになりほとんどがブロンドで、それが時間の流れを感じさせる。

『システムクラッシャー』でもそうだったように、本作でも、「ある出会いで良くなりました」みたいな映画的なドラマはない。

何度も酒に溺れ、失敗を繰り返した過去を反芻しながら、ロナはスコットランドのオークニー諸島でひとり孤独に依存症と闘う。

本作は基本的に、原作者のエイミー・リプトロットによる自身の回想録がベース。その作者自身の投影である「ロナ」をシアーシャ・ローナンが文字通り体当たりの演技で表現した。

シアーシャ・ローナンと言えば『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』『ブルックリン』など飾り気のない良家のお嬢さんというイメージが強いが、本作ではアル中で常軌を逸した行動を取る荒れた姿を熱演。今までとは全く違うシアーシャ・ローナンが見られる。

そして、このオークニー諸島の自然の美しさが素晴らしい。海面から顔を出すアザラシなど、ロナの心を少しずつ癒し、ロナは笑顔を取り戻していく。

また、「セルキー」(ふだんは海中で生活しているが、陸にあがるときは「あざらしの皮」を脱いで人間と化すると言われている)をはじめ、度々、オークニーの伝説や言い伝えが出てくるのもおもしろい。

ラスト数分のロナの心の解放を現すようなシーンのエネルギッシュで美しいこと。さて、このシーンでロナの髪色は何色になっているでしょう？

『おくびょう鳥が歌うほうへ』は、2026年1月9日、全国順次ロードショーです。

『システム・クラッシャー』のノラ・フィングシャイト監督作。
共同脚本のエイミー・リプトロットの同名の回顧録が原作。

主人公ロナ（シアーシャ・ローナン）のアルコール依存症により失ったもの、離婚した父・母、それぞれとの関係、リハビリによる回復、故郷のオークニー諸島での父との生活、そして、風吹きすさぶパパ・ウェストレー島での孤独な生活と、RSPB(英国鳥類保護協会)の仕事を通じての自己再発見の物語。

タイトル「The Outrun」は、オークニー諸島での"外れの放牧地"といった意味でロナの父が語るセリフに出てきますが、自身の内面の酒を欲する悪魔や過去から逃れるというニュアンスを含むのだと思います。

時制がいったりきたりするのがややウザいですが、シアーシャ・ローナンの熱演とロケーションの魅力で引き込まれました。

本当にこういう役をやらせたら右に出るものはいないのではないかとおもうほどハマる。

妙なリアリティなのよ。