不条理の嵐が吹き荒れる世界で、一個人の叫びがスクリーンを通して耳奥へと直接届く作品ってとこかな。チュニジアの映画作家クリス=カウテール・ベン・ハニアが放った怪作は、劇的な脚色を施したフィクションでありながら、記録映画以上の切実さで鼓膜と倫理観を突き動かす(かもしれない)。実在の少女が最期に残した SOS の音声を軸に据え、受話器の向こう側で命を繋ぎ止めようとした救急隊員たちの葛藤を切り取った本作は、極限状態における人間性の輪郭を苛烈なまでに炙り出しています。
作品の背後にある現実の事象を語る上で欠かせないんが、少女の救助に向かった赤新月社(PRCS:Palestinian Red Crescent Society)の救援隊員たちの辿った悲劇的な顛末です。当時、激しい攻撃が続く過酷な状況下で、救急隊員であるユースフ・ザイノーとアフマド・アル=ハームディの2名は、関係各所との事前調整を経て救助の許可を取り付け、救急車で現場へと出動した。しかし、少女の待つ車両に近づいたところで救急車は直接的な攻撃を受け、隊員たちはその命を奪われることとなった。この実話は、人道支援の現場がいかに無残に破壊されているかを示す重い歴史的事実として、映画の余韻にさらなる凄惨さと問いかけを突きつけてます。