[丑三つ時に鳴る音たち]　80点

私的激推し部門ベルリン映画祭フォーラム部門での上映作品。先日初長編作『ハム・オン・ライ』が日本でも上映されたのも記憶に新しいタイラー・タオルミーナの長編二作目。時刻は草木も眠る丑三つ時。人々は眠りにつき、街は静まり返って…なんかいない。風が落ち葉を転がす音、電車の警笛、プールの瀘過器が水を吸う音、鳥の囀り、スプリンクラーの音、虫の羽音、と様々な音が鳴っているのだ。静けさの中にある小さな音たちは、誰かがいて何かが起こっている証左のようでもあり、誰もが家に籠もるという擬似的なロックダウン状態に陥った世界の希望のようでもある。起きている人間も登場するが、基本的に会話はない。それでも、彼ら彼女らの人生をすくい取るには十分すぎる沈黙がそこにはある。車の運転席と助手席に座ったカップルには気まずい沈黙が走り、夜中に起きてしまった男の目の先には描きかけの絵があり、家の中を徘徊する老婆は誰かに電話を掛けていて、起きている犬が家の中を徘徊したりテレビを付けて見ていたりしている。彼らの営みは静かで独立しているが、それら全てが繋がっているかのような不思議な温かみを持って語られ、只管に心地よい。映画館で観たら寝ると思うけど、それすらも織り込み済みで、寧ろそうして漸く映画の一部になれるような気すらしてくる。

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