記録。
「アイタイデス…」

ずっと観たかった作品をアップリンククラウドでレンタル鑑賞。原作は平山夢明。キャッチコピーは「みんな、殺されちゃえばいいのに」。

少女に対する虐待をテーマにしているだけに紆余曲折を経て世に送り出された作品。未だにソフトが流通しないような内容であることは観れば分かる。これは店頭に並んではいけない映画だ。

容赦ない作品だと思う。
重暗くて果てしなく気色悪い。主人公フミに降りかかる多方面の暴力は胸糞以外の何者でもなく、10歳の少女が背負いこむには余りある。本作はフィクションだが、現実にあり得ないとは言い切れないリアリティがまた辛い。

「無垢の祈り」とはなんて美しく尊い響きだろうと思うかもしれないが、意味する所はそんな優しいものではない。これが誰に捧げられたものであったか。祈りはやがて信じたくもない叫びに代わり、幕は閉じるのだ。

奏でられる美しくも物悲しいバイオリンの旋律は、苦々しい余韻を残しながら、この救いようの無い物語を忘れさせやしないだろう。

「BBゴローの怪演が稲川淳二の怪談を超える瞬間」

　モクモクと煙を立てる工業地帯が生活を侵食する街で、少女フミは自転車を走らす。
　学校では「オバケフミ」と呼ばれイジメられ、家には母と娘に暴力を繰り返す義父、母は現実を逃避するかのように新興宗教にハマっている。少女には逃げ場がない。

「手加減しないと観客を殺してしまう」という鬼畜系ホラー作家平山夢明氏の同名短編の映像化。全編が最恐で最凶。（良い意味で）食あたり間違いがない突き抜けた一品。
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　これは痛さを増し、社会風刺度を減らした『未来世紀ブラジル』だと思った。
　少女のいる町、川崎には長いパイプが張り巡らされ、少女より何百倍も高い工場の建物が立ち並ぶ。この閉鎖的な空間は現代の地獄、まるでディストピアのように見える。原作から学校の描写をカットした今作は、この世界に地獄以外の空間が、少女以外に無垢な存在がないのか。
　そのディストピアにいる少女は、テレビの向こう側、でも確かにここにいるはずの「ある人」の救いを求め祈った。テリー・ギリアムSFの主人公が、幻想の世界に救いを求めるように。

　モノクロのような映像に緑の光が差し込んだ美しい映像、デヴィッド・リンチ的と言っていいだろうか工業音のような心を揺さぶる音楽、文章ではこの素晴らしさ表現できない。児童ポルノを防ぐためか全編、直接的な残酷描写は少ない分、人形を使った描写が恐ろしく気持ちが悪い。
　特筆すべきはBBゴローの震えるような怪演。かつて『あらびき団』などで稲川淳二モノマネをしていたあの彼が、『冷たい熱帯魚』のでんでん、最近では『ヒメアノ〜ル』の森田剛に匹敵する狂気を持ち合わせていたとは。これには、ご本人も「DVゴローに改名したほうがいんじゃないか」と言うほど。今作の成立のカギであるクスオ役になぜ、彼を抜擢したのか、BBゴローの狂気を見抜けたのか。一観客の私には、映画の奇跡としか思えない。

　舞台挨拶にて、平山夢明氏は「クスオは偽善者だから悪い」「本当の悪に人間は惹かれるが、クスオは自分の悪を悪と認識せず、善きことと思っている。だからクズで最悪」と仰っていた。
　なるほど、人は嘘の悪、偽物の正義を嫌い、『時計じかけのオレンジ』のアレックス、『ダークナイト』のジョーカー、純粋悪に惹かれる。それは今作の少女も同じだったはず、そしてその魅力的な悪に救いを求めた。
　少女の祈りが届くと、そこは善と悪、天と地がひっくり返った世界。少女が救われた感動的なハッピーエンドなのかもしれない。

少女の祈りとは。

内容は、学校でいじめられている10歳のフミ。家庭では義父に虐待され、夫に暴力を振るわれる母は新興宗教にのめり込み、フミには心が安らぐ場所がなく、助けてくれる者もいなかった。ある日、フミは町で連続殺人事件が起きていることを知る。殺害現場を巡ることにしたフミは、そこである人にメッセージを残し……というもの。

学校でのいじめ、義父からの暴力、性的虐待、とても10歳の少女には耐えることができない環境。この絶望的な状況を重低音のBGMと共に見るため、今作を見終わった時にはどっと疲れがきて、溜息が出た。

ここまで重く、胸糞悪く、希望がない内容は初めてかもしれない。R-18なのも納得である。というより、18歳未満に見せたらどうなるのか想像もつかない。各シーンを理解することは出来るのだろうか。

こんな地獄のような環境で生きる（というより生かされている）中で、少女はどんな祈りを捧げるのか。2回目はもう見れない。