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謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス

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謎の天才画家 ヒエロニムス・ボスの作品紹介

謎の天才画家 ヒエロニムス・ボスのあらすじ

人物像の詳細はおろか生年月日も不明。現存する作品は25点のみ。その最高傑作にして美術史上最も異彩を放つのが、プラド美術館が所蔵する三連祭壇画『快楽の園』。エロチックでグロテスクな“天国と地獄”が所狭しと描かれた奇想天外な世界。ボスは誰のために、何のために描いたのか?

謎の天才画家 ヒエロニムス・ボスの監督

ホセ・ルイス・ロペス=リナレス

原題
El Bosco. El jardin de los suenos/Bosch,The Garden of Dreams
製作年
2016年
製作国・地域
スペインフランス
上映時間
90分

『謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス』に投稿された感想・評価

kuu
3.6
『謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス』
原題または英題 El Bosco. El jardin de los suenos/Bosch, The Garden of Dreams
製作年 2016年。上映時間 90分。
映倫区分 G
製作国 スペイン・フランス合作

ブリューゲル、ルーベンス、ダリ、マグリットなど、多くの画家に影響を与えたとされながらも、多くの謎に包まれた画家ヒエロニムス・ボスに迫るドキュメンタリー。

※感想文に誤りがあるかもしれませんが、浅学ゆえの過ちとお許しいただき、笑い飛ばしていただければ幸いです。

ヒエロニムス・ボスの個人的に惹き付けられる魅力は、日記や手紙といった、本人の生の声が一切残ってなくて、その奇想天外な作風と人物像のギャップが謎に包まれている点にあります。

​美術史には、彼と同じように作品は超一流で有名やのに、画家の生涯や内面、あるいは技法のルーツが空白だらけっ!なんて謎多き天才たちが存在する。
ボスの謎の多さと共通する背景を持った画家で一番に思い出すんは、私生活も思想も空白の国民的画家・ヨハネス・フェルメール(1632–1675 / オランダ)かな。
『真珠の耳飾りの少女』とか映画にもなった絵画作品を描いた世界的に有名な画家は、実はボスに匹敵するほど分かっていない画家です。

​何が謎なんか?って云うと、彼もまた死後200年近く歴史に埋もれてた。
手紙や日記、本人の素描(デッサン)すら一枚も残ってなくて、既婚者で子供が11人もいたことや、借金に追われていたちゅう事務的な記録とかはあるけど、彼がどないな文学を読み、どんな思想を持ってあの日常の何気ない一瞬を、光の魔術によって永遠の静寂に昇華させ空間を描いていたんかは完全に空白です。
また、カメラ・オブスクラ(光学的な投影装置)を使っていたちゅう説もあるけど、その制作プロセスの確証も得られてない。

​あと、ジョルジュ・ド・ラ・トゥール(1593–1652 / フランス)もいるかな。
ボスと同じく、驚くほど記録が少なく、死後は完全に忘れ去られていた画家で、20世紀に入ってから再発見された。
何が謎なのかって云うと、暗闇の中に浮かび上がる蝋燭の光(テネブリズム)を描いた傑作を多く残してるけど、彼がどこでこの洗練された技術を学んだんかが分かってない。
当時流行していたカラヴァッジョの作風に酷似してるけど、ラ・トゥールがイタリアへ留学したという公的な記録は一切ないし、極限まで単純化された厳かで神秘的な構図が大きな特徴で、どこか宗教的な救いを感じさせる光を描いた画家やけど、残された数少ない地方の裁判記録などによると、本人はかなり強欲で、近隣住民とたびたびトラブルを起こす傲慢な人物やった可能性が浮上してて、その内面の謎が深まってる画家です。

​滑り出しそうそう長くなりましたが、今作品のドキュメンタリーの主人公に入り、中世に活動し、1516年に亡くなったオランダの画家ヒエロニムス・ボス。
生年月日、人物像の詳細も不明で、現存する作品は25点のみ。
プラド美術館が所蔵する三連祭壇画『快楽の園』は彼の最高傑作とうたわれ、天国と地獄が所狭しと描かれたエロチックでグロテスクな奇想天外な作品は世界美術史においても異彩を放んでます。
今作品はプラド美術館全面協力のもと、美術、宗教など各方面の識者が悪魔のクリエイターと呼ばれたボスの思考や人物像に迫っていく構成になってます。

​でもまぁ、興味がある方は、そこは本編でじっくりご覧いただきたいです。
今回の感想文はそのヒエロニムス・ボスを愚かな知識しかない小生の独自の視点を書きたいです。

​今作品が映し出したのは、どこまでもきれいに整理された、利口な謎解きでした。
けど、見終わった小生の胸にちくちくと刺さったんは、画面の奥から漂ってくる、もっと生々しくて冷え冷えとした人間の気配。

​ボスちゅう男は、当時の町で一番の優等生であり、おまけに金持ち。
教会のために真面目に働き、近所でも評判のまともな大人やったわけで、そんな男が、夜な夜なアトリエで、あんなにドロドロした地獄や、裸の人間がイチゴに群がる狂気の世界をせっせと描いていた。
この強烈な裏表にこそ、ゾッとするような人間の本質が隠れている気がします。
彼は頭がイカれた狂人なんかじゃぁなく、むしろ、昼間に周囲のいい人たちの顔をじっと観察し、その裏で渦巻いている嘘や、誰にも云えへんドブ川のよな欲望を、ただじっと見透かしていただけやったんちゃうかな。

​人間には誰しも、社会に適応するために作り上げた外面としてのペルソナ(仮面)と、その裏側に押し込めて隠した、自分でも認めたくない泥臭い本音や攻撃性といったシャドウ(影)がある。
ボスは、町の人間たちが必死に繕っているその仮面の下を透視するかのように、誰もが目を背けたがる影の部分だけを、キャンバスの上に引きずり出して並べてみせたんやないかな。

​ここで少し深読みをするんなら、ボスがあれほど細部を精緻に描き込めたんは、彼自身が周囲の人間を憎んでいたからじゃなく、むしろその醜さも含めて、他者を猛烈に愛おしい観察対象として凝視していたからやないかと愚かながら思う。
人への絶望と執着が表裏一体になった、冷酷なまでに純粋な視線がそこにあります。

​ボスが描いたあの奇妙な楽園では、誰もが服を脱ぎ捨てて、実体のない快楽に夢中になってる。
これは、500年前の異国の話じゃなく、いまの我々の姿そのもので、我々は幼い頃、鏡の中に映る自分の姿を見て、それが自分という独立した存在だと認識し、そこから他人の目を意識する自己愛を育ててく。

​ボスの絵で裸で踊る人たちは、まさにその自己愛の檻に閉じ込められ、他者からどう見られるかという虚栄心や、満たされることのない原始的な本能に振り回されている状態で、SNSで自分の虚栄心を膨らませたり、他人の目を気にして一喜一憂したりする、あの虚しい空回りと同じ匂いがします。

​そして、右側の地獄の絵に移ると、そこはもっと容赦がなく、人が自分で作った楽器に押しつぶされ、鳥の怪物に食い散らかされる。
つまり、自分が楽しむために生み出した道具に、今度は自分が振り回されて自滅していくって、いやはや、なんとも皮肉で哀れな人のサガが描かれています。
これは、自分が抑圧し、コントロールできていると思い込んでいた欲望(シャドウ)が、逆に主人の座を奪い取って暴走し、自分自身を精神的に食い尽くしていくプロセスそのもの。
神が世界を仕切っていた古い時代が終わり、人間が自由に生き始めた途端、自分の心のコントロールが利かなくなって自爆していく。
ボスは、人間が自由と引き換えに抱え込むことになる、この深い孤独と不安を、誰よりも早く予言していたかのよう。

​さらに、そのさらに踏み込んで読むならば、ボスが右翼の地獄に自ら作り出したはずの音楽を拷問の道具として描いたのは、彼が芸術そのものの持つ人間を狂わせる魔力を恐れ、同時に強く魅了されていた自己矛盾の告白だったのかもしれません。

​どれだけネットで検索しても、ボスの本音を書いた日記なんて一つも出てこない。  
けど、だからこそこの絵は、500年経ったいまも色褪せないお化けのような魅力を放ってるように思えてなりません。
もし彼がこれはこういう意味ですヮ、なんて云い残しとったら、この絵はただの古い教科書になっていたに違いない。
彼が何も語らずに消えてくれたおかげで、小生はあの怪しげな絵の前に立ち、自分の中にあるドロドロした部分と、いや応なしに向き合わされることになった。

​その意味ではバンクシーも同じやけど、バンクシーがストリートの壁に突故として現れ、現代社会の歪みや政治的な欺瞞をゲリラ的にあばき立てていく仕掛け人やとするなら、ボスは500年もの間、同じ場所から一歩も動かずに人々を待ち受け、静かに狂わせ続ける呪いの装置のようなモンかな。

​どちらも、自らの素顔や本音という正解をあえて隠すことで、見る側にすべての解釈の責任を丸投げし、我々の良心や底意地の悪さを試してくる点では見事なほど一致しています。
バンクシーの仕掛けが、いまの高度資本主義や消費社会の浅ましさを笑い飛ばす現代の風刺画やとすれば、ボスが遺した罠は、時代がどれほど変わろうとも決して変わることのない、人間の脳みその根底にあるドロドロした本能そのものを標的にしていると云える。

​彼らが何も語らないんは、我々に親切な解説を与えるためやなく、我々の内側にある言葉にならない感情や、普段は必死に隠しているドブ川のような本音を、勝手に溢れ出させるための最も残酷で効果的な方法やからかな。
​正体不明の表現者の前に立たされたとき、我々は作品を見ているつもりが、実は自らの影をさらけ出し、自分自身の底の浅さを試されている。バンクシーがストリートの壁を借りて仕掛けた現代のゲームも、ボスがプラド美術館のキャンバスに仕込んだ終わらない罠も、結局は同じひとつの結論に突き当たり、それは、彼らの空白を埋めようと必死に言葉を紡げば紡ぐほど、我々は彼らの術中にはまり、自分という人間の正体を世間に告白させられているのんやと云う、なんとも痛快で恐ろしい事実。

​音楽や音響の世界に生きる表現者たちの中にも、自らの正体を空白にすることで、聴く者の心をざわつかせ、内面をあばき立てるボスのような存在がいるかな。

例えば、正体不明の覆面ユニットであるレジデンツ(The Residents)や、初期のダフト・パンク(Daft Punk)、あるいは日本のEveやAdoのように、ビジュアルや素顔を完全に隠して活動するミュージシャンたち。

彼らが名前や顔を明かさず、私生活を一切語らないんは、単なる話題作りのビジネス戦略だけじゃなく、彼らが空白でいてくれるおかげで、聴き手はアーティストちゅうフィルターを通さずに、その不気味な旋律や剥き出しの言葉と一対一で対峙することになり、まるでボスの地獄の絵を前にしたときのように、我々は流れてくる音の中に、自分自身の孤独や、普段は抑圧している生々しい感情を勝手に投影し、引きずり出されてしまうのが一つにはあるんちゃうかな。

​また、また、クラシックの歴史に名を残す巨匠たち、例えばモーツァルトの『レクイエム』や、曲ではないがベートーヴェンが遺した謎のラブレター『不滅の恋人』の存在も、この系譜に連なるかもしれない。

彼らがどのような切迫した精神状態で、誰に向けてその想いや音を紡いだのかという決定的な動機(正解)は、歴史の闇に消えてしまっています。
やからこそ我々は、その手紙の背景を探り、美しくも狂気を孕んだ旋律やらを聴くたびに、彼らの人生の空白を自分の心で埋めようとし、結果として自分自身の悲しみや救われたいという切望を、その音楽の中に映し出してしまうってこともあるんちゃうかな。

バンクシーが街の壁に、ボスがキャンバスに罠を仕掛けたように、彼ら音楽家たちは音という目に見えない媒体を使って、我々の無意識に揺さぶりをかけてきます。
表現者が自らの本音を語らずに消えてくれるからこそ、その音楽は単なるBGM(背景)になることを拒み、聴く者の心を映し出す剥き出しの鏡として、何年経っても我々を狂わせ、魅了し続けるのだと思います。

​今作品のドキュメンタリー映画ではこれは鏡やと云いましたが、そんな綺麗なモンじゃなく、投影、つまり自分の心の中にあるやましい気持ちや不快な衝動を、無意識のうちに他者や外の世界に見出してしまう心の防衛反応を、ボスはこれ以上ない形で利用してます。
あの絵は、我々の心の奥底にある、普段は見ないように蓋をしている生々しい本音を、無理やり引きずり出してくる罠とも云え、奇妙な怪物たちを眺めて面白がっているつもりが、気づけばボスの冷ややかな視線に、自分自身の浅ましさを見透かされている。

​最後にひとつ、決定的な深読みをするなら、ボスが何も書き残さなかったんは、偶然ではなく確信犯的な罠やったんやないかということです。
彼は自分が死んだ後、何百年もの間、人間たちがこの絵の意味を巡って右往左往し、勝手に自らの内面を暴き出していく姿まで、あの冷ややかな目で予めて計算し、ほくそ笑んでいたに違いない。そんな終わりのない不気味な心地よさに、小生はすっかり囚われています。
山D
3.0
現存する作品はわずか25点。謎の天才画家ヒエロニムス・ボスの創造の世界とその謎に迫るアートドキュメンタリー。
本作はヒエロニムス・ボス像の詳細を完全に解き明かすわけではなく、謎を深めること自体をテーマとしている。そのため、ボスや代表作『快楽の園』の基礎知識がない状態で観るとやや敷居の高さを感じた。
観る者自身の想像力を試すような余白の多さを持つ作品。
3.6
ブリューゲルとボスの作品が好きだったのですが、私が初めてボスの絵画を見たのが小学生の頃。
その摩訶不思議な世界観に引き込まれたが、時は経ち忘れてしまった、、大人になって蔦谷でまた画集を見つけて再び再燃したので、どっぷりとこの「快楽の園」の謎に迫ったドキュメンタリーに酔いしれる。

正直言うとアカデミックな人々がなんやらかんやら各々の意見を熱をこめて語るこの感じ、もっと静かにじんわり味わいたかった私としてはちょっといただけなかったけど、分かったこと。
それは、この作品は老若男女問わず、国籍も時代も宗教さえも超えて人々を魅了するとんでもない時代を超えた宝石。

100人いたら100通りの物語が紡がれる。
まるで本をめくるように扉が開かれるとワクワク心を踊らせる。
宗教の世界の照らし合わせたり
歌を歌いたくなったり
自分と似ている人物を必死で探したり
謎大き天才画家はその絵具のレシピまでも明かさずこの世を去る。
なぜ、どのような意図でこの「快楽の園」を作り出したのかはだれも知らない。
何世紀にも渡り、この絵画の正確な解釈は明かされない。
もしボスがいま現代の人々さえも魅了していくために、この絵について多くを語らなかったとしたのなら本当に天才だ。

罪と善、天国と地獄、愛と欲。
人間のあらゆる所業を散らばせて、今の私はこの絵の何処へ・・・たまに思いを巡らせるのも楽しい遊び方かもね。

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