ボタニカルでエスニカル、それでいてエッジィで微かな毒のエッセンスもある。
ドリス・ヴァン・ノッテンの作り出す世界にはいつも圧倒される。

私はファッション業界に長くいたのでらデザイナーのドキュメンタリーを観るのは好きなのだけど、ファッションドキュメンタリーを見たことによって初めてデザイナー自身をこんなに好きになったのはこれが初めて。

大体のデザイナーのキャラクターは多かれ少なかれ、最初に「個性的」という言葉が思い浮かぶけれど、なんというか・・・彼は想像以上にとてもノーマルでソフトな人柄なのだ。
でも作品を作り出すその工程はとてもアーチスティックで彼の作り出す作品に一貫したストーリー性を感じるのはこういう考え方のおかげだったのかと納得させられた。

作り手の生活まで考える。
彼はどこまでも繊細で真面目でなによりも品がある。
苦労してきた人だから作り出すデザインもこの世にはたくさんあるが、服に囲まれた家で生まれて、着実に、学び、成長しながら世に出た彼の作品だからこそ作り出す世界に私は虜になった。

ライフスタイルまでとにかく好き、事務所も去ることながら、おうちがカッコ良すぎるではないか！
ターシャ・デューダのような野性的で美しいガーデンと、お城のようなお屋敷。

クラシカルな世界で穏やかさ満ちたエレガントな私生活と、モダンで緊張感に満ちた刺激的な仕事時間。
この緩締の繰り返しが彼の素晴らしい作品の源になっているのかなと感じる。

最高齢のファッショニスタ　アイリス・アプフェルは言った。
「彼のようなデザイナーは他にはいない。」

私はすべてのデザイナーについてよく分からないのに、ふと、そうなのかもしれないとその言葉を信じられた。

ファッションドキュメンタリーというと、その人物を追い続けて、キャッチーに作ってる作品が多いけれど、こちらはドリス自身が多くを語り、彼のフィロソフィーが存分に堪能できて感無量。
例え彼の作品に興味がなかったとしても、なんらかのインスピレーションは言えられるはず。
だからファッションを学ぶ人やデザイン関係のお仕事の人たちにはぜひぜひ観てほしい作品でした。

この業界のゲイ率高過ぎでしょ。
シンプルを極めると同性のほうが自然なのか。。。

花を愛する点もデザイナーの共通。。。

このデザイナーは柄と柄を自然に合わせたり、組み合わせを楽しむ。
時代も流行りも関係ないと言い切る彼の作品には安心感があります。

自由なクリエイションのためにスポンサーを持たないデザイナー、ドリス・ヴァン・ノッテン。

名前しか知らなかった偉大なデザイナーだけど、ご本人はラフなシャツ姿の極シンプルな出たちで落ち着いた雰囲気。ビジネスマンのようにさえ見えて、あまりデザイナーという感じがしないが、極みを知り尽くす上品な紳士。

「"ファッション"は虚しい言葉、とにかく嫌い。"ファッション"と呼ばれるものは半年で寿命が尽きる。もっとタイムレスな言葉で表現したい」と語る。

ドリスは色バランスやサイズが完璧に計算されているものを作り出す。
　　
スタッフが言う。
「彼は両極端なものをよく組み合わせる。例えばバロック調モチーフにマンガを合わせて対比させ、さらに別の要素を...時代も同列に見る。中世ルネサンスも彼には現代と同じ。上や下、前や後といった区別をしない」
常に頭の中はイメージが広がり休まることがない。

ドリスは「2001年、秋冬コレクションでは学びがあった。当時はモードが激変。巨大グループ企業がブランドを次々買収し、マックィーンもジル・サンダーも身売り、ファッションは冷たくなり、モデルから笑顔も消えた。辛い時期を超え、これまで通り我が道を行くと決めた。キチンと作られ、着てリラックス出来る服を」と困難を乗り越えて自分らしさを貫く決意をしたと。


プライベートが素敵。30年程に渡る揺るぎない信頼と愛情を持ち続け、長年共に暮らすパートナー、パトリックの存在。仕事と家庭も彼の支えがあってこそと言い切る。

自宅は広過ぎる敷地、まるで森を抱えているようだ。
庭園関係者と綿密に計画して造る、それも大切なライフスタイルとなっている。好みの樹々、花々がふんだんに広がっている。それを長靴を履いて出掛け、花を色バランス良く手折って来ては、フラワーアーティストのように部屋を飾り付けていく。
カーテンの色や椅子の色合いに合わせた花を飾るのは流石にセンスが溢れていて目の保養だった。

2人の暮らしに手抜きはしない。家事も庭仕事も全力で取り組む。
花を眺めて手作り料理を食べる。
笑顔で過ごすことを心掛けるが時にしかめ面も。お互い細部にこだわる性格でそこが少々面倒だと（笑）

自分を病的な完璧主義者と言う。
ショーの後はミスをどっさり見つける。おかげで暗くなるけど、性格だから仕方ないと。


ファッションアイコンのアイリス・アプフェルが言う
「ドリスのようなデザイナーはもう他にいない。皆、絶滅した。新規の補充もない。だから私にとって彼は宝物なの」
その言葉がラストを締めて、何よりもドリスの素晴らしさを語っていた。